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イージス・ユートピア  作者: 鍋田 リューマ
GHOST編
38/40

第23話「第一章より半年後←新たな物語の幕開け」

 ヒタヒタと、雫が落ちる。

 雨と霧の街『フォッグ・ハイド』の雫は通常の気象モード『天候:雨』で降ってくるモノより大粒だ。

 そして霧を生成するという効果も付帯しており、街中で半永久的に発生している濃霧もこれが原因である。

 伴って夜間でもあるため、犯罪者にとっては恰好の潜伏地なのだが、それを黙って見過ごしてやるほどザルな運営ではない。

 霧に紛れてやってくる。運営の遣いが───。

執行人(エンフォーサー)』の名を冠したプレイヤーが、すぐそこまで。


 今回の任務(ミッション)は運営『アイギス』より、ブラックリストに入っているプレイヤーの排除。

 標的(ターゲット)は『ギン』という極悪人。

 まず『執行人(エンフォーサー)』は彼が拠点としている『フォッグ・ハイド』の廃れたNPC宿屋の近くに潜伏した。

 外出したらすぐに追跡できるように屋外で待つ。たとえ、何時間かかろうが執念深く待ち続ける。

 雨で全身を覆っているレインコートは濡れ、おかげで背景の一部と差し支えないほどにまで同調していた。

 それが『執行人(エンフォーサー)』のやり方だ。非効率的だが、結果としては上手くいく。

 〝そろそろか〟

 頃合だと見計らって扉の死角に立つ。

 予想通り、数秒後にドアノブが回され、目的の人物である銀髪を逆立てている目付きの悪い男が何食わぬ顔で姿を現した。

 執行人(エンフォーサー)は流れるような動作で灰色のマントの内側に仕込んでいるナイフを抜き取り、逆手に構えてギンの背後まで忍び寄る。

 距離にして1メートル。通常であれば気付かれてしまうほどの至近距離だが、装備している『靴』武装の『イレイザーシューズ』が気配を殺してくれているのだ。

 ナイフが届く範囲まで迫った執行人(エンフォーサー)は右腕をゆっくりと伸ばし、首元に刃を立てて囁いた。

「貴方を拘束します。大人しく付いてきて頂けますか」

 淡々と、業務的に述べられる定型文(テンプレート)に対し、ギンは両手を上げて溜息をついた。

「いつか来るとは思ってたが、こんなに早いとはな。君、新手の『賞金稼ぎ(バウンティハンター)』かい?なら倍の金額やるから見逃してくれないかな」

「いいえ。ボク…………あっ、わ、私は『デリート・キル』の権利を与えられたプレイヤーです。そ、その気になれば貴方を消すことだって出来るということをお忘れなく」

 アカウント削除、またの名を『デリート・キル』。

 それは死も同義。現実の肉体と精神が一体となっている『イージス・ユートピア』にて、アカウントの抹消は完全なる消滅を意味する。

 余程の重罪を犯した極悪人や、仮想世界の秩序を脅かすテロリストなどに適用され、運営の許可の元に実行される。

 そして実行する者はというと運営から認められたプレイヤーがそれに該当し、いずれも『デリート・キル』の権利を与えられている。

 その一人がこの執行人(エンフォーサー)なわけで───。

「ほう。つまり君は運営の狗なわけだ。飼い主の命令を忠実に守り、確実に遂行する番犬。プレイヤーの鑑だね」

 否定はできない。

 実際、『デリート・キル』保持者を支持している人は少ないからだ。

 運営の匙加減で消されてしまうなど言語道断だと、今でも署名活動に勤しんでいる者が大勢いるくらいである。

「私は貴方のような秩序を乱す輩だけを標的にしています。決してアイギスに遣われる都合のいい駒じゃない」

「フフフ……。そうかい、んじゃまあ始め───」

 ギンが不敵な笑みを浮かべて振り向く寸前、執行人(エンフォーサー)はナイフを伝って麻痺(スタン)系アビリティ『ショック・ウェーブ』を首に流し込む。

 案の定、うつ伏せで気絶したギンを見届け、その場から立ち去ろうと足を動かす。

 こんなの、スタートアップ・サービスの『魔操術(まそうじゅつ)』を使えば簡単なことだ。


「ナギヤ!」


 通り名ではなく、プレイヤーネームで呼ばれた。

 しかも知っている声だ。

「ウォーレンさん」

 後ろを振り返ると予想通りの人物がいた。

 黒髪ロングヘアに黒と赤を基盤とした軍服に身を包んだクラン『レイド・ストリーム』のリーダーは、背後に束ねているクランメンバーに指示を出してギンを連行していく。

「よくやってくれた。お手柄だったな」

「尾けてたんですか?あまり趣味がいいとは言えませんが……」

「偶然だ。我々もこいつを追っていてな。そしたらメンバーのひとりが尾行している君を見つけ、そのまま観察させてもらったというわけさ」

 気づかなかった。

 ターゲットに意識を集中させていたせいで第3者の存在を検知できなかったなんて。

 自分もまだまだなのかもしれない。

「用はそれだけですか?」

 退散するべく、執行人(エンフォーサー)もといナギヤは顔を背けた。

「待て。君に話したいことがある。クラン拠点まで来てくれ」

 ウォーレンはナギヤの心境など意に介さず、涼しげな顔で言ってのけた。

 義理もあるし行きたくないとも思えない。

 何が待っているかは知らないが、ついて行って損はないだろう。


『エルフォール』という大都市の中央に君臨しているレイド・ストリームの拠点は古城をイメージした大型の施設だ。

 聞けば元々はモンスターが犇めくダンジョンだったらしい。

 それをウォーレン率いるレイドパーティーが一丸となって一掃し、攻略したついでだから拠点にしてしまおうか、と考えついたのが始まりだとか。

 まあ、そこには自分が尊敬し目標にしていた『あの人』もいたわけで───。


「ナギヤ、着いたぞ」


 ハッとなり顔を上げる。

 気づけば『クランリーダーの部屋』の前まで来ていた。

「上の空、といった感じだな。なにか考え事か?」

 ウォーレンに言われて思考をリセットする。

 いつまでも過去に囚われていてはダメだ。今に集中しよう。

「いえ、特に。……それで話したいこととは?」

 ナギヤはレインコートを装備一覧から外し、裾を出している長袖の白いスキッパーシャツと黒のショートパンツ、武装解除の余波から大きくはためく灰色のマントが露わとなった。

 左腰には鍔のない両刃剣『エンブレス・ストライク』。そしてナギヤというアバターを象徴する黒のセミロングヘア。

 変わり映えのしない、いつもの装備だ。

 イージス・ユートピアでは武装が著しい経年劣化を起こすことはまずない。ただ、アバター本体は違う。プレイヤーの進行具合で現実ほどではないものの、ほんの少しだけ成長するのだ。

 初心者(ニュービー)だった頃のナギヤはあどけない無垢な顔付きをしていたが、今となっては引き締まってトッププレイヤーの風格を漂わせている。

「まずは入れ。あまり他の連中に聞かれたくはない」

 ウォーレンはドアノブを回し、ナギヤも続いて入室していく。

 内装は赤を基調とした西洋風の造形で、ガラス張りの壁に背を向けてポツンと置かれているデスクにウォーレンは手をかけた。

「こいつを読んでくれ」

 手渡してきたのは世にも珍しい紙製の資料だった。

 仮想世界『イージス・ユートピア』ではほとんどの情報はスマートフォン型携帯端末『フリージー』で介され、このような実物の資料なんてそもそも存在自体が都市伝説化しているといっても差し支えない。

 ただ、本当に不必要かといわれたらそうではない。

 その気になればハッキングできる『フリージー』と違って、現物なら必要最低限のリスクを回避できて確実に渡すことのできるメリットを秘めているからだ。

 なので今回の『秘密の対談』もそれなりの機密事項なのだろう。

「これは───殺人事件ですか?」

「そうだ。解っているとは思うが、単にPvPに負けてゲームオーバーになったわけではないぞ?現実世界の肉体ごと、殺されてるんだ。つまり君と同じく『デリート・キル』の所有者か、若しくは未知のスキルを引っ提げたとんでもないプレイヤーの仕業というわけさ」

「……まさか、ウォーレンさんは『シュヴァルツ』が復活したと言いたいんですか」

「気には留めているがね。ただし、残党であるフロストやファントムの消息は不明。『イージス・ユートピア』へのログイン履歴もここ数ヶ月間は全く以て検知されていない。これでは関与していて欲しいと願っても、証拠がないのが現状だ」

 残念そうに否定したウォーレンは追加で資料を渡した。

「それじゃあ本題に入ろう。君には未解決になりそうなこの事件のために、赴いて調査をしてもらいたい。もう現地にある『支部』には連絡はしてある。場所は記載されている通り、全てのプレイヤーにとって始まりの場所『ビギニング・ショウ』だ。……どうだろう。やりごたえのある任務だと思うが」

 ナギヤは問いかけるウォーレンの瞳を凝視して数秒経過した後、口を開いた。

「分かりました。『執行者(エンフォーサー)』として、プレイヤーが消された以上、見過ごすわけにはいきませんから。それも同業者である可能性があるなら」

 まるで自身を鼓舞するかのような口調で了承の返事を残して扉に手をかけた。

 ナギヤが退散する寸前に、ウォーレンは。

「カッコつけているところ申し訳ないが、似合っていないぞ。無理に寄せるなよ」

 真意を突くように凛とした声で言い放った。


 ビギニング・ショウはウォーレンが付け加えた通り、初めてログインしたプレイヤーが最初に訪れることになる街である。

 もちろんナギヤもそういった経験はある訳で、街に続く道のりは脳内に色濃くインプットされている。

 出現するモンスターも歩いていくにつれてレベルが低くなっていき、相手をせずともあちらから逃げていく有様だ。

 これでいい。無駄な時間は使いたくない。

 できれば全戦闘を回避したいところだが、そうも言ってられないらしい。

 ───背後に、殺気を感じたからだ。

 〝隠密(ステルス)アビリティ……!〟

 ナギヤは振り返ることなくナイフによる奇襲を避けた。

 足音や気配は隠せても、敵を殺すという意思だけは残している。

 ───素人だ。それもイージス・ユートピアに来て間もない初心者(ニュービー)

「なっ!?」

 初撃が命中しなかったことが想定外のようだ。

 その証拠に黒の目出し帽とスケイルアーマーに身を包んだ軽装備の『盗賊』と形容すべきプレイヤーは、ナイフを片手に困惑している。

「なんでだよクソッ!隠密(ステルス)があれば絶対殺れるんじゃなかったのかよ……!」

「……?今なら見逃してあげるから、さっさと消えなさい」

「ッ!ざけんな!」

 盗賊はナイフを順手で持ち、顔面目掛けて突き刺してくる。

 対するナギヤは初心者(ニュービー)だった頃ならいざ知らず、今の成長した彼女の前では敵ではなく、武器を使用することなく回避していく。

「どうして当たらねえ!?」

「解ったでしょ。早く消えて」

「うるせぇ!」

 呼び掛けに応じず、盗賊は止まることなく無駄な攻撃を続ける。

 話し合いは不可能だと悟ったナギヤは突き出してきた腕を掴み、目線を合わせた。

「早く消えてって、言ってるの」

 アビリティ『ショック・ウェーブ』

 重く響く威圧を目線を通じて飛ばす。盗賊は未だ嘗て味わったことのない感覚に腰を抜かし、振り向いて這いつくばりながら逃げていった。

 最悪の手段を取らずに済んだことに安心し、ビギニング・ショウへの道を再度辿っていきながらナギヤは大きく溜息をついた。

 これからあの盗賊プレイヤーが自分のせいで再起不能に陥ったらどうしよう、などと余計な心配をしながら。


 ビギニング・ショウはいつもと変わらず初心者(ニュービー)と、それを勧誘する多数のクランで賑わっていた。

 最近はマシになってきたものの、酷い時期は乱闘騒ぎや初心者(ニュービー)への執拗な付き纏いが横行していたことがあったと聞いたことがある。

 その為に運営はレイド・ストリームと結託して支部を置き、厳重な管理体制の元、勧誘の継続を許したらしい。

 そんな過去がある『始まりの地』にて平和を脅かす殺人事件が起きた。

 運営とて黙ってはいられないだろう。事実、レイド・ストリームの隊服を着用したメンバーが至るところに点在している。

「貴女がナギヤさん?」

 不意に背後から話しかけられた。

 驚いて数秒間硬直してしまったが、気持ちを落ち着けてゆっくりと振り向いた。

「ふぅん。ウォーレンから聞いてたけど、実際のところイメージと違うものね。もっと怖いヒトかと思ってたわ」

 相手は眼鏡が良く似合う綺麗な女の人だった。

 赤のロングヘアーを靡かせ、ジト目でこちらの容姿を観察している。

 羽織っている黒のコートのせいか、大人の女性という雰囲気がより一層醸し出され、以前会ったことのあるウォーレンの親族の旭山(あさひやま) 零加(れいか)のような印象を受けた。

 ─────というか、すっごい見てくる。

「あぁ、ごめんね?別に悪気がある訳じゃないの。キリッとしているのにどこか幼さを残してる可愛らしい顔に惹かれてね。……そうかぁ。サイ君と相性が良かったのは君みたいな子だったんだ」

 サイ。

 まさかこの人の口から出てくるなんて思わなかった。

 黒宮(くろみや) 裁破(さいば)。プレイヤーネームは『ブレイク』と言い、半年前に発生した『ネガ』と呼ばれる異常現象を解決すべく一緒に戦った。

 あの人は強くて優しかった。自分が初めて興味を示して、目標にしようと志した人。

 でもあの頃のボクは力不足で───何も成し遂げることができないまま───彼を喪ってしまった。

 表面上は行方不明となっているも、たぶんもうこの世にはいないだろう。

 なにせその為に『執行者(エンフォーサー)』の権限をもらい、違反者の始末と称して広大なマップを回り、彼を探していたんだから。

「ブレイクさんは───」

 絞り出すような声で名前を出した。

 するとそんなナギヤの心情を体現するかのように雨が降り始め、周囲のプレイヤーはそそくさと建物の中に入っていく。

「ごめん。今話すことじゃなかったよね。───取り敢えずクラン拠点まで行こうか。事件のことは着いてからにしよう」

 ナギヤは彼女に付いていき、気持ちを切り替えるために顔を上げる。

 ふと目を向けると、赤色の頭頂部に銀色のプレートが見え、盤面にはプレイヤーネームを示す『スカーレット』という文字が刻まれていた。

「スカーレット……さん……?」

「そっか、自己紹介してなかったね。───改めて私の名前はスカーレット。レイド・ストリーム ビギニング・ショウ支部のリーダーを務めています。ウォーレンやサイ君のお姉さんのミストとは幼馴染みたいなものかな」

 ナギヤは特に表情を変えることなく〝よろしくお願いします〟と返事をした。

 ブレイクと知り合いだということからミストと仲が良いのだろうと予想はついていたし、なんならウォーレン絡みの付き合いで名前が出てこない方がおかしい。

 そんな話をしていたら、いつの間にか領事館のような外装をした建物の前まで来ており、スカーレットがそこで立ち止まった。

「着いたよ。ここが私の拠点(ホーム)だ」

 スカーレットにそう言われ、ナギヤは門の先にある扉に目を向けると見た事のある人物が目に入った。

「来たンすね、スカーレットさん」

「ラスター!別に外で待っていなくてもよかったろうに。寒かったでしょ?」

 紫色の長髪に右眼を覆っている青年 ラスターは門を開けながらスカーレットと話し、後ろにいるナギヤに気が付く。

「ラスターさん、お久しぶりです」

「君もね。……ともかく中へ。必要な資料は全部揃えてあるので、直ぐにでも取り掛かれますよ」

 ナギヤは拠点の中に入ると、服を叩いて身体中に纏わり付いている雫を取り払った。

『天候:雨』から抜け出せば時間経過で自然消滅していくのだが、こちらの方が早く取り除ける。

 完全に濡れてしまっているところも例外はないものの、消費アイテム『レギンウッド・イレイサー』という柔らかく手触りのいいハンカチを使えば短縮できるため、ナギヤは当該アイテムを懐から取り出し、水分を払拭していく。

「おっ、それ『レギンウッド・バーステッド』で売られてる限定品のハンカチじゃない。ワールドマップ一周旅行をしている時に買ったの?」

「いえ。今マイホームに設定しているところにあったものを頂いてきまして」

「あー、そゆこと。確か前の家主がサイ君だっけ?じゃあ彼の持ち物か……」

 レギンウッド・バーステッドとは主にキャンプ用品を扱っているアウトドア好きが集まる小さな集落のことで、このハンカチはそこでしか売られていないレアアイテムとなっている。

 と言うのも場所が山の頂上にあり、辿り着くまでにかなりの根気が必要とされ、登山経験者でも厳しいといわれている難所なのだ。

 まあ頑張れば道程をショートカットできるダンジョン『幻迷の森』から行けないこともないが、行き方が公表されていないためまず不可能である。

「───スカーレットさん、その話題NGッスよ」

 ブレイクの名前を出したことによってナギヤが若干俯いており、ラスターに囁かれて気付いたスカーレットは作り笑いを浮かべながら応接室へ向かった。


 応接間のテーブルの上にはウォーレンの時と同じく、紙の資料が無造作に幾つも置かれている。

 スカーレットは適当に1枚掴み取ると、ナギヤに手渡した。

「まだ調査中だけど、どうやら殺されたプレイヤーは過去に犯罪行為に手を染めていた経歴があるらしく、ネットにも名前がたくさん転がっていたよ。色々な組織を転々としていたようだけど、その中でも一際目立っていたのが『シュヴァルツ』という名称」

 ナギヤの眉がピクっと動いた。

 聞き漏らすことは決してない、因縁であり宿敵の名。

「だとしたら犯人はバーチャル犯罪に恨みがある人ってことですか?」

「私やラスターもそう思っているんだけどね。でも、これを見れば単なる『正義の味方』とは言えなくなるんじゃないかな」

 スカーレットはナギヤに1枚の写真を渡した。

 そこに写っていたのは───。

「……銃弾?」

「そう。正真正銘、本物の銃弾。しかも調べてみたところ、7.62×51 NATO弾が1番見た目と大きさが似ていてね。だとすると犯人の得物はスナイパーライフルで、遠距離から狙撃して射殺したって線が今は濃厚かな」

「待ってください!そもそも、イージス・ユートピアには剣はあっても銃火器は存在しません!改造ツールを入れるにしても、個人が簡単にアイギスのサーバーにアクセスできるわけが……!」

 スカーレットはラスターと目を合わせ、頷いてからこう言った。

「いや、銃火器ならあるよ。───まだ一部のプレイヤーにしか知らされていないんだけど、ここから北西の方角に『回転式拳銃(リボルバー)』っぽい武器が発見されたんだ。だからあることにはある」

「どうして───」

 どうして、自分には伝わっていなかったんだろう。

執行人(エンフォーサー)』として活動していたのに、なぜ───。

「私たちだってこの事件が起きるまでは知らなかったんだよ。でも安心して。貴女にはこれからその地に乗り込んでもらう予定だから」

 ナギヤは顔を上げた。

 完全に想定外の提案だったからだ。

「お供としてレイド・ストリームの同盟クラン 『和旧連合軍』のメンバーを呼んだわ。こっちは最近増えてるアビリティや魔術の不正利用者の摘発で忙しいから」

 あの『隠密(ステルス)』アビリティのことか。

「……おかしいわね。そろそろ来るはずなんだけど。───ねえ、ラスター。ちょっと様子見てきてくれる?」

「マジっすか……。雨降ってるんスよ?」

「屋根があるとこまででいいからさ。ほら、ちょちょっと」

 へいへい、と文句を言いつつ外に繋がっている扉に手をかけ、開けた瞬間───。


 人が、倒れながら入ってきた。


「……………………え?」

 ラスターは呆気にとられたが、直ぐに正気を取り戻し、その人物を抱き上げて応接室へ戻っていった。

「スカーレットさん!大変です!」

 声が裏返るほどにまで声を荒げているラスターに反応し、目を向けると抱えられているプレイヤーに目がいった。

 黒のツーサイドアップに黒のマフラーとツナギのようなものを着ている女の子だった。

 全身は傷だらけで、まるで強大な敵と渡り合ったあとのような戦闘痕がいくつも刻まれている。

「ねぇ、その子……!まさか……!」

 スカーレットは正体を見極めるべく、ラスターの元へ駆け寄った。

「───間違いないわ。彼女、さっき話した『和旧連合軍』のメンバーよ」

ここまで読んで頂いてありがとうございます。

今後ともよろしくお願いします。

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