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イージス・ユートピア  作者: 鍋田 リューマ
イージス・ガーデン編
31/40

EPISODE Ⅷ 「エクストラという組織←失望しました」

 2031年。拡張現実犯罪対策機関『エクストラ』と、AR犯罪史上最悪のテロリスト集団『シュヴァルツ』は一触即発の情勢を辿っていた。

 このままいけば全面戦争まで発展してしまうだろう。

 シュヴァルツは武力での解決を、エクストラは一般市民への危害や外交問題の危険性を考慮して対話での解決をそれぞれ望んでいた。

 なのでエクストラは幾度と対談の機会を設けようとリーダーであるエイジに呼びかけるも応答はなく、時間だけが刻一刻と過ぎ去っていった。

 そして、半年後───。


 エクストラ本部 作戦会議室(ブリーフィングルーム)

 幹部クラスのメンバーが円卓式のテーブルを神妙な顔持ちで囲っていた。

 第1部隊~第20部隊までのチームリーダーが全員集合している様は、さながら1年半前の『フォーナル事件』における緊急会議を思わせる。

 各々が沈黙を貫く中、ひとりの女性が溜息をついて口を開いた。

「皆さん。進展がないせいで意気消沈してしまうのは分かりますが、何か話さないと……」

 女性の正体は旭山(あさひやま) 零加(れいか)だった。丁寧に手入れされた黒髪ロングヘアーと、驚くほど似合う黒のビジネススーツを着込んだ彼女は先陣をきって意見する。

「具体的な案が欲しいっすねー。旭山の当主さーん」

 話に乗ってきたのは第1部隊『アルファ』のリーダーであるスタッグだった。

 紫色の無造作ヘアーに、目の下にはくっきりと隈がある。スーツもよれてシワが目立ち、つまらなそうに欠伸をしている始末。

 とても部隊を率いる者とは思えない風貌と態度ではあるが、彼の実力は誰もが認めていた。

 エクストラの部隊に刻まれた数字はそれぞれ創られた年月と、強さや知名度、信用性を表している。

 なので番号が若ければ若いほどチームの総合戦闘力は高いことになり、アルファはその第1部隊に位置する存在なのだ。

「あちらさんとコンタクトがとれない現状をどう改善しようってんですかぁ~?」

「じゃあもう一度交渉を……!」

「無駄でしょー。……なら俺からも言わせてもらうけど、もう凸るしかないんじゃねーってー。連中の本部に特攻仕掛ければ一網打尽にできるっしょー」

「奴らの拠点すら把握していないのに出来るわけがないわ!」

「実はできてんだよねー。今日はそれを報告したくてわざわざ来たわけなんだけどー」

 席に座っていた全員が一斉にざわめいた。

「どうするー?やんならここで決めちまいましょー?どうせ暇なんだからさー」

 確かに合理的ではある。

 エクストラが懸念している市民の被害は抑えられるし、テロリストを作戦の元、制圧できれば海外からとやかく言われることもなくなるはず。

 ただ唯一の不安要素は、肝心の首領であるエイジが居るかどうか。

 幹部達もそれだけが気がかりなようで、中々賛成できずにいる。

「エイジが何処にいるかわからないこの状況下で……?」

 零加が皆の心境を代弁して言った。


「俺が突き止める」


 男の声が部屋中に轟く。

 幹部達が振り向くと、室内に設置されていた大型モニターがいつの間にか点いており、そこに1人の人物が映し出されていた。

「ロースト……!?」

 男は失踪して行方不明となっていた仲間 クロミヤ・ローストだった。

 自分が最後に目撃した頃より若干、髪が伸びていたり、瞳に生気が戻っていたりと違和感を覚えるが紛れもなくロースト本人である。

 フォーナルでの通信から1年半も経過して、なぜ今───。

「俺も奴の意見には賛成だ。このまま手を拱いていても埒が明かない。ならいっそこっちから攻めるのが吉だ」

「ロース───」

 零加が口を挟もうとしたが、スタッグに阻まれた。

「ロースト君、久しぶりだねぇー。いきなり現れて僕の味方をしてくれるなんて、よっぽど後ろめたい気持ちがあるのかなー?……それとも、反感を買わないように嘘をついてるとかー」

 スタッグがチラッと幹部連中を見ると、彼らは1人残らずローストを睨みつけていた。

「言っておくが俺はもう二度とエクストラに戻るつもりはない。これは俺個人がお前らに協力を申し出ているだけだ。この、黒宮(くろみや) 裁弥(さいや)がな」

 ローストがコードネームではなく、本名を名乗ったことに一部の人間の顔色が変わった。

 零加やスタッグも例外ではない。

「へぇー。ところで例のお姫様は無事なのかなー?もし生きてんなら人質として使えそうだし、こっちにちょーだぁーいー」

新成(にいな)を渡す気はない。勿論、シュヴァルツにもな。……情報が入り次第、再度連絡する。───もし、力ずくで新成を奪うつもりなら、俺は決して容赦はしない。全力でお前らを潰すぞ。覚えとけ」

 警告と共に映像は途切れた。

 突然の介入により会議室は騒然となるも、スタッグの一言によって終息を迎える。


「直ぐに逆探知して居場所特定してくれー。殺しにいくからさー」


 正気とは思えない台詞によって。

 幹部達が絶句している中、零加は静寂を破ってスタッグに噛み付いた。

「ふざけないで!今の見てなんとも思わないの!?彼の風貌、彼が自ら発した本名!明らかに戦いを捨てて、平穏な生活を送っていることの証拠だわ!」

「それがどーしたー?あいつが持ってくる情報とか絶対ガセだろうしよー。うろつかれても厄介だから、殺して姫君ぶんどって盾にした方が早いだろー」

「それでエイジが名乗り出てくる保証はないわ……!」

「来んだろー。つか、こっちサイドに姫君を置いとくのが当初の目的なわけだしー?そこから脅しかければエイジも出てくるしょー」

 かなり出鱈目で脈絡のない策略だが、誰1人として反論することはできなかった。

 彼の言うニーナ・セイントルウブの確保は元より決まっていたことであり、彼女を手中に収めればシュヴァルツとて容易に手出しはできなくなるであろう。

 更に上手くいけば休戦状態に持ち込むことも可能だ。

 長期戦になればなるほどエイジを炙り出す方法が増えていき、結果的にこちらの勝利に繋がる。

 ただ、ローストを犠牲にするという選択肢を除けばの話だが。

 零加が尚、反論すべく立ち上がったのも束の間、モニターが再度点灯した。

「スタッグ君。良い意見だが、あまり褒められたものじゃないな」

 聞き慣れた声だ。それもそのはず。

 声の主は我が旭山財閥の出資先である企業『アイギス』の社長であり、イージス・ガーデンの開発者でもある綺羅山(きらやま) 宝剣(ほうけん)その人だったのだから。

「綺羅山殿……」

 グレーのスーツに身を包んだ茶髪の男はニヤリと笑った。

 実年齢は30代半ばだろうが外見は20代を思えるほど若く、それが一層ミステリアスなオーラに拍車をかけている。

 そもそも彼がこうして人前に姿を現すことすら珍しい。アイギスの定例会議や株主総会に出席することもないため内部でも知っている人物は限られており、かくいう零加も3年前にバッタリ遭遇したおかげで知り合いになれた、というのが正直な話だ。

 そんな男がこうして機密を露見するなど、アイギスとしても余程切迫していると見るべきか。

「アンタに言われたくねーなー。録な指揮もしねーでいつも高みの見物でよー。俺らがどれだけ苦労してんのか分かってんのかー?」

「理解はしているつもりだ。それに現場の最高決定権は君に一任すると創設の際に説明しているだろう?」

 会話が一時的に中断された。

 この隙を逃すまいと零加は割って入り、綺羅山に申し出る。

「綺羅山殿。ロースト───黒宮 裁弥をみすみす死なせるのはエクストラにとって損害と私は思っております。ここは彼からの返答を待ち、待機するのが宜しいかと」

「零加さん、君とは相変わらず意見が合うな。───その通りだ。裁弥君を殺るのは私も同意できない。そもそも君達じゃ裁弥君に勝てないだろう。彼はエクストラの一個小隊を敵に回しても数秒でカタをつけられる実力の持ち主だよ?数の暴力で仕掛けたとしても、あのスタートアップ・サービスに太刀打ちできるかい?」

 綺羅山の放つ正論に幹部達は無言で頷き、納得する。

 しかしそれでもスタッグだけは反対の意志を示していた。

「意味わかんねえっすよー!まず───」

「既に半数以上が賛成している。君の意見はもはや無意味だ。……さて、これでようやく閉幕となったわけだが」

 綺羅山は解散するべくモニターの電源を落とそうとするも、零加がすんでのところで止めた。

「お待ちください。まだ説明してもらわねばならないことがあります」

「───なにかな?」

 零加は深く息を吸った。

「フォーナルについて。そもそも、ニーナ・セイントルウブとは何者なのか。───貴方には答えてもらう義務があります」

 明かされることのなかった真実を、零加は率直に聞いた。

 これを逃せば永遠に尋ねる機会は訪れないであろう。

 断られるのを承知で答えを待つも、返ってきたのは意外なものだった。

「いいだろう。フォーナルは知って通り、一般社会より拒絶されて生活を送れなくなった者を保護するための国だ。環境は中世ヨーロッパをベースとした自然豊かな街並み───所謂『異世界』を再現している。これにより人々は理想の世界を過ごすことができる、と当初は目論んでいたんだが、どうも上手くいかなくてね。困り果てたアイギスの研究チームは近年発見されたイージス・ガーデンの『AR適性』に目をつけたんだ。これを流用して都市サイズにまで拡大できれば、異世界の創成も夢じゃない、と。───ただ、重要なのはそれほどまでに膨大な量の適性値を持つ人間がいるかどうか。そこで目をつけたのが『ジーナス』という開発システム」

 またもや一部の幹部達がザワついた。

「ジーナスは人間を『創る』ことができる画期的な研究さ。まだ実践段階には至っていなかったが、素体となる人間がいれば成功率が上がると言われてね。そこで素体を探したわけだが、これが不思議と見つからない。───でも有る日、屋敷の襲撃事件があり、多くの死体がエクストラへ運び込まれたと報告があってね。これは使えると、見込んだわけだ。殆どの死体が酷く損傷していて使い物にならなくなっていたが、1人だけヒトの形を保っていたモノがあった。性別も女性だったし、何より生前は優秀な使用人だったと聞くじゃないか」

 零加の顔が青ざめた。

 ローストから断片的にしか聞いていなかったが、間違いない。

 その使用人とは、かつて彼が尊敬し、信頼していたという黒宮家のメイド『ティナ』だろう。

 綺羅山の言う通り、黒宮家に仕えていた使用人や親族の遺体は全てエクストラが回収し、調査のため司法解剖を行った上で埋葬したと報告書には記述されていた。

 だが、それが───。

「つまり貴方は、その『名も知らぬ』女性をベースにニーナ・セイントルウブを創ったと……?」

「ああ。現に結果は上々。膨大な『AR適性』によってフォーナルは現実となり、行き場を失った人々は楽園を手に入れた、という訳なんだが……」

 綺羅山は煩わしそうに顔を歪ませた。

「まさかシュヴァルツが邪魔してくるとはね。どこで情報を掴んだかは調査中だが、連中のせいで研究に支障が出たことに変わりない」

 正直なところ、今の零加にとって綺羅山の小言などどうでもよかった。

 ニーナの正体をローストは知っているのか?それだけが気がかりだった。

 そして、人の心を見透かしたように綺羅山は───。

「余計なことを考えているな?零加さん。───彼には伝えているよ。君のように、実にいい反応をしてくれた」

 ───これだ。ローストがエクストラ(こちら)に異常なまでの敵意を向けていたのは、これが原因だったのだ。

 零加は内心毒づいた。余計なことをしやがって、と。

「───」

 どうして、自分以外は黙っている?無表情を貫き通せる?この男が平然と語る『真実』に見向きもしないのは何故?

 たとえティナやニーナが他人であろうと、あまりにも倫理観から欠如した行為を無視できるわけがない。

 法を重んじて秩序を守る『エクストラ』の一員ならば尚更だ。

「スタッグ君、これまでの話を聞いてどう思う?」

 またもや綺羅山は心を読んでいるかのように、零加の心境を口にした。

「別にー。どうとも思わないっすねー。所詮は他人事でしょー。まあ、少しは〝可哀想だなぁ〟とは感じましたけど、いうてそんくらいじゃねー?」

 可哀想、だと?この男はそれで納得できるのか?

 飽くまでエクストラの一個小隊を率いるリーダーであるはずの人間が?

 自分のように問い詰めたり、声に出さずとも厭な顔をするものじゃないのか?

 自分がオカシイのか?否、そうではない。

 エクストラ(ここ)が、狂っているんだ。

「だろうね。───もう聞きたいことはないかな?では解散としよう。各員に指示があるまで待機するよう伝えておいてくれ」

 幹部達は「了解です」と言ってから席を立ち、まるで何事も無かったかのように会議室から出ていった。

「零加さん、残念ながらこれが人間(げんじつ)だよ。自らに影響しない事実には興味すらなく、あっとしても今のスタッグ君と同じ他愛のない感想を羅列するだけだ」

 頭上から降り注ぐ綺羅山の言葉を耳にし、零加はある行動に出た。

「だから、君もあまり気にしないで─────って、なにを」

 ズガンと、乾いた音が響いた。

 胸に着けていたエクストラのバッジを床に叩きつけ、ホルスターに仕舞っていた拳銃を引き抜き、そのままトリガーを引いてバッジを撃ったのだ。

 明白な、反逆行為。

 組織の要ともいえるシンボルマークを弾丸で破壊するなど、それ以外に形容しようがない。

 言い逃れできないくらいに突き抜けてしまった零加は、目を向けることなく、退出口となる扉へ歩いて行った。

「最後にひとつ聞きたい。───人間は、いつから腐ってしまったんだろうね」

「……………………貴方がイージス・ガーデン(こんなもの)を造ってからですよ」

 勢いよく扉が閉まり、室内に静寂が訪れる。

 戻ってくることはないだろう。それほどにまで苛烈で、覚悟を決めた一撃だった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

エクストラは第1~第20まで部隊がありますが、『AR適性』を扱えるのはほんの一部の隊員だけです。

それ以外はイージス・ユートピア本編でも出てきた『兵器用』のデバイスとイージス・ガーデンを使っています。

『兵器用』は凡人でも『AR適性』と同等といえるほどにまで仮想を現実化できるアイテムですが、やはり本来ある『AR適性』には敵わないため、苦戦を強いられることが多いのです。

このような工夫をして各地の事件を対処してきたエクストラでしたが、今回の話でエクストラも人間的にはシュヴァルツとそう大差ない組織であることが分かってきました。

次回からはロースト元い裁弥側のストーリーに切り替わりますので、今後ともどうぞ宜しくお願いします。

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