異変
学園内が一斉仮装の日で盛り上がる少し前、学園外の国際情勢では、変化が起きていた。
数ヶ月、音信不通となっていたファケレ国から連絡が来たのだ。
魔物に落とされたのでは?と噂があったため、ファケレの隣国や周辺集落からは、安心の声が上がっていた。
そんな中、久しぶりに国家間会議に参加したファケレ国王は、愛する人を失い、憔悴した状態だった。各国の代表も、その事実に心を痛め、沈痛な面持ちで声をかけていたのだが、2回目の参加の時には元気を取り戻し、3回目の会議には、
「魔物対策のため、太陽の剣を見つけておくこと必要だ」
と、言い始めた。
属性星が5つ並んだ今の状況と、言い伝えとを照らし合わせれば、そう遠くない未来に、魔族の襲撃がある可能性が非常に高い。現時点でも、各国に魔物の目撃情報は上がっているし、多少の被害だってでている。勿論、各属性魔法や剣術でも魔物と戦うことは出来るが、魔族が出てくるとなると、その強さに対抗しうる特別な武器や魔法が必要となる。
この世界の創造主が姿を変えた剣、太陽の剣は、1000年に一度の魔族との対峙のため、誰にも知られない場所で世界中の様々な力を蓄えている、と言われている。
そんな特別な剣のある場所には、通常、ラソ教の教皇と学首しか辿り着けない。それ以外に辿り着ける可能性があるのは、有事の際の使い手か、伝説の2人の乙女のみ、とされているのだ。そして、太陽の剣の使い手は、女神の子孫の男子、とされている。
時代により、国の名前が変わろうとも、ソール神の血縁は、現代のクレオチア大国へと繋がっている。直系の男児がいなければ、分家から、となるが、幸い今代には直系の王太子がいる。だからこその発言なのだが…。
「ファケレ国王、貴方の国がより多くの魔物に侵されて苦労したことは分かるが…あの剣はそう見つかるものではない。有事の際でなければ、使い手である者でも見つからないだろう。」
クレオチア大国の王、アレンが言う。
「ならば、ラソ教に協力を仰げばいいではないか。」
ファケレ国王の言葉に、各国の代表たちも顔を見合わせている。各国の代表の顔色を見る限り、ファケレ国王の意見にやや同意気味のようだ。
全体を見回した後、ひとつため息を吐き|アレンが言う。
「…他の国の方々の意見もそれに近しいようだな。…仕方ない。これ以上話をしても意味はないだろうから今日の会議はここまでにしよう。…次回の会議に教皇、もしくは学首殿に同席いただくよう親書を送っておく。皆様、それでどうだろうか。」
アレンの言葉に、各国の代表は頷いた。ただ一人、ファケレ国王だけが納得できていないようだ。退席の際、
「何故、ここで決められない?各国の王の意見が纏まれば、いくら独立したラソ教教皇だとしても従うしか無かろうに…。まったく、重要な決断も出来ない王が女神の子孫だとはな!!」
と、吐き捨てるように言う。それを王の傍で控え聞いた、クレオチア大国の王室第1近衛騎士団団長にして国王の王弟、グラハム・フーリンクは、「何を‥!」と言い返しそうになっていたが、アレンに止められていた。
その様子を横目に、ふんっ、と、鼻を鳴らしてファケレ国王は部屋を後にした。
会議室に2人きりになると、
「何なのですか?アレは…。先日までの王妃をなくして憔悴しきっていた王とは思えないのですが…。」
と、兄であるアレンにグラハムが言う。
「そう思うのは仕方ないだろうな。でも、今はまだ我慢の時だ。」
そうアレンが返事をした時、コンコンコンとドアを叩く音がした。
アレンがグラハムを見上げると、グラハムは頷き、ドアの前まで歩みを進め、
「…入れ。」
と、返事をした。
ドアを開けて入ってきた第1近衛騎士団の団員が、グラハムに耳打ちをすると、グラハムの顔が見る見るうちに変わり、報告に来た団員に一言、
「分かった。ご苦労。」
とだけ言い、下がらせた。
ドアを閉め、ため息を吐いた後、グラハムがアレンの元へと戻る。
「どうした?頼んでいたあの件、か?」
「…はい。」
「口が重そうだな、何があった?」
「…調査のため、…表向きは魔物討伐の手助けとしてファケレ国に送った団員が…全員、消息を絶ったそうです。」
「っ!!!」
ガタン、と音を立てて、アレンが立ち上がる。
「送った団員は、第1近衛騎士団管轄の者たちだと言っていただろう?それなのに、何故?」
「ファケレ国に入国し、1週間は確かに付近の魔物討伐の状況と規模の連絡を受けておりました。ですが、本来、報告が来るはずの昨日、報告が無かったので、魔法省に依頼し、魔法で探っていただいていたのですが…。」
「…見つからない、ということか?」
「辿るための、剣に埋め込んだ魔法石が…一か所にまとまって置いてあるのが見つかっただけでした。」
「その場所は何処だ?」
「ファケレ国の一番北にある、洞窟の周辺だったそうです。そしてその付近では戦った形跡も無い、と。」
「…討伐隊は…何人だ?」
「騎士団所属が10名、見習い剣士が20名ほどだったかと…。」
「……。取り敢えず、『殉死』という報告ではないのだな?『消息不明』ということであっているか?」
何かを考え込みながら聞くアレンに、
「はい。」
と、グラハムが返事をする。
アレンは黙って少し考えた後、
「…グラハム、部下が不明で心配だろうが、その確認も含め、リストランド卿と急ぎ連絡を取るぞ。」
「…はっ。」
グラハムの返事を確認した後、アレンは会議室を後にしたのだった。
おじ様しか出ない回です。すみません…。




