同刻~ファケレ~
――その頃のファケレ国――
「ただいまぁ…。」
気怠そうに、羽男…もといペルプランが血だらけの状態で、ファケレ国王城の玉座の間に入って行く。
玉座には、プルクーラが座し、その足元に、王太子とその側近達が傅いていた。
それを見たペルプランは、
「あれ?王様は?それに側近達と…王妃も見てないけど…?」
「ふんっ、王と側近は邪魔だし美しくないから、牢屋に入れてやったわ。王妃は…うふっ、食べちゃった♪もう最低限の魔力は奪ったから用無しだもの。」
「えっ…王妃、食べたの?ずるっ!…いつ?」
「貴方が出て行ってすぐ、かしら?。」
「え~…俺も食べられればこんな傷、すぐに回復出来たかもしれないのに…。」
「そうね、でも、貴方がそんな傷だらけで帰って来るなんて思ってなかったもの。…王妃、わたくしを貶めようとしたのよ?だから食べてやったわ。でも、王妃は、運が良いわ…わたくしの美しさの一部になれたんだもの。」
恍惚とした顔で天を仰いだかと思うと、急にペルプランに顔を向け全身を眺めた後、プルクーラは顔を顰めて玉座から降り、ペルプランの元に近づいてきた。
「ところで、その傷は?…一体、誰にやられたの?」
と、血がついた頬を撫でながら、労わるように、しかし言葉には威圧を込めて言う。ペルプランはその手を、軽く払って答えた。
「あぁ、邪魔者をちょっと、ね。殺せなかったのは残念だけど、多分、暫くは動けないと思うから。」
「何よ、その邪魔者って。…リリー・グレシャ?」
「いや?」
「じゃあ誰よ。…まさか…王太子とレグルスじゃないでしょうね?」
「まさかぁ!俺、男は趣味じゃないし、プルクーラの獲物だって理解しているから大丈夫。まぁ、ちょっと邪魔されちゃったけど、奴らには傷も負わせていないよ。」
「そう…、じゃあ誰?」
「うーん、男って言えば男なのかな?俺のモノを横取りした妖精だからね。」
「妖精?それはまた珍しいものを…。で、その妖精にやられた、なんて言わないわよね?」
「いや、その妖精と戦ってきたんだけど?」
「はぁ?妖精って、あのちっさくてフワフワしているアレでしょ?…魔族の、しかもあの方の復活のために、魔力を集めているお前が、妖精ごとき相手に何でそんな傷を負うわけ?!」
「いや、それがさ、妖精のクセに人型を模すことが出来る奴だったんだよ。…魔力もそれなりに強かったから…もしかしたら妖精王かも知んない。」
「っ!妖精王?…噂でしか聞いたことないけど、いるの?」
「分かんない。」
「ペルプランっ!ふざけないで!!」
「あはは!冗談だよ。妖精王とは言っていなかったから、違うと思うよ。ただ、突然変異なのかな?俺が知るその辺にいる妖精とは全く違ってて…強かったんだよね。」
「…それで、どうしたの?」
「殺したかったんだけど、何かに守られているみたいで、どうにも死なないんだよね。仕方ないから、弱らせて呪ってきた。邪魔もされたし、後々、もっと邪魔になりそうだったからね。当分は、というかもう目は覚まさないかもね。リリー・グレシャの光魔法程度じゃ目覚めさせることは出来ないと思うし。」
「ふ~ん…。ねぇ、その妖精にされた邪魔って、何?…何をしに何処に行っていたの?」
「あれ?言わなかったっけ?ほら、今日は学園の武術大会だったろ?強い奴がいたら面倒だからさ、様子見に。そこでさ、魔力が込められた銀髪を手に入れたんだ。魔力集めになると思って…。そしたら妖精、俺から銀髪を奪って行ったんだよ。だから呪ってやったのさ。」
「…そう…分かったわ。取り敢えず、その顔の傷を治さないとね。」
プルクーラはそう言うと、両手でペルプランの顔を包み、傷を負っているヵ所を次々とペロペロと舐める。すると、傷はみるみる塞がり、外傷は全く無い状態になった。
「これでいいわ。…でも、治癒に魔力を使ったから…その分をまた溜めないといけないわね。…本当にこの国の人間は魔力が弱くて集めるのが大変なのよ。…いっそ、クレオチアやセイグリットを拠点に出来れば良かったんだけど。」
「いや、あそこは俺たち2人だけじゃ無理だろ?…クレオチアは女神の子孫だし、セイグリットは例の剣に守られている中心地なんだから。2番目に大きな国、オセアノは過去に魔物と結ばれたことがあるせいで、魅了が効かないし。…王侯貴族が欲にまみれていてくれるなら落とせるだろうけど、オセアノを下見して無理っぽって判断したじゃん。だからその次に大きな国のファケレを拠点にすることにしたんだろ?」
「分かってる。分かってるけどっ!…そのせいで魔力をため込むのに、時間がかかるのよ…。」
「時間がかかるって言えば…ファケレ王を傀儡にするために、暫く、音信不通にしてただろ?そのせいで、近隣各国から『ファケレ国は魔物に落ちた』って噂されているみたいだけど?」
「道理で…人の行き来が減ったと感じたのは気のせいじゃないのね…人の行き来が無いと魔力集めに手こずるわ。…仕方ない、牢屋から王を出してきてもらおうかしら。…ねぇ、王太子殿下。」
プルクーラがゆっくりと振り返りながら、玉座の椅子の足元に跪く男性に声を掛ける。
「あぁ…プルクーラ。やっと私の名を呼んでくれたね。」
レバントと呼ばれた男はうっとりとした目でプルクーラを見つめながら近寄ってくる。
「ふふ、わたくしのお願いを聞いてくれるかしら。地下牢に閉じ込めている、王をココへ連れてきてくれない?…そうそう、汚いままじゃ嫌よ?綺麗にして…そうね、ちゃんと王様の服を着せてあげてね?」
「分かったよ、任せておくれ、私のプルクーラ…。それじゃあ行ってくる。」
レバントはプルクーラの手の甲に、ちゅっ、とキスをして、玉座の間を後にした。
「…すっかり傀儡だな。」
フラフラと玉座の間を後にするレバントの後ろ姿を見て、ペルプランが言う。
「当然でしょ?このわたくしが!…学園に入るより前からココで魅了を掛け続けているのよ?」
「でもさ、王を牢から出してきてどうするつもりなんだよ?」
「勿論、各国で集まって色々と話し合っている会議に出席させようと思って。折角だから、会議の情報も手に入れておきたいしね。」
「成程…もうあそこまでなったら、遠く離れても魅了は解けないだろうし。…それにしても、今代こそ制圧出来るんじゃないか?光魔法の使い手が、あの程度の魔力で本当、大助かりだよ。」
くすくすとペルプランが妖艶な笑みを浮かべ笑う。
「ホントね。…でも、油断は禁物よ?…ソールの剣は相変わらず何処にあるか分からないし、リリー・グレシャが暁の女神役だというなら、今後、何かに目覚めるかも知れないじゃない?」
「…人間の魔力って、突然目覚めるもの?生まれ持ったものじゃなく?」
「そんなの知らないいわよ。わたくし達は人間じゃないんだから。…前回の時はまだわたくし達は生まれていないし…。聞いた話じゃあ生まれ持ったもの、らしいけれど。」
「なら、心配ないじゃん。それより、ソールの剣を早く見つけないと…。ソールの剣を見つけるには、やっぱり教皇か学首に魅了をかけるしかない?…あ~…でも、魅了を掛けた時点で地位を剝奪されるとか…学園の歴史学で学首が言ってた気がする…。」
「それじゃ意味ないじゃない。…この世界の、どこかの洞窟にあるのよ。問題は何処の洞窟か、だけど…。」
「…ファケレは全部?」
「探したわ。だけど無かった。」
「じゃあ、テーレの洞窟を探す?『使節団″』とか、言い訳作れば行けんじゃない?」
「それっ!良いじゃない。折角、王を会議に行かせるんだもの。ついでに、洞窟探しの時にペルプランが同行すればいいわね。ナイスな案よ?ペルプラン、流石ね。」
そう言って、プルクーラはペルプランの頭を撫でる。
「…褒めても何も出ないけど…。それより、どうすんのさ、音信不通にしていた理由を。」
「そうねぇ…。」
暫く沈黙した後、プルクーラが言った。
「…王妃を使いましょ。幸い、ファケレ国の王と王妃は仲睦まじいで有名だったから、『王妃が病に臥せってそれどころじゃなかった』そしてその後、『死んで無気力になった』でどうかしら?」
「うーん…国の大事を疎かにする理由としては弱い気がするけど…。それより、内乱があった、とかは?」
「それじゃあ、他国が全く知らないなんて余計おかしいじゃない。『傷心の王』の方が素敵よ。」
「…まぁプルクーラが良いなら良いけど。だけどさ、傀儡状態で出来るわけ?」
「傀儡だもの、如何様にもできるわ。…わたくしの思う通りに…ね。」
今度はプルクーラが紅い瞳を輝かせ、妖艶に微笑んだのだった。




