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イージス・ユートピア  作者: 鍋田 リューマ
イージス・ガーデン編
23/40

EPISODE Ⅰ「神の箱庭へようこそ←ニセモノの楽園」

今回からローストの過去を描く物語『イージス・ガーデン』を開始します。

 生きる意味。

 それは人が生涯をかけて探し求め、辿り着かぬまま淘汰されていく夢である。

 何の目的意識さえ与えられないまま生を受け、死んでいく様は傍から見れば滑稽と言えるのかもしれない。だが人々は思っていた。

 昔は叶わぬ夢だったそれが、今や可能となりつつある時代になっていると。

 2025年。科学技術が向上し、AR型デバイス Moa(モア)-001が開発されて人類は大きな躍進を遂げた。

 そして同時にAR対応アプリケーション『イージス・ガーデン』の発売により、世界は夢を実現できる最高の理想郷へと生まれ変わった──。

 これは、そんな時代で生きた男の物語である。


 タブレット端末に映し出された地図を頼りに、ローストは目的地である城へと出向していた。

 しかし、この現状を見るに、とても城があるような立派な国には到底思えない。何故なら災害が起きればたちまち崩壊してしまうあろう建造物と、最低限の整備すらされていない道路がそれを物語っているからだ。

 道中にて見かけた人々を見ても、日本や他の国々と比べると些か発展が遅れ、治安・経済・政治的にも不安定な国であることは容易に感じ取れた。

「あまり良いところではないな」

 ローストによる総評価がそっと呟かれた。

 AR技術という新進気鋭なテクノロジーが現実のものとなってから1年。

 それを利用して新たな国を建国しているという動きが近々あったというウワサは聞いていたが、これではマトモな支援すら受けられていないのではないか。

 そんなローストがふと遠方に目をやると、簡素な検問所が目に入った。

「これより先はセイントルウブ家の敷地である。通りたくば身分を証明するものを提示せよ」

 甲冑と鎧という如何にも中世らしい風貌に身を包んだ男2人がローストに迫る。

 腰に銀色のロングブレードを携帯している騎士にローストは、左腕に装着しているブレスレット型端末機器から個人情報を立体的に映し出し、男に見せた。

「AR犯罪対策組織『エクストラ』の第18部隊所属 ロースト。貴殿が仕えるニーナ・セイントルウブの要請により、この地へ参上した」

 すると男は引き下がり、閉じていたゲートのスイッチを起動させてローストを迎え入れた。

「これは……!」

 門の先には信じ難い光景が広がっていた。

 先程のスラム街とは打って変わり、草木が生い茂る中世ヨーロッパのような風景が一面を覆っていたのだ。

 建物は高層ビルなどが列挙するわけでもなく、石と木材で形成されたものであり、人々の風貌もそれに合った服装と装飾品を身につけていた。

 そう、まるで異世界のような──。


 ローストは街の中央に聳え立つ大きな城を目指し、鉄製のアタッシュケースを引っ提げて黙々と歩き、その間に頭の中で状況を整理した。

 ここまでの間に気付いたことといえば、最初に散策していたスラム街は不可視の壁によって見えなくなっていることだ。

 しかし、よく考えれば理由も想像がつく。

 周りが古臭い衣装を身にまとっているせいで自分が着ている黒のスーツが異様に目立ち、住人の目を引くが、それは見慣れていないからではない。

 連中は恐らく元は世間で暮らしていた一般人だろう。社会という閉鎖空間に苛まれ、最後の手段としてこの『異世界』に多額の金を費やして移住したんだろうな。

 つまり、彼らに外界の情報を与えないことで完璧な『異世界』を演じ切ることが、この壁の目的というわけだ。

 ならば現実世界でも暮らしていた彼らが何故、自分をここまで不思議と視るのか。

 それは依頼内容と『立場』が関係しているはずだ。

 城の正門まで進むと、燕尾服を着た金髪でモノクルを付けている男がひとりで待っていた。

「遥々お越し頂きありがとうございます。私の名はフロスト・フォレスト。当家にてニーナ様の執事を務めさせて頂いております。──それにしても、まさかその格好で来るとは」

「なんだ、こいつじゃダメだったか」

「追加資料に任務に関する注意事項が記載されていたはずです。同封した衣装からひとつを選び、それを任務当日着用するように、と」

 迂闊だった。

 メールには全て目を通したつもりだったが、たぶん上から届いていないモノがあったんだろうな。思いつく限りだと、理由をつけて私用やら私用やら私用やらでいつも出掛けているウチのボスの不手際くらいか。

 帰ったら覚えとけよ、あのマヌケ。

「じゃあ任務失敗か」

「いえ、我が主は寛大な方です。その程のミスならばお許しになられるでしょう。どうぞ此方へ」

 マヌケのせいにして帰れると思ったんだが、やっぱ無理か。

 できれば今すぐにでも帰りたいのに。

 連勤続きのせいで頭痛が酷く吐き気もするし、何よりこの『異世界』そのものが気に入らない。

 だが招かれた以上、断る訳にもいかないので、面倒だがフロストなる執事についていくことにしよう。

「既に貴方のお仲間がお待ちですよ。なんでも警護専門のチームだとか」

「仲間?呼んだのは俺だけじゃねえのか?」

「エクストラの第12部隊と名乗っておりました。同志ではないのですか?」

「立場が違う。──目的は同じだがな」

 ローストの所属するエクストラは24の小隊によって成り立っている。

 それぞれの部隊によって対応する事件が異なっており、ロースト含む12部隊『シグマフォース』は殺人・傷害を主に取り扱っているのだ。

 そんなローストが警護などという全く以て正反対のジャンルを押し付けられ、無理難題を言い渡されているのは紛れもない人員不足が原因である。

 まあ、その『人員不足』は言葉通りでない別の意味なのだが──。

「着きました。この先に12部隊の方々が待機しております。ニーナ様を呼んで参りますので、先の部屋で少々お待ちください。───そうそう。くれぐれも、ニーナ様の前では『現実世界』の話はしないように、お願いしますよ」

 念を押したフロストに一礼して横扉の向こう側へ消える。

 一方、ローストは訪れるであろう問題に杞憂しながら案内された待機室の扉を開けた。

「ん?──おい、見ろよ。場違いなヤツがいるぜ」

 男女含めて5人グループの中のひとりがこちらに気づいたらしく、ヒソヒソと仲間内で話し合いを始めた。

 ローストはそんなこと心にも留めずに彼らとは距離を置き、柱の傍にて腕を組んで時を待つ。

「よう。お前らってまだ生きてたんだなぁ?」

 話しかけてきたのは騎士風の格好をした茶髪の男。

 第12部隊『ミューフォース』のリーダーで、近接戦闘に長けたエクストラでも指折りの実力者だ。

 後ろに控えて笑っている連中も各所で実績を上げているエリートであり、世間からの評判もいい。

 しかし──組織の中では選民意識に固執し、下位の部隊を見下している正反対な一面を持つという噂がある。

「おい、なにシカトしてんだよ。せっかく俺が気を利かせて話振ってやってるんだ。少しは反応しろよ」

 噂通り挑発しながら胸倉を掴んできたリーダー格の男は、何の抵抗もしないローストを見て嘲笑う。

 このまま拳による一撃でも飛んでくるかと思いきや、前触れもなしに開かれた扉の音を聞いて即座に手を下ろした。

「静粛に!ニーナ・セイントルウブ様のお見えです」

 フロストが透き通るような声で喚起すると、メイドや執事に連れられてひとりの少女が現れた。

 金髪のロングヘアーに潤しい紺碧の瞳、背は女子高校生の平均をやや下回っていると思われ、白を基準とした綺麗なドレスに身を包んでいる。

『お姫様』と呼ぶに相応しい典型的なポイントを幾つも兼ね備えた容姿にローストでさえも目を奪われ、無意識に凝視していた。

「ニーナ様があなた方を呼んだのは、セイントルウブ家が統治する『フォーナル』を脅かす『敵軍』がいるという情報を手に入れたからに他なりません。しかし規模や勢力は未知数で、いつ襲ってくるやも不明。わかっているのはそういった輩がいるという事実だけ。未確定情報ばかりで心許ないですが、その脅威に対抗すべく、『異世界転生者』であるあなた方の実力を見込み、全力でニーナ様を守護することをここに命じます!」

 室内に轟いたフロストの宣言を聞き、ミューフォースの連中は一斉にそれも律儀に敬礼を実行した。

 成程、そういう『設定』か。

 だから先程、フロストなる執事は自分に現実世界の情報をお姫様に提供しないことを念押しさせたのだ。

 ローストはそんな光景をバカバカしいと感じて部屋から退室し、人がおらず城の内部をマッピングしやすいテラスへ移動してスマートウォッチ型デバイス 『Moa-GII』を起動させる。

「3Fに応接室──その隣に書庫。ああ、お姫様の寝室は3Fか。……これは?」

 地図上に『ERROR』と表示された部屋があった。地下4Fの一角だ。

 エクストラから支給された特注の『GII』なら干渉できないエリアはないはずだが、なぜこんなことが起きる?

 面倒だが精密な調査を依頼するため、フィールドマップをエクストラの解析班へ送らなければ──。

「なぜ抜け出したんですか?」

 画面を操作する手が止まった。

 だが想定内ではあった。ただ、コンタクトするタイミングが予想より早いだけで。

 金髪のお姫様が臆することなく話しかけてきた。

「なぜ、あなたは皆さんと話し合わないのですか?」

「そんなこと聞いてどうする?必要ねえだろ」

 作業を中断してローストは声の主と対面すべく振り返る。

 先程まで無言で立ち尽くしていた容姿端麗のお姫様 ニーナ・セイントルウブが、ローストを威嚇するような真剣な眼差しでこちらを見ていた。

「私を守って下さるなら知るのは当然のことです。だってそうでしょう?知らなければ──」

「知って良いことなんてなんもねえよ。気にしてる暇あったら、部屋に篭ってじっとしてろ」

 声を張って強制的に会話を終了させる。

「そうですよね、ごめんなさい」

 ニーナは悲しそうに目線を下げ、素直にテラスから足を遠ざけた。


 丑三つ時。ヒトは勿論、草木も眠りにつく時間。

 それでもミューフォースのメンバーは交代制でニーナの部屋の前を行き来し、襲ってくるやもわからない敵のために警戒を続けていた。

「おい、交替だ。休んでいいぞ」

 茶髪の男──ミューフォースリーダー ザインは眠そうな部下に声をかけた。

「ふぁ~あ。しっかしホントに来るんスかねぇ。あの執事、どうにも信用できなくて」

「俺も同感だ。だがシグマフォースが来ている以上、可能性がないとは言えん」

「問題児ばかり集めた掃き溜めチームでしょ?買いかぶりすぎッスよ」

 ザインに反して部下は嘲笑いながら一蹴した。

 確かにエクストラにおいてシグマフォースは『落ちこぼれ集団』として蔑まれている。

 しかしそれと同時に奇妙な噂もある。

「あまり過信するな。奴らは──」

 言い終える前に部下が叫んだ。

「ヤバいッス!部屋ん中に熱源反応!侵入者ッスよ!!」

「なに!?」

 ザインはノブを回し、部屋に突入する。

 しかしそれらしき人物は見当たらず、肝心の護衛対象であるニーナ・セイントルウブもベッドの上で読書に耽っていた。

「どうかされました?」

「いえ…………。おい!どういう…………」

 部下に話を聞こうと振り返った瞬間、ザインの腹部にナイフが刺さった。

 いや、正確に言うなれば『刺された』というのが正しいか。今まで平然と会話し、信頼を寄せていた自分の部下に。

「貴様ッ…………!!」

「いやあ、マジ拍子抜けッスわ。いつかバレると思ったけど、まさかイケちゃうとはね。エリートチームでこれなんだから、エクストラの底が知れるってもんよ」

「なぜだ…………!なぜこんなことをした!」

「あれ?まだ気づかないッスか?コイツ本体もうとっくに死んでるんだぜ?俺が体乗っ取った時にね」

 意味がわからない。出血により思考回路が停止しかけているのか、理解することができない。

 だが得体の知れない恐怖が男の狂気さに拍車をかけていることだけはわかった。

「まあ、そんなことより早いとこ死んでくれや」

「ま!待って…………!!」

 ザインの静止は叶わず、部下だった男による追撃の刺殺で絶命させられる。

 男はザインの死体を踏みつけてニーナの前まで進み、血で濡れたナイフを首元に押し当ててニヤリと笑った。

「初めまして、ニーナ・セイントルウブ。アンタを拉致りにきた」

 そう言うと男はニーナの耳元に小型の機械装置をかざし、瞬く間に眠らせる。

 そのままニーナを肩に担いで窓を開け、闇が広がる漆黒の空に向かって飛び出した。

 しかし、それはあまりにも軽率すぎた。

 連絡するべく通信端末を取り出した時、遠方より放たれた弾丸が彼の端末機器を一瞬のうちにスクラップへと変え、逃走していた歩を止めさせた。

 〝狙撃──!?〟

 銃声は聞こえなかった。

 その前に何処から撃ってきた?

 ここ一帯の調査は事前に済ませ、狙撃手が陣取れる様な建造物はないはずだ。

 ならば考えられる答えはひとつ。敵は何らかの『スキル』を使って、弾丸をここまで届くように仕向けたのだ。

 そうなればここはひとまず身を隠して──。


「よう」


 背後に感じた強い殺気に反応して男は体を逸らした。

 しかし相手はそれを予見していたかのように動き、隙ができた男からニーナを奪って間合いをとった。

「第1目標クリア。これより対象の制圧に入る」

 相手は右手に漆黒の刀を自動生成し、自分の後ろにニーナとアタッシュケースを置いた。

「テメェ、エクストラか」

「そうだ犯罪者。お前を殺しにきた」

 黒のスーツとスボンで身を固めた目付きの悪い男 ローストは得物である『黒霧刀(こくむとう)』の切っ先を対象に向けた。

「そのカタナ……!『ブラック・ミスト』か!世界各地のサイバーテロリストどもを殺しまくってるイカれた英雄だろ?こんなとこで相見えるなんて光栄だぜ!」

 興奮している犯罪者に目を細め、ローストは耳につけている無線機に何かを囁いた。

「んだ?どうした?お仲間の狙撃手に俺を殺してもらう算段でもつけてもらってんのか?」

「いや逆だ。お前とサシで決着をつけ、任務を完遂する」

「そうかい、じゃあその度胸に免じてこれだけは教えてやる。俺はファントム。イージス・ガーデン内だとそう呼ばれてる」

 そのプレイヤーネームを聞き、ローストは眉をひそめた。

「ファントム……?聞いたことがあるような……。まあどうでもいいか」

 ローストはアタッシュケースと黒霧刀を携え、ファントムに特攻した。

 間合いにして約5m。これでは防御のしようもない距離だろうが、ファントムは服の内側から複数のナイフを取り出して投擲した。

 しかしローストはそれを予測していたかのようにアタッシュケースを眼前に向け、迫り来る銀の刃から身を守った。

 加えてアタッシュケースを宙に放り、隙が出来たファントムへと刀を振り下ろす。

「ざけんな!!」

 感情を露わにしたファントムは眼を大きく開いて威圧のようなものを飛ばす。

 それに勘づいたローストは後ろに跳躍し、それと同時にアタッシュケースの中に保管されていた水平2連ソードオフ・ショットガンを掴んで着地と同時に銃口を向けた。

「中々の芸当じゃねえの」

 ファントムは賞賛の言葉を送る中、ローストはひとつの考察に辿り着いていた。

「さっきの飛ばした圧、『アビリティ』だろ?それも状態異常:スタンを浴びせられる『ショック・ウェーブ』とみた」

「すげぇ!くらってもいねえのに当てやがった……!洞察力と経験だけで!これが『ブラック・ミスト』か……!!」

「感心してないで早く来い」

 こう言いつつもこの男は散弾銃など目もくれず、挙げ句の果てには弾道を見切って回避すらしてくるだろう。

 そんなことは百も承知。『現実』の銃によるダメージなど端から期待していない。

 やはり互角に渡り合うことができるのは、仮想を実体化させられる特性を備えた体質『AR適性』の武装のみ。

「ああ、そうしようぜ。あんまりお喋りしてると上に怒られちまう。そろそろケリつけねえとな……!」

 ファントムはジャケットの内側から4本のナイフを取り出してバラ撒き、更に周囲に薄い膜を放出する。

 するとナイフは意思を持ったかのように宙に浮き始め、躊躇なくローストへと襲いかかった。

 ローストは臆することなく散弾銃のトリガーを引いてショットシェルを前方に展開させ、ナイフを地に落とし──たはずだった。

「なに──?」

 ナイフが避けた。

 偶然が重なって奇跡的に外れたというわけではない。

 言い逃れのしようがないほど正確に回避し、変わらず命を奪うため刃を向けてくる。

 しかしこのまま終わるローストではない。

 黒霧刀を地面に突き刺して周りに衝撃波を飛ばし、飛来してくるナイフを全て打ち落とした。

「これがお前の『スタートアップ・サービス』だな?人に憑くだけでなく、モノにまで憑依できるとは。こういう系統のスキルは初めて見る」

 スタートアップ・サービス。

『イージス・ガーデン』を始めた際に入手できるスキルや武器のことで、そのプレイヤーの性格や個性をAIが判断して付与される。

 そしてこのシステムの最たる特徴は、同じものが存在しないということ。

 そのため他のプレイヤーのスキル等を欲しがる者もいるが、自分のスタートアップ・サービスほどの性能は引き出せない。

 だが勿論のこと強弱の格差はある訳で、その中でも特に際立った強さを持つのが通称『ノット・スタンダード』と呼ばれているモノだ。

「まさか『ノット・スタンダード』か?噂でしか聞いたことがなかったが……」

「へぇ、やっぱすげえな。──当たりだぜ」

 落としたはずのナイフが再び力を得て舞い始める。

 これではキリがない。本体であるファントムを倒さない限りは永遠と続くであろう。

 それかナイフを武器として操れぬほど粉々に粉砕するかだが、ヤツに主導権があるため、その手法を取ると余計な体力を消耗する羽目になる。

 さて、どちらが正しい選択肢だ?

「戦術プランは導き出せたかい」

 挑発するように余裕の表情を見せているファントムは、トドメと言わんばかりに4本のナイフを一斉掃射する。

 変則的に動く短剣。

 捉えどころのない攻撃に見えるも、ひとつだけ弱点がある。

 それは──。

「『ダークネスII』

 ローストが呟いたアビリティ名と同時に黒霧刀を横に薙いだ。

 物理的に破壊するためではなく、ワザを発動させるための前準備として。

 空を切った黒霧刀の残像に底の見えない『黒い穴』が生成され、ナイフは次々と穴に落ちて『消滅』していく。

 これこそ黒霧刀の真骨頂。

 なにかを消し去る、という能力。

「死ね」

 発生した事態が掴めていないファントムの命を獲るべく、ローストは地を駆ける。

 上段に刀を構え、一撃必殺を狙うため頭上より斬り伏せ──。


「ダメ!」


 すんでのところで止まった。

 今まで圧倒的で且つ、非現実的な戦いを目を丸くしながら静観していた金髪のお姫様──ニーナ・セイントルウブが、ファントムの前に両手を広げて立ち塞がった。

「何をしている……!?そこを退け!ヤツは殺さねばならない犯罪者なんだぞ!」

 ローストは強引にニーナを引き剥がし、犯罪者に制裁を与えるべく刀を振り上げた。

「チッ……。消えたか」

 既にこの肉体からはヤツの気配は感じない。

 どうやら任務失敗と断定し、潔く撤退したようだ。

「クソがッ!……アンタが邪魔しなけりゃヤツを確実に殺せた。何故、こんな真似を……!!」

 ニーナはローストのぶっきらぼうな言葉遣いに物怖じすることなく、誠実な眼差しで答えた。

「話を聞いていた限りでは、この方は『敵』に操られていただけなのでしょう?なら殺生してしまえば『巻き添え』としてこの方も亡くなっていたはずです。それにいくら不届き者といえど、容赦なくいきなり手にかけるのはどうかと……!」

「ああ、そうかよ。じゃあ言うけどな。もうこいつは死んでたんだよ。アレが取り憑く前にな。あと『不届き者』についてだが、ヤツは数多くの罪なき人々を殺してきた列記とした犯罪者だ。死んでいい理由になるには十分過ぎるほどに……!」

 ローストは迸る怨恨に近い感情を抑えながら散弾銃をアタッシュケースに、実体化していた黒霧刀をインベントリに収納した。

「ともかくアンタの護衛は続けてやる。金はもらってるからな。だが二度と、俺の邪魔はしないでくれ……!」

 片付け終えたローストは帰還するべく城へと歩を進める。

 その後を追うようにニーナが付いてくるが、裸足で歩きにくいのか、動きがぎこちない。

「……大丈夫です。すぐに追いつきますから。──ッ!」

 見た目に似合わず強がっているニーナを見て、ローストは溜息をついてから彼女の元へと戻り、両手で体を抱え上げた。

「な、なにを──!?」

「汗臭いかもしれんが我慢してくれ。足の裏が傷だらけになるよりかはマシだろ」

 夜が明け、日が昇りつつある空を背に、ローストはセイントルウブの城を目指して歩き出した。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

イージス・ガーデンは10話程度を予定しております。

今後ともよろしくお願いします。

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