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イージス・ユートピア  作者: 鍋田 リューマ
イージス・ガーデン編
36/40

EPISODE XIII 「お互いの理念←死闘の果てに」

 同時刻。黒髪ショートヘアの少女、黒宮(くろみや) 新成(にいな)は振動で目を覚ました。

 そしてまず気が付いたのが、体が上手く動かないこと。

 四肢は鉄塊が乗っているかのように重く、思考もモヤがかかっているようで機能しない。

 明らかな異常だった。

 更に辺りを見回してみると鉄格子らしき鉄柵があり、ここで初めて牢屋に監禁されているのだと、新成は悟った。

 「お目覚めですか、ニーナ様」

 いつの間にか鉄格子の向こうに金髪でモノクルを付けている執事 フロストがいた。

 「フロスト……!貴方が私をここへ……!?」

 「申し訳ございません。手荒だとは思っていましたが、こちらとて手段を選んでいる場合ではないので」

 「どういうこと……?」

 「タイムリミットが迫っているのですよ。先程起きた振動はエイジ様と黒宮 裁弥(さいや)によるもの。そして、そろそろ決着がつく」

 「裁弥がここに……!?」

 シュヴァルツのリーダー エイジと裁弥が戦っていることについても驚きはしたが、新成にとっての1番の朗報は彼が助けに来てくれたことだった。

 「勘違いなさっているようなので追伸致しますが、優勢なのは我が君の方ですよ。あの男もかなり健闘したようですが、如何せん相手が悪い」

 フロストは意地悪そうに笑った。

 これで彼女の希望は消滅し、ただの抜け殻と成り果てる。

 ───そう思っていた。

 「それでも。───それでも、裁弥は必ず来てくれると信じています。彼は私を一生守り抜くと誓ってくれた。あの人はたとえ死地に追いやられようとも、絶対に助けに来てくれます」

 「ほう。意外な答えだ。以前のニーナ様なら怯え、恐怖するところでしょうが、あの男の存在がここまで影響していたとは。作り物の人間とはいえ精神はそれなりに成長するらしい」

 フロストは新成を見る目が変わり、冷めた表情で見下しながら踵で頬を蹴った。

 新成は鋭く走る痛みなどものともせず顔を上げ、フロストを睨みつける。

 「なんです?まさか、まだ黒宮 裁弥に希望を抱いているとでも言うのですか?だとしたら無駄なことです。無数のスキルやアビリティ、武装を操れるエイジ様の前にたかが1人の人間が立ち向かえるはずがない」

 フロストはさも当然といわんばかりに一笑した。

 だが───。

 「解っていないのは貴方の方よ、フロスト・フォレスト。裁弥は只の人間じゃない。死線を幾度と潜り抜け、過去を克服した彼にもう迷いはない。そうなった人がどれだけ強いかは、貴方だってご存知のはずでしょう」

 「確かに知っていますとも。しかし、まだ貴女という枷がある。その重荷を持っている限り、奴は無敵ではない……!」

 悔しいがフロストの言う通りだ。この場で連れ出され、裁弥の前で人質にでもされたら彼は判断が鈍り、本来の力が半減してしまう恐れがある。

 そうならない為にも、今は───。

 「そろそろですかね。───結果も気になります。用心のため、貴女も持っていくとしましょう」

 やはりだ。なら最後の抵抗をするまでだ。

 この為に取っておいた切り札を使うしかない。あとは、身体が動けば───!

 「さあ……」

 柄に手が届いた。護身拳銃『デリンジャー』がそこにあった。

 時間はない。もはや反射で狙いを合わせるしかない。

 「まだッ……!!」

 新成は自主訓練を重ねてきたおかげか、このような悪条件下の中でも一瞬にして銃口を額に定められた。

 躊躇うことなくトリガーを引き、発射された弾丸は外すことなく脳に直撃してフロストの肉体を冷たい床に叩きつける。

 成功した。殆ど無謀に近かった懸けが上手くいった。

 「それにしても何とも……」

 呆気ない。しかし殺人とはこのようなものなのだろう。

 余韻に浸っている暇はなく、新成は解錠されたままの牢屋から脱走するために這いながら体を引きずらせていく。

 鉄格子に指をかけて重い体を引き上げ、扉を開けた。


 「全く、小賢しい女ですね」


 まさか、と振り向きざまに首を掴まれた。

 「「護身拳銃などという武器を隠していとは予想外でしたよ。やはり、徹底的に痛めつけなければ事態を理解できないようですね」

 新成を牢屋の中に放り投げ、仰向けになった腹部を硬いブーツで押し込んだ。

 「もはや貴女はニーナ・セイントルウブではない。愚かで浅はかな人類のひとりだ。───予定を変えましょう。エイジ様を迎えに行く前に、スタートアップ・サービスの開放をします。私も人為的に覚醒させるのは初めての試みですが、まあ失敗しても次がありますし、楽しみながらやるとしましょう」

 そう言ってフロストは薄ら笑いを浮かべ、新成に手を伸ばした。


 まさに地獄と呼ぶに相応しい有様だった。

 鉄は溶け、土は焼かれ、大気すらも澱んでいる。

 しかしそれでも培養カプセルに収容されている人型の人工生命体『ジーナス』には傷ひとつ付いておらず、現状を作った銀髪の性別不明人間 エイジはあまりにも上手くいきすぎた結果に笑いを堪えられずにいた。

 ───もはや、生きてはいまい。

 幾度となく修羅場を打破してきた裁弥だろうと、これほどにまで歪んだ空間では生命活動を維持することなどできるはずがない。

 そもそもエイジ本人も魔眼系スキル『煉絶の瞳』の副作用のせいで右半身が麻痺しているのだ。

 時間経過で治るものだが、戦闘となれば全力を出せないのは明白であろう。

 だからこそ、眼前の地獄に感嘆の意を示さずにはいられなかったのである。

 しかし───そんな地獄で───動くモノがあった。

 動揺せずにはいられなかった。まさか、本当にそんなことが───?

 対処すべく行動に移そうとしたが既に遅かった。モノは立ち上がり、こちらを見つめた。

 「なぜ、生きているんだ!!」

 自然と声が零れた。

 「んな野暮なこと聞くなよ。単に、アビリティ発動して見を守っただけだろーが」

 有り得ない、と言いたいところだが、奴が持っているのは未知数の黒刀『黒霧刀(こくむとう)』だ。可能性はある。

 ただ、防御したといっても裁弥の左半身は焼け爛れ、何度も地面に倒れては立ち上がって歩き出すことを繰り返している。

 あちらも満身創痍といったところか。

 「もはや死人も同然じゃないか。そんな状態で僕を倒せるとでも?」

 「そりゃテメェもだろ」

 落ち着け。

 相手は左腕どころか歩行すらも困難な身体だ。負ける道理がない。

 「だあああッッ!!」

 「なにッ!?」

 完全に不意をつかれた。

 奴は雄叫びを上げることでアドレナリンを放出し、痛みを軽減させている。

 更に唯一の弱点であった機動力を『黒霧刀』の刀身から放たれる漆黒の斬撃によってカバーしているではないか。

 エイジは咄嗟にコンバットナイフをモデルとした武器『アーツブレード』をルービックキューブ型の『バックアップ・セメタリー』から取り出し、斬撃を防いだ。

 「ぐッ……!」

 一気にナイフの耐久値が減っていく。

 それでも構わない。エイジは壊れゆくナイフに力を込め、斬撃を上空へと弾いた。

 「凄まじいな。これほどの余力を残しているなんて……!」

 「俺は新成を救うまで死なねえよ。解ったらさっさと通せ!」

 このままやり合っても不利になるのは自分の方だろう。ならば精神に揺さぶりをかけてみるか。

 「すまないが、新成君の世話はフロストに任せている。───これが何を意味するか、君ならわかるだろう」

 「テメェ、まさか……!?」

 「僕も本望ではないが、新成君のスキルは力ずくで覚醒させることにしたよ。もう手段も選んでいられる時間はないからね」

 「新成もテメェが開発した『ジーナス』のひとりなんだろ!」

 「言っただろ。僕の心は、とうに壊れているってね……!! 」

 エイジは無理矢理にでも右半身を動かそうとしている。

 まるで、図星をつかれたように───。

 「ほらな。お前は感情を失ってなんかいねえ。心の中に未だ熱を持ってるごく普通の───人間だ」

 「君になにが解る!?僕と同じ立場に立ったことのない君に、なにが!」

 「ああ、ねぇな。けど似たような境遇を経験したことならあるぜ。だから解るのさ」

 裁弥は駆けた。

 なぜそんな無謀な賭けにでたのか。答えはひとつ。

『黒霧刀』は能力を発動することすらできないほど壊れ、頼れるのはもはや自らの肉体だけだったのだ。

 だから走った。

 本来ならば歩くことすら許されない躰で、仇敵に刃を届かせるために。

 「中々言うじゃないか。それに『煉絶の瞳』の効果である『呪い』状態を受けながらも四肢を動かせるとは恐れ入った。───でもね」

 エイジは容赦なく、またも『魔眼』を解放した。

 血が流れて失明間近の瞳から絶え間なく『呪い』が放出され、裁弥の全身を焼いていく。

 「僕に敵う道理はない」

 その光景を見て胸を撫で下ろした。

 しかし気丈に振舞っているエイジとて2度目の『魔眼』の使用には耐えきれずに膝から崩れ落ちた。

 「もう『煉絶の瞳』は使い物にならないか」

 だが問題はない。奴は死んだ。これで───。


 「なに勝者の余裕出してんだよクソヤロウ」


 有り得ない。確実に皮膚から細胞までも余すことなく焼いたはずだ。

 どうして意識を保っていられる?

 どうして立ち上がってこれる?

 どうして、戦意を滾らせた眼をこちらに向けてくる───?

 全てがエイジの常識を超えていた。

 「ギリギリセーフだったぜ。こいつがなかったら死んでた」

 そう言って手を充てたのは零加(れいか)からもらったARデバイスだった。

 「どーやら緊急時には自動的に防御壁を貼ってくれる仕様みてぇだな。あいつも粋なことをする」

 「それも一度きりだろう。そう何度も使えるはずがない」

 両者ともに地を這い、それでも尚進み続ける。

 体を動かしているのはそれぞれの心に渦巻く理念だけ。それが存在している限り、互いは進むことを止めないはず───だったが、直ぐに決着はついた。

 「なぜ、動かない……!!」

 そう呟いたのはエイジだった。

 意思に反して体が言うことを効かないのだ。

 「理由は明白。削除までされた『魔眼』を何度も使ったことさ。テメェは眼だけに相当なダメージがいくんだと過信してたみてぇだが、手足にも同等のもんがきてたってわけだ」

 「な……!バ、バカな……!!」

 「俺はこの隙に回復アビリティで少しでも歩けるようにしておく。───わりぃが、今回ばかりは俺の勝ちだな」

 未だにふらつきはするも、立ち上がって歩行可能なまでになった裁弥を見てエイジは恨めしそうに睨んだ。

 「待て……!その先にはフロストがいる。今のその状態で、勝てると思っているのか……!」

 「知らねえよ。俺は新成を助けるためにここに来たんだ。そのためだったら、誰だろうとぶっ倒していくぜ」

 壁伝いに歩いていく裁弥。それを這って見送ることしかできないエイジ。

 もはや結果は火を見るより明らかだった。

 完全なる敗北。人生において初めての完敗が、エイジの心を刺激していた。

 「待て!黒宮 裁弥ァ!!裁弥ァァァァ!!!!」

 慟哭が室内に轟いた。

 それはエイジが自身の敗北を認める証であり、消滅したと思われていた感情が再起した瞬間であった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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