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イージス・ユートピア  作者: 鍋田 リューマ
イージス・ガーデン編
37/40

EPISODE XIV 「終焉の時←次の世代へ」

 黒宮(くろみや) 裁弥(さいや)の体力、気力はともに限界を超えていた。

 そんな彼を駆動させているのは生への渇望、そして自身を待つ大切な人を救いたいという願いだけ。

 もはや剣を一太刀振るうことすら許されない。

 視界は霞み、意識は混濁している。裁弥はいつ倒れるかわからない肉体を動かし続け、彼女の元へと向かった。

 終わりの見えない薄暗い通路を歩いていく。

 目の前から誰かがやってきた。顔は見えない。

 ───新成(にいな)、なのか?

 その新成らしきモノに出会えた安心感からなのか、裁弥の意識は薄れていき───。


 「まさか、貴方がやってくるとは」


 その一言とともに、裁弥の首元へ注射針が打ち込まれた。

 意識が一気に覚醒する。未だに各部に耐え難い激痛はあるものの、比較的自由に動くことができるようになった肉体を駆使してその場から離れた。

 聞き覚えのある声だったのだ。そして顔を見た瞬間、確信できた。

 「フロスト……!!」

 正体はやはり、金髪でモノクルをつけているシュヴァルツの構成員 フロストだった。

 「テメェ、俺の体になにを……!」

 「ステロイド剤ですよ。ただし、体内の『AR適性』に反応して急激な回復作用を施す極めて危険性の高いものですがね。まだ実験段階ですが、その様子ではそれなりに効果はあるようだ」

 確かに、死にかけだった体をここまで動かせるようになったことを鑑みるに、奴の戯言も満更嘘ではないらしい。

 しかし、何のために───?

 「私が貴方を救った理由。そんなことはもうお解りでしょう。戦っている最中、気付いていたはずです。たとえ死力を尽くしてエイジ様を倒したとしても、既に遅すぎた、と」

 「なに───!」

 「『クリエイト・ユートピア』は私が摘出して頂きました。かなり強引な手術だったため、生きているかさえ怪しい。───ほら、急いだ方がいいですよ。彼女の最期を見せてあげるために、貴方を助けたのですから」

 裁弥はなりふり構わず走った。

 高らかに笑っているフロストや、奴が持つ『クリエイト・ユートピア』を意に介さず、全力で。


 裁弥が辿り着いた部屋には、薄暗く重苦しい空気が流れていた。

 隅に設置されている小さな牢に駆け寄り、息を整える間もなく扉を開ける。

 そして───中にいた最愛の人物の腰に手を回して抱擁した。

 大丈夫だ、まだ息はある。心臓の鼓動だってしている。

 「裁弥……。やっぱり来て……」

 新成も裁弥に気づき、目を開けて安堵の表情を浮かべた。

 「ああ、なんとかな。とにかくここから出よう。俺が零加(れいか)に迎えをよこすよう連絡してみる」

 目に装着しているARデバイスに手をかけ、通信モードへと移行させるも、ノイズが走って上手く機能しない。

 「電波状況が悪いのか……!?仕方ない。こうなったら自力で……」

 試行錯誤する裁弥の手を、新成が取った。

 触れてみてわかった。今の彼女は呼吸をして自我を保っていることが精一杯なのだと。

 その証拠に、伸ばしてきた腕は既に神経を失ったかのように意志とは関係なく地に落ちている。

 更に新成の髪はロングヘアーに、色は元の金色に戻っていた。

 「私の命はもうおしまいです。だから、最期に伝えたいことを」

 「違う!まだ終わりじゃないさ!俺が必ず助け出して……!」

 「いえ。本来ならスキルを取り出された時点で死んでいるはずなのに、私はまだ生きている。これだけでも奇跡なのです。───なのでお願いします。私の話を聞いてください」

 新成の弱々しいも真っ直ぐで意志を持った瞳を見て、裁弥は手を止めた。

 「貴方は優しくて強かった。どんな圧倒的不利な状況に陥っても、絶対に私を守ってくれた。現に今もこうして私の前に来てくれている。たとえぶっきらぼうな言葉遣いをしてても、心には誰かを思いやる気持ちがあった」

 「だからこれからもずっと、その優しさで誰かを守ってあげて。年月が経てば、貴方が導いていく人や、救わなければならない人が出てくるはず」

 新成の安らぎを与える暖かな口調に、裁弥は自然と涙が零れた。

 「俺が救わなきゃいけないのはお前だ!新成!!」

 「私はもう十分救われましたよ。───裁弥。貴方と出逢えて良かった。貴方と逢えたおかげで、私は『世界』を知ることができた。本当に、感謝しています」

 新成の瞳が虚ろになっていく。もはや幾許の猶予もない。

 救出することは不可能となってしまった現状を噛み締め、裁弥は彼女を抱きしめて耳元で囁いた。

 「俺も、新成に逢えて良かった。新成と逢えたおかげで、俺は『自分』を取り戻すことができた」

 本当は醜くも抗いたがった。

 泣き叫び、己の運命を弄ってくる誰かを憎みながら最愛の人を抱きたかった。

 だが、覚悟を決めた新成の前でそんな情けない姿は見せられない。

 裁弥は苦虫を噛み潰したような気持ちで新成に別れの言葉を告げた。

 しかし───。

 「……?」

 新成は口を開けるばかりで、声を上手く発することができていない。

 もはや死者同然といっていいだろう。

 裁弥は悲しみを振り切り、最期の言葉の代わりとして新成の口を自らの口で塞いだ。

 対する新成は涙を流し、ゆっくりと目を閉じていく。

 唇はまだ暖かい。だが着実に、そして確実に冷たくなっていき、裁弥に『新成の死』という現実を知らしめていった。

 心は自我を失い、体はただ目の前の亡骸を抱えるだけとなっている。

 やがて精神が現実に耐え切れなくなり。裁弥はその場で気絶した。


 目を覚ました。天井が見えた。

 あの時と同じ天井だ。

 ふと横に目を向けると、椅子に座ったままこちらの様子を伺っている黒髪ロングの女性 旭山(あさひやま)零加(れいか)がいた。

 「良かった。目を覚まして。───今日までの顛末、聞く?」

 「……ああ、頼む」

 絞り出したかのような声に顔を顰めながら零加は話した。

 「貴方達のことは突入したエクストラが確保したわ。その時には既にエイジやその他のシュヴァルツのメンバーはいなくなってて、痕跡すら見つけられなかった。どうにか私が圧力をかけて貴方を取り返して、私たちが確保した病院に搬送してから3日経過したってところかしら」

 「───新成は、どうなった」

 「ごめんなさい。蘇生は無理だったわ。遺体だけは旭山グループの元、厳重に保管してある。もう2度と利用されないように」

 結末を聴きながら、裁弥は終始天井を見上げていた。

 病室にいて、零加と2人きりで話す。

 あの時とほとんど同じじゃないか。

 「なあ。……俺、あの時からなにか変わったかな。誰も救えなくて、失う一方だ。そんな俺が、生きていく資格なんてあるのかな」

 心の中で抑えきれずに吐露し始めた裁弥の頭を零加はそっと撫でた。

 「自分で前に言っていたじゃない。〝燻っていても仕方ない。今はやるべき事をやらなければ〟って。貴方にはみんなから、特に新成さんから託されたものがあるはずでしょ?」

 「やるべき事───。新成は俺が導いて、救わなければならない奴がいるって言い残してくれた」

 「そう……。それが誰なのかは分からないけれど、今は貴方の娘───霧華音(むかね)と一緒に暮らして傷を癒すことが『やるべき事』なんじゃないかしら」

 「霧華音……。───そうだ!」

 裁弥は顔を上げて脳裏によぎったある事を零加に聞いた。

 「クレステットはどうした!?奴は今どこに!?」

 「あの人は私を現実世界に帰した後、行方知れずよ。それに素性が気になって旭山のデータベースで照合してみたけど、クレステットなんて人は存在していなかった

 「だろうな。エイジはクレステットのことを自分を含めて未来からやってきた人間だと言っていた」

 「じゃあクレステットはシュヴァルツの関係者……!?でもそれじゃ……」

 裁弥はベッドの上から起き上がり、点滴スタンドもといイルリガートル台に掴まって腰を上げた。

 「辻褄が合わないわな。……とにかく今は霧華音に会うとするよ。ここにいるんだろ?」

 「いるわ。まあ確かに下手な考察をしても仕方ないしね。行きましょうか」

 裁弥は零加とともに病室から出て、横に並びながら廊下を歩いていく。


 3年後。

 ある情報を聞きつけた裁弥は、単独でフォーナルの跡地に来ていた。

 年月が経過したとはいえ、未だに家屋や城の原型を残している有様を見て心が締め付けられるも、グッと堪えて道を進んでいく。

 今の裁弥の右目には長い間身につけていなかった『イージス・ガーデン』がインストールされたARデバイスが装置されている。

 なにせ耳にした情報の発信元が不明であり、尚且つ裁弥個人を指名して場所まで選んできているのだ。

 零加の話ではリーダーであるエイジが行方不明となったことでシュヴァルツは事実上壊滅したと言っていたが、油断はできない。

 「───!」

 誰かいる。

 裁弥は微かに漂う人の気配を感じ、その方向へ慎重に歩を進めていく。

 そして辿り着いたのは───教会。

 かつて新成と外出した際に来たところだ。

 なにせここには胡散臭く曲者の───。

 ───そうか。そういうことか。

 ようやく差出人の素性が知れた。

 「やはりお前か。クレステット」

 教会に入るなり祭壇にいる神父服の男に言い放った。

 「久しぶりだね。黒宮 裁弥くん」

 物怖じすることはなく振り返って銀髪ロン毛の神父───クレステットは微笑んだ。

 「その様子じゃなんとかやってけてるみたいだね。安心したよ」

 「もう霧華音も3歳だしな。いつまでも引きずってはいられねえさ。───で?俺になんの用だ?こんな他愛のない話をしに呼んだわけじゃねえだろ」

 「酷いこと言うなぁ。一応、これでも君の命の恩人なのに。……まあいいや。ちょっと待ってて」

 そう言ってクレステットは奥にある扉の中へ消えていく。

 数分後、扉から出てきた彼の手の中には毛布にくるまった『なにか』があり、躊躇することなく裁弥に手渡してきた。

 「おい、これ……」

 毛布の中身はまだ1歳にも満たないであろう幼児であった。

 完全に予想外だった。裁弥は思考が追いつかず、そのまま立ち尽くしている。

 「その子を預かっておいてくれ。名前は好きにつけてもらって構わない」

 「誰のガキだよ。……!まさか……」

 「その辺は詮索すると面倒なことになる。今は霧華音ちゃんと2人を育てなきゃいけなくて大変だろうけど、必ずやってきてよかったって感謝する時がくるから」

 ホントかよ。なんだか言いくるめられた感じがするが、受け取ってしまった以上仕方ない。

 「簡単に言うが、今の俺は……」

 「『黒霧刀(こくむとう)』を酷使しすぎたせいで心臓に影響が出てきてしまっているんだろう?大丈夫さ、君は死ぬことはない。ここまできたご褒美として、それだけは教えよう」

 クレステットは未来人であることと同時に『未来透視』の魔眼の持ち主でもある。

 だから今の発言は真実味を帯びているといっていいだろう。

 「わかったよ。引き受けよう」

 「ありがとう。……用件は以上だ。帰ってもらって構わない」

 「相変わらず勝手な奴だな。ったく、重装備で来たのがバカらしくなってきたぜ」

 捨て台詞を吐きながら去っていく裁弥を見届けたクレステットは、誰にも聞こえないようにそっと呟いた。


 「君が成長するのを待ってるよ。ブレイク君」

ここまで読んで頂いてありがとうございます。

イージス・ガーデン編はここで完結です。

次回からイージス・ユートピア第2章を投稿していきます。

今後ともよろしくお願いします。

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