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イージス・ユートピア  作者: 鍋田 リューマ
イージス・ガーデン編
34/40

EPISODE XⅠ 「そして俺は戦い続ける←偽物の正義を名乗る者として」

 「なんだ、これは───!?」

 目を疑いたくなるような光景だった。

 生身の人間が入った培養カプセルが壁一面に無数に並べられている。

 今まで非現実的な出来事を何度も経験して慣れていたつもりだったが、これだけは規格外だった。

 「やあ、無事に辿り着けてよかったよ」

 裁弥(さいや)は声のする方向に漆黒に濡れた刀『黒霧刀(こくむとう)』を向けた。

 声の主は案の定、シュヴァルツの頭領であるエイジであり、敵意のないにこやかな笑顔でこちらを出迎える。

 「エイジ……!これは、一体……!?」

 「僕がわざわざ君をサポートして案内したのも皆を見せたかったからさ。この子たちは生きてる人間だよ。ただし、作成者は神じゃなく僕だけど」

 「な……!?」

 「そんなに驚くこともないだろう?君も愛しいお嫁さんが人造の産物だってことは知ってるはずだ。それに、『ジーナス』の存在も」

 ジーナス。

 以前、アイギス社の社長であり、イージス・ガーデンの開発者でもある綺羅山(きらやま) 宝剣(ほうけん)が自分達に告げた人造人間の総称だ。

 普通の人間と変わらない外見と口調を持つ完璧な『ヒト』を造り上げたアイギス社だが、ひとつだけ欠点があった。

 それは───。

 「こいつらがジーナスなら、それに見合った人々が犠牲になったってわけか」

 そう。ジーナスは作成する際、既存の人間をベースとしなければならない。

 もちろんベースとなった人間は死亡し、ジーナス当人はその事実を知らされもしない。

 たとえ人間を造れても、そのために誰かが死ぬ。

 そんな生産性の欠片もない神の真似事を、ここでも(おこな)っていたのだ。

 「いや、それは違う。僕が手ずから造ったジーナスは素体を必要とせず、無から生み出せる究極の存在なのさ。あんな偽物と一緒にしないでもらいたいな」

 「そうかよ。……しかし解せねえな。既存の技術だけでジーナスなんていうモンを造れるなんて、どうも腑に落ちねえ」

 「───そうか。クレステットからまだ何も聞いてないか」

 クレステット?なぜこいつの口からクレステット・ワルツの名前が出てくるんだ?

 やはりクレステットとシュヴァルツには何かしらの繋がりがあったのか?

 いや、それよりも───。

 「どういうこった……!?」

 「───僕は未来から来た人間なんだ。ジーナスは僕が未来で研究していたテーマのひとつで、苦難の末に生み出した僕の最高傑作でね。本来は窮屈になってきた社会を助けるために造って使われてきたんだが、技術の進歩に伴って新たなジーナスが開発されるようになった。その際に古いジーナスは全てリコールされるよう指示が出て、みんなは泣く泣く手放し始めたのさ」

 「そんなの、共存すればいいだけの話じゃねえか……!」

 「もちろん僕もそう思って抗議したよ。でも旧ジーナスは人間に近い外見と精神を造ろうとしたせいで自我を持つ者がたくさん出てきてね。人々はジーナスが人間に対して反逆を仕掛けるんじゃないかと思い始めたのさ。代わりに新ジーナスは感情そのものを排除して、人のストレスと悩みを解決するためだけの機械と化した。───笑っちゃうだろう?こんな結末、SF映画を観てたら誰だって気づくのにさ」

 「それに対して、テメェは何をしていたんだ……?まさか、民衆に紛れて威勢のいい言葉だけを発してたわけじゃねえよな」

 エイジは過去を懐かしむように。また、恨めしく思うようにジーナス達を見た。

 「───シュヴァルツというのはね、元々は彼らのために創った組織なんだ。身寄りがなく、人に捨てられて絶望しきったジーナスを救うために。でもそうしていくうちに国は僕らを危険分子として断定して、実力行使に出るようになった。それ以前も露骨とまではいかないものの、迫害とか、家畜同然の扱いをされていたんだ。それでも僕たちは負けず、毎日恐怖に怯えてながら過ごすジーナスを1人でも多く助けるために奔走した。───けどね」

 エイジは表情を曇らせ、ジーナス達から目を逸らした。

 「僕の所属してた開発元が国と結託してシュヴァルツへ奇襲攻撃を仕掛けてきたんだ。当然、僕らはすぐに反撃に転ずることができず、半数以上のジーナスを喪ってしまった。本当に悲しかったよ。悲しくて悲しくて、思い出せば今にも号泣してしまいそうなくらいに」

 「つーことはコイツらがその襲撃を逃れた『生き残り』ってわけか」

 それにしても奇妙だった。

 エイジ本人は悲哀の感情を顔や口には出しているが、こちらに意思が伝わってこない。

 もしや、こいつ───。

 「凄いね。僕の些細な言動だけで見抜くなんて。───そうさ。僕は絶望を極限にまで味わってしまったせいで、人並みの心を持つことができなくなってね。どんなに悲しいことが起きても、どんなに楽しいことが起きても、共感とか配慮なんていう感情が湧かないんだ。むしろ非人道的な行動をやれ、なんていう誰かの声が心の奥底から聞こえてくる。ホント参っちゃうよ」

 一点の曇りもない澄んだ瞳でエイジは答える。

 嘘はない。この男は多くの人々の屍の上で生き、そして変わった。

 裁弥はその様相に自分を重ねて一瞬だけ心境が揺らいだが、直ぐに立ち戻った。

 「……お前らの事情はよくわかった。けど許す訳にはいかねえんだよ。俺の仲間を殺し、家族を殺し、そしてフィナを殺したテメェらを、赦す訳にはなァ!!───ここで死に絶えろ、シュヴァルツ……!!」

 「それでいい。初めから君に同情なんて求めてない」

 裁弥は零加からもらった『Moa』の新型を起動し、『イージス・ガーデン』を展開する。

 これで意思ひとつでメイン装備である『黒霧刀(こくむとう)』を出現させられる。

 しかし、その前に。

 「最後に聞かせろ。お前が未来人だというなら、なぜ過去に来た?」

 「理想郷を創るためさ。元々は現実世界に創ろうと画策したけど、それには連中との和解が必要だったし、今更期待してなかったからね。そんな時、昔を調べてたら『イージス・ガーデン』と『AR適性』なんていう代物があったと知って、その時代まで僕が造った装置で飛んだのさ。結果として『AR適性』は実在し、僕が求めてた『スキル』も存在した」

 「随分と回りくどい方法だな。お前が手ずから『イージス・ガーデン』を造らなかったのは、新成がもういないからか」

 「ああ。さすがに人を蘇らせるのは不可能だったからね。仕方なく過去に赴いたのさ」

 「その言い分だと新成は無事みたいだな。───安心したぜ」

 裁弥から漆黒のオーラが溢れ、全身を覆う。

 これ以上の会話は不要、といわんばかりに黒霧刀が右手に携えられ、切っ先をエイジに向けた。

 「僕も聞きたいことがある。───人は腐ってると思わないか?フォーナルは人が創造したにしてはかなりの出来だったが、周りを取り囲むスラム同然となった街には目もくれない。存在自体が矛盾しているのさ。人を救うとか言っておきながら、目の前に在る問題を解決しようともしない。いや、解決できるだけの能力と資格がないと言った方がいいか。そんな只の人であり、性根すら腐った有象無象を、君は守るというのか?」

 裁弥は答えない。

 否、元々答えなど必要ないのだ。

 こんなことは今更確認すべきではないのだから。もはや、人類の危機などどうでもいいのだから。

 この先にいる1人の女を助けられればそれでいい。エクストラがどうなろうと知ったことではない。

 新成を連れて帰り、またあの教会で皆と過ごせれば世界などくれてやろう。

 裁弥は黒霧刀のリミッターを外していた。地球が耐久性を完全に無視していた。

 「やっぱり君は立場は違えど、僕らと同種の存在だよ。狂っていて、冷めていて、そして利己的な思考を持ってるんだから」

 言われるまでもない。自覚はある。

 世間一般の定義である所謂『正義の味方』であるならば、1人の人間より世界を取るだろう。

 しかし黒宮 裁弥は違った。世界を犠牲にしてでも、人類を破滅させてでも、自らの『理想』が大事なのだ。

 正義なんてものはフィナが死んだ時に捨ててきた。その代わり、自分と同じ輝きを放つ人々の味方になろうと決めた。

 それこそが黒宮 裁弥という『偽善者』が辿り着いた道であり、『生きる意味』に対する答えだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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