第22話「俺の物語←序章に過ぎず」
ネガは未曾有の『脅威』に耐えかね、悲鳴を上げていた。
片や人類史上最高傑作の自律移動型AI『アサルト』が繰り出す正方形のキューブ『バックアップ・セメタリー』と黒刀『儡惨』による熾烈を極めた猛攻。
片やイージス・ユートピアで伝説として謳われるサムライこと『ブレイク』の『リミット・オーバー』で強化された体躯より放たれる命を賭した連撃。
両者の規定値を遥かに超えた攻撃により、周囲にポップする人型モンスター『ノイズ』は湧いた瞬間に塵芥。
この戦場に近づけば、たとえスタートアップ・サービスを極めた熟練プレイヤーであろうと一瞬で四散してしまうだろう。
それ程にまで激甚で、凄絶を極めていた。
「ぐッ……!」
ブレイクは胸を締め付ける激痛に危険を感じ、アサルトから間合いをとった。
ナギヤ達がネガへ突入してから2時間と30分が経過している。
早いところ決着をつけて帰還したいところだが、体の自由が効かない。
初めて『リミット・オーバー』のデメリットにここまで耐え続けたみたものの、予想以上だ。
一度解除するという選択肢もあったが、してしまえば素の実力で、更に肉体と精神が疲弊している中でアサルトとは対峙できないだろう。
「やるか……!」
ならば答えはひとつしかない。
持ちうるアビリティの中で最上のワザを使い、この男を倒す。
それがブレイクに──黒宮 裁破に残された最後の手段だった。
「来るか?」
対するアサルトも勘づいたらしく、黒刀『儡惨』を纏う漆黒のオーラをより一層濃縮させる。
〝これで全てを……!行くぞ……!!〟
地面を蹴った。
アビリティ『瞬動IX』を使い、移動速度を最大にまで引き上げ、アサルトに迫る。
肉眼で捉えることは不可能なほどの速さを誇る『瞬動IX』の前では、如何なるスキル・アビリティも無力だと思っていたが、早計だった。
「『黒龍乱舞』発動」
儡惨を地に突き刺し、漏れ出した闇を地中に張り巡らせ、具現化した闇を地表に生じている割れ目から出現させる。
龍の『影』と呼ぶに相応しい体躯をしている闇が5体ほど宙に飛翔し、ブレイク目掛けて頭突きを開始した。
「こいつ……!!」
この『影の龍』達は儡惨の扱えるアビリティの中でも最強に近いモノだろう。
回避することはできるが、現状のような速度系のアビリティの加護がない状況では難しいほどの大技だ。
しかし、ブレイクが驚いたのはそこではなかった。
『影の龍』も脅威ではあるが、真に警戒すべきは『瞬動IX』を捉えられている事実だ。
『IX』とはスキル・アビリティ、魔術の熟練度を示す数字である。上位に位置にも関わらず、それをものともしない『眼』の良さ。
──『魔眼』だろう。
瞬動IXを無力化できる能力を持つ『魔眼』を『バックアップ・セメタリー』から召喚し、その瞳に宿している。
「気づいたか!だがもう遅い!!」
恐らくヤツは自分が最上のアビリティを使って勝負を決めてくることを察している。
だからこそ、これほどの『質量』を惜しみなく駆使しているのだろう。
ならば自分がこの先使うアビリティも当然読まれているに違いない。
それでもいい。いや、そう思ってくれることを祈る。
瞬動により背後を取り、隙を見せた瞬間に刀『銀嶺』を納めてアビリティ発動姿勢を──!!
「かかった!」
死角となっていた真下から『影の龍』が突き出て、ブレイクの腹部を貫いた。
血を流し、躰を痙攣させている様子は『本物』に相違ない。
──忌々しい仇敵を倒した。
その事実にアサルトは勝利を確信し、笑みさえ浮かべた。
だが、何かが不自然だ。
ふと『本物』の死体を見ると、僅かだが透けている。
まさか新たなアビリティか?否、撃破された後に発動するアビリティなどない。
何が起きて──?
「『斬々裂刀』」
聞き慣れた声に反応し、真横を見る。
すると、無傷の状態で銀嶺を右手に持っているブレイクがそこにいた。
その瞬間、全身に鋭い痛みが走り、為す術なく地に伏した。
「序盤に俺が『斬置裂刀』を使った時に気づくべきだったんだ。過去の記憶はアテにはならないってな。それでもお前は記憶に頼り、慢心して勝利を驕った。その結果がこの有様だ」
「何故だ……!『斬々裂刀』は、見えぬほどの速度で相手を必ず切り伏せるアビリティのはず……!それなのに、これはなんだ……!!」
影の龍が貫いたブレイクは既に消えていた。
腑に落ちない。敗北に至らしめた未知のアビリティは、一体なんだ。
「お前が最初に攻撃したのは単なる『残像』だ。多少の自我を持ち、人間としての活動をするだけのな」
有り得ない、そう声に出そうとしても上手く発音できない。
痛みがアサルトを人たらしめた機能を停止させていく。
これが、死、なのか。
「よしっ」
ブレイクは『リミット・オーバー』を解除し、倒れているアサルトの肩を担いで立ち上がらせた。
「な、なにを……!」
「これでもう抵抗はできないだろ?確かにお前は許されないことをしたし、帰ったら今までやってきたことの報いは受けてもらう。だが、今は生きろ」
「ふざけるな!僕を殺さなきゃ、ネガ世界は消滅しないんだぞ!」
ブレイクは溜息をつき、微笑んだ。
「なら他の方法を探すまでだ。お前だって、本心じゃ死にたくないって思ってるはずだ」
「なぜ、僕をそこまで……?」
「ホントは説得が失敗したら諦めようと思ってたんだけど、やっぱ消し飛ばしてお終いはいくら何でも無責任すぎる。安心しろ、皆には俺から言って──」
「詰まらん」
黄金の一閃が、アサルトの背中を貫いた。
力を失った肉体が肩から崩れ落ち、虚ろな瞳となって蒸発していく。
「アサルト!──ッ!?」
胸部に走る心臓を穿つような激痛。
この痛みは……!?
だがおかしい。『リミット・オーバー』は、解除したのに……!!
「後遺症だ。君が再度、リミット・オーバーを使うことは分かっていたからね。少しだけだが、体に細工しておいたのさ」
「お前は……!?」
薄れゆく意識の中、相手の顔を見ようとしたが、ボヤけていてよく見えない。
刀を執ることさえできない。
嗚呼、これで終わりか。けど薄々感じてはいた。
でもいい。俺の意思は、ナギヤが受け継いで──。
「さようなら、ブレイク君」
思考が消滅し、身を任せるままに倒れる。
かくしてブレイク──黒宮 裁破の物語は、幕を閉じた。
翌日
2056年 1月1日
ローストは病院のベッドの上で目を覚ました。
白髪混じりのオールバックに、若かりし頃のギラつきが僅かに残っている瞳を持っている男は、傍らで椅子に座っている涙跡のある旧知の仲間を起こした。
「おい」
大して抑揚のない声なのにも関わらず、黒髪ロングヘアーの女 旭山 零加は体を震わせて起きた。
「あら起きたの。もう目覚めないかと思ってたけど」
「バカ言うな。その反対を願ってたのはテメェだろ。……また発作か?」
「ええ。レイド・ストリームの拠点でファントムと戦った後に」
微かだが力の入らない四肢はそのせいか。
精々、倒れた後にシステムが検知して自動ログアウトし、それを零加が発見して今に至るという寸法だろう。
しかしやり切った後ならば問題ない。
「裁破はどうした?」
「……ごめんなさい。帰ってきていないわ。今のところ行方不明ってことになってるけど、難しいでしょうね」
「お前が謝る必要はねえ。あいつも多少なり覚悟していただろうよ。そうだ、そういやファントムを撃退した時、気になるヤツが──」
そんな会話をしている中、重くなりつつある空気を切り裂くように、病室のドアをノックする音が室内に響いた。
「失礼します」
入ってきたのは金髪のワンサイドアップに、悲しみを必死に隠そうと切り詰めた顔をしている少女──ナギヤこと神城 凪佳だった。
「悪いな。俺があそこでぶっ倒れなきゃ、裁破を助けに行けたのによ」
「いえ、ローストさんのせいじゃありません。ボクがもっと強ければよかったんです」
「……もういいのか?お前くらいの歳なら、まだ後悔の念に囚われててもいいんだぜ」
「確かに今でもまだ泣きたいくらい悲しいです。でも、だからといっていつまでもクヨクヨしてちゃ何もできませんから。なのでボクはこれからブレイクさんの意思を継いで、あの世界と大切な仲間を守っていくつもりです」
「そうか……。そう決めたのなら、俺に言うことはねえ。──それで?言いに来たのはそれだとしても、聞きに来たのはどういう用件だ?」
ローストは凪佳から未だに迸っている緊張感を察知し、言葉にした。
「昔話を聞きに。ローストさんや零加さんが戦っていた頃の」
「なるほどな。俺もそろそろ話そうと思っていた。さっき言いかけたことと関係もあるしな。──いいぜ。少し長いから、気をつけてな」
to be continued?
Yes!
Next:【イージス・ガーデン -Aegis・Garden-】
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
次回からローストを主人公とした過去編『イージス・ガーデン』を執筆していくつもりです。
尚、まだ途中ですが、順次、後書きの方に『クレステット・ワルツの解説コーナー』を追加していきますので、どうぞよろしくお願いします。




