第9話「決死の猛攻←ボクにやれることとは?」
前話の続きです。
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神城禍矢は信じられないという表情を浮かべながら椅子から倒れた。
銃創より溢れ出る血液によって意識が遠のいていくも、残った思考能力をフル回転させてフロストに問う。
「な……なぜ……。なぜ、私を……!?」
手当てなどどうでもいい。
それほどまでに、フロストがどうして自分を撃ったのか気になっていた。
「あなたでは役不足だからですよ。この先に踏み入ることができるのは、『VR適正』を備えた人間でなくてはならないのだから」
「な……!?」
「復活して間もない『我々』が活動するためにはパトロンが必要でしたからね。その点、あなたには感謝していますよ。神城家のためだといえば、あなたは惜しみもなく金をつぎ込んでくれましたから」
「我々だと……?」
「『シュヴァルツ』。AR適正を身につけた有志が創設した犯罪組織、と世間からは言われていました。新世界を作るべく世界各国からAR適正が芽生えた人間を集めるのが目的で、最後の仕上げとしてニーナ・セイントルウブを頂こうと暗躍していたのですが、憎きブラック・ミストに阻止されましてね。最終的には同志の殆どが殺されました。───が」
フロストは容赦なく禍矢を傷を革靴の踵で踏みつけ、苦悶の声を上げる禍矢を見てニンマリと笑った。
「数十年の時を経て奇跡的に復活したのです。そして世界を統べるべき我々に神がチャンスをくれたのか、神城凪佳という第2のニーナ様を現世に降臨させてくれた。これほどまでに理想的なシチュエーションはこの先訪れないでしょう。そこで私が神城家に潜入し、アイギス社にいる仲間が研究中だったネガを生成できる自立思考型AI『アサルト』をわざと逃がして、イージス・ユートピア内にネガを作らせたというわけです」
「あがっ……!私が聞いた情報とは……!」
禍矢は激痛に喘ぎながらも、フロストの説明に応じた。
「当たり前です。あなたに本当のことを教えたら反対するに決まっている。野蛮で生きる価値のない旧時代の人間を捨て、VR適正に特化した新時代の人間のみをターゲットとした世界を作るなんてね」
「セイントルウブ家が目指していたのは、全ての人間が平和に暮らせる世界……!そのために私は、アイギスの裏で動いているという連中に資金を……!」
「だから感謝していると言っているでしょう。何度も何度も恩着せがましい人ですねぇ!……もはやあなたに存在価値はないのです。一人娘であり、神城家の財産でもある凪佳お嬢様は私が頂いていきますので、どうぞ安心して死んでください」
フロストは憂さ晴らしと言わんばかりに傷を抉っている足に更に力を入れ、禍矢の悲痛な叫びが部屋にこだました。
「早いところ凪佳お嬢様を回収せねばなりませんが、その前に」
椅子に座っていた裕次に銃口を向けた。
間髪入れずにトリガーを引くと、一発の弾丸が発射される。
「目撃者は皆殺しに……。なにッ!?」
確かに銃弾は裕次の額を貫通した。
普通ならばそのまま倒れ、後悔の念を抱いて息絶えるのが一般的だ。
だが何故か裕次は平然と椅子に腰掛けたままで、足を組み直して鎮座していた。
「貴様、何者だッ!?」
「誰と言われても……。私は嵐豪裕次ですよ。ここではね」
「……そうか、嵐豪グループが開発していた『AIロボット』。開発中止になったはずのアレを使ったわけだ」
フロストが納得すると、裕次は正解の意味を込めて笑みを浮かべた。
「しかし気に食わない。これではまるで我々の計画を知っていたかのようだ」
「それについてはお答えしますよ」
事件当日より数時間前───。
黒宮裁破は目の前に聳え立つ荘厳で威圧感のある屋敷を見上げながら、石造りの門に設置されているチャイムを押した。
「ブレイク様ですね?何か御用でしょうか?」
女性の声がチャイムを通して聞こえた。
「ゼノスに───裕次に伝えてくれ。会って話したいことがあると」
「お待ちください」
これで門前払いをくらえば全てが潰えるだろう。
ナギヤに近づくためにはこの『嵐豪グループ』に頼るしかない。神城財閥と同じくアイギス社のスポンサーをしている嵐豪ならば、少なからずナギヤと繋がりがあるはずだ。
しかし、あいつが自分と会ってくれるかどうか───。
「お待たせしました。どうぞ」
正門が自動的に開き、屋敷へ続く道に足を踏み入れた。
よかった。どうやら会合できるところまでは許可されたらしい。
裁破は正面玄関である一際大きい扉を開け、慣れた足取りで裕次がいるであろう応接間へ向かった。
よくここに集まってイージス・ユートピアの攻略会議を行っていたから建物の構造は理解しているつもりだ。
目的地である応接間のノブを回し、中に入ると赤髪でスーツを着ている男がソファに座って待ち構えていた。
「よくわかったな。我が友よ」
「ここでよくライリと3人で駄弁ってただろ?だからもし俺が来るって聞いたら、お前が待ってるのはここにしかないって思ったんだ」
「全てお見通しか。……それで?俺を頼ってきた理由はなんだ?まあ、推測するにいつもの『過度なお人好し』スキルが暴発したってところだろうが」
もはや説明するまでもない。
ていうかまだ何も話してないのにこれだけ言い当てるって、裕次の中での裁破イメージは昔のまんまなんだなーっと少し感慨深くなっていた。
「ほとんど正解だ。実は───」
裁破はこれまでの出来事を全て話した。
ネガのこと。ナギヤと出会ったこと。魔装術のこと。
ゴアモードのこと。ウォーレンやライリと再会したこと。
そして───ナギヤが神城家の人間だったこと。
全ての話を聞いて裕次は一瞬だけ黙してから口を開いた。
「つまり、ナギヤを取り返すために嵐豪家の力が必要だと、そういうことだろう?相変わらず無茶なことをするな」
「最悪、神城とコンタクトをとれるだけでもいい。その後は俺がやる」
裁破はウェアラブルデバイス『Moa-002』をテーブルの上に置いた。
「イージス・ガーデンか?実力行使をすると?」
かつて25年前ほどに発売されたARアプリケーション イージス・ガーデン。
現代社会に広く愛され、生活に欠かせないほどヒットしたそのアプリだが、突如として20年前に販売を終了した。
まだ開発元であるアイギス社から配信終了の告知はないものの、販売終了以前に起きたイージス・ガーデンの大事件をきっかけに殆どのデバイスが回収され、所持している人間は片手で数え切れるだけであろう。
「Moa-002は『兵器用』だろ?ロースト氏もとんでもないものを持たせたな。」
「AR、VRともに適正が低い俺じゃ旧バージョンはまず実戦で使いこなせない。そうなると使えるのは攻撃を『現実化』できる兵器用に限られてくる。そう思って爺さんは姉さん経由で俺に託したんだろうよ」
裁破は苦笑いしながらハードを眺めた。
何故ならばこの現実化できるバグこそが20年前の大事件を引き起こした原因であるからだ。
AR適正という人が生まれながらにして持つ『拡張現実に対する耐性』の規定数を遥かに超えた者がそのバグを見つけ出し、あろうことか私欲のために世界各地で暴虐の限りを尽くし始めたのがきっかけだ。
だが連中の行いに政府も黙ってはおらず、対抗するため此方もAR適正の高い人種を選別し、それらを結集させた部隊『エクストラ』を組織した。
そしてその時に作られたのが、この兵器用のデバイスなのだ。
たとえAR適正が低い人間でも十分に戦えるよう政府がアイギス社に依頼した品で、与えられたのは軍関係者だけ。
もちろんこれを裁破に提供したローストも、元エクストラの一員だ。
「イージス・ユートピアはイージス・ガーデンとデータ共有ができる。最悪の場合はこれで強行突破するさ。どうせ奴らも持ってるだろうしな」
大抵、金持ちは自衛のためにMoa-002を数個隠し持っている───らしい。
ちなみに目の前にいるガチの金持ちが情報元なので信ぴょう性はある。
「……お前がそこまで肩入れするなんて余程の女なんだな。下手すりゃ暴行罪その他諸々の罪で捕まるかもしれねえってのに」
「サムライ時代に終止符を打てたのはナギヤのおかげだからな。それに俺は約束した。たとえどんな状況だろうと君を助けると」
裁破の覚悟を見て、裕次は納得したかのような表情をしながら立ち上がった。
「やってやるよ。ただし、決行は明日だ。こちらとしても準備する必要があるからな」
「───ひとついいか?」
引き受けた裕次はそのまま部屋を出ようとするが、裁破の声に引き止められた。
「俺はサムライとして数々のプレイヤーを恐怖と絶望のどん底に追い込んできた。そんな俺が来たっていうのに、どうして素直に入れてくれたんだ?」
ここに来てずっと疑問だったことを口にする。
自分がしたことは許されるはずのないことなのに、なぜ───。
「あぁ、そんなことか。別に大した意味はねえよ。ただ、お前があの時のままなら誰かに頼るなんてことしねえだろ?変わったからこそ、俺に頼るって気持ちが生まれたんじゃねえのか?」
サムライだった頃の自分に誰かの言葉を聞くほどの余裕はなかった。
精神が侵食され、会話することすらマトモにできず、人を殺すことでしか理性を保てない。
交友があったライリや裕次───ゼノスとも関係を断ち、ログアウト不可の中、孤独な放浪生活を送っていた。
後から聞いたことだが、2人は自分を助けるために何度も運営に掛け合って解決策を練ってくれていたらしい。
感謝こそせねばならないのに、正気に戻ったあとはウォーレンと姉さんに連れ出されるまで現実世界にて自室に引きこもっていたため、2人とはもはや他人に等しいほどの関係性になっている───と思っていた。
「だから気にすんな。昔がどうであろうと、お前が意味をもって今を生きているのは間違いない」
「……ありがとう」
裕次の気持ちを素直に受け取り、礼を言った。
───ただし、その先に見据えているものは解せねえがな。
喉元まででかかった言葉を裕次は飲み込み、内心で呟く。
口にしない方がいいだろう。その『決意』を誰よりも痛感しているのは、彼自身なのだから。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
10話は前半まで書いています。
第1話
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第2話
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第3話
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第4話
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第5話
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第6話
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第7話
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第8話
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第7話
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