第20話「限界突破【リミット オーバー】←ここで終わらせよう」
〝最後にひとつ聞きたい。どうして、『イージス・ユートピア』なんてゲームタイトルをつけたんだ?〟
ブレイク元い黒宮裁刃は理想郷へログインする前に、理想郷を創った男に質問した。
〝『イージス』というのはね、ゼウス神が使ったあらゆる厄災や邪悪を取り除いたとされている盾を意味しているんだ。──僕はあの世界で全ての人が平穏に暮らせて、なんの不自由もなく過ごせるようにと願っている。これでは不満かな?〟
〝……いいや、むしろ納得した〟
数分前──。
ライリキス・ヘブンズ・サーフィーストの体力は、底を尽きかけていた。
この場合の『体力』とは、アバターキャラに付与されている数値的な意味での『体力』ではなく、精神的な意味での『体力』である。
だからこそ良くない。この悪循環をどうにかして解消しなければ。
しかしよく考えてみれば、2時間にも渡って漆黒の魔獣『ヘルハウンド』を使役し、果てには自らを防衛するべくアビリティを駆使しているのだから当たり前か。
本音を言うとどこかのタイミングで隙を見つけ、ポーションで数値的な『体力』だけでも回復したいものだが、目の前で無限にポップしてくる人型の影のモブ『ノイズ』がそうさせてくれない。
個々の戦闘力は目を張るほどではないが、問題なのはその圧倒的な個体数にある。
『対:MOB特化』のアビリティを持っているヘルハウンドの『シュガー』でも苦戦するほどで、このままでは疲労が蓄積した瞬間を狙われ、敗北を喫してしまうのがオチだろう。
普段のイージス・ユートピア内での敗北ならまだいい。
だがここは『ネガ世界』だ。一度でもゲームオーバーになってしまえばアバターが手元から消えてしまい、二度とログインできなくなる。
更に運が悪ければアバターと共に現実世界の肉体までも幽閉されるらしい。
どうやらネガ世界の不安定な状態がそうさせているようだが、そんなのは御免だ。
ここは休息をとるべく、取り敢えず退却を──。
「──ッ!?」
早計だった。
背後には既に腕をナイフに変形させた黒い影が迫っていた。
シュガーの援護も間に合わない。
マズい、喉を掻き切られ──。
「油断しすぎだ」
ザシュッ、という斬撃音と同時に影が崩れ落ちた。
同志が倒されたことに憤慨するかのように傍観していたノイズが一斉に襲いかかる。
しかし目の前に降り立った黒装束の男はそんなもの意に介さず、刀を横に薙ぐだけでノイズを一掃してみせた。
刀系アビリティ『斬砲裂刀』
大砲のような規格外の破壊力を誇るそのアビリティを揮った男は、朱色の髪を靡かせているライリに手を差し出した。
「遅くなったな。大丈夫か?」
相変わらずだ、こいつは。
どんな窮地に居合わせようとも、必ず安心させてくれる。
ライリは込み上げてきた温かさを無視できず、不意に笑った。
「おせーよ、バーカ」
そして現在──。
「有り得ない。君は確かに片腕を故障し、とても戦える状態ではなかった。なぜ、この場所にいる?」
仮面の男──アサルトは予想だにしていなかった人物の登場に軽く動揺する。
当たり前だろう。なにせ、ブレイクは執拗に痛めつけて嬲り、二度と理想郷に足を踏み入れることなどできないほどの重体にまで追い込んだはずなのだ。
それをなぜ──。
「アイギスの親玉が手を貸してくれたからさ。昔の『借り』の返済としてな」
アサルトはブレイクの口から出た『アイギス』という単語に反応し、苦笑した。
「アイギスか……。僕を始末するために君を寄越したんだろう?くだらない話だ。どうせ、君もあの連中の闇をわかっては──」
「いや、理解している」
想像とは裏腹の答えにアサルトを顔を上げ、目線を向けた。
「アイギスとシュヴァルツは何らかの因果関係があることとか、ネガ事件もアイギスが一枚噛んでるんじゃないかとかな」
「なら、なぜ連中に協力する?」
「そりゃ今はそれよりもお前を止めることが大事だからに決まってるだろ。もうお前は取り返しのつかないところまで来ている。これ以上は看過できない」
ブレイクの真っ直ぐで、しかし冷淡な口調にナギヤは息を呑んだ。
「ナギヤ、よく戦ってくれた。後は任せてくれ」
「で、でも……!ブレイクさんだけじゃ──!」
言い終える前にブレイクは手を翳し、催眠系アビリティでナギヤを眠らせた。
倒れゆく彼女を同行してきたライリが受け止め、ブレイクに一瞥する。
「ありがとう、ライリ。……じゃあな」
「──ああ」
それだけ言い残して飛び去っていくライリを追うべくアサルトは体躯を動かすが、白銀のカラーリングが施された刀『銀嶺』によって遮られる。
「こっちも聞きたいことがある。今更どうしてナギヤが必要なんだ?世界を新たに創造するなら、お前だけでも十分だろう」
「……わかってないな。僕が創れるのはネガという『骨組み』だけ。そこに肉付けしていって世界として完成させられるのに、ナギヤという人間が要るんだ」
もはやアサルトはブレイクを無視してまでライリを追う意思はない。
ここで早々に決着を付け、最大の障壁を排除した上で追跡した方がより確実なのだから。
「判らない。ナギヤの『魔操術』にそこまでの能力があるっていうのか?」
「何も知らないというのは愚かだな。彼女の真のスタートアップ・サービスは『魔操術』じゃない。『クリエイト・ユートピア』というDNAに刻まれたスキルこそが、ナギヤの真価なのさ」
聞いたことがないスキルだ。
恐らく自分のスタートアップ・サービスである『リミット・オーバー』のように、本来はゲームシステムに組み込まれる予定のなかったスキルなんだろう。
でなければ説明がつかない。
そもそもDNAに刻まれたスキルなんて、想像の範疇を超えている。
「本来は『魔操術』という呼び水を使って『クリエイト・ユートピア』を目覚めさせようと画策していたんだが、上手くいかなくてね。だから仕方なく僕の『バックアップ・セメタリー』で保存を試みようとしたわけ」
話が壮大すぎる。
イージス・ユートピアという仮想世界の枠を超え始めている。
とても真実だとは思えないが、心のどこかでは納得している自分がいることに気づいた。
なにせ自分がサムライとなり、数多のプレイヤーを斬った過去があるせいでアサルトというAIが誕生しているのだから。有り得ない話ではない。
つまり、そこから事は始まっていたのだ。だが臆することはない。
その時の過去にケリをつけるために、あの時着ていた黒の着物と袴という『黒装束』をわざわざ身につけたのだから。
本当に、良い機会だ──。
「その突拍子のない話が真実なら、ここでお前を止めなきゃマジでヤバいってことだ」
ブレイクは銀嶺の柄を握り直した。
「結局、君は『本来の自分』を取り戻せずに戦い続けるんだね。あの偽物の理想郷を守る守護者として、永遠に」
それに呼応するようにアサルトも正方形のキューブ『バックアップ・セメタリー』から黒色の刀『儡惨』を鞘から抜くように取り出した。
「いや、既にこの手にある。確かに俺はサムライとなった弊害で『本来の自分』を忘れた。自我が侵食されていく中、持ち合わせていた理想が消えるほどに。──だが気付いたのさ。取り戻す必要はない、と」
体の周りに漆黒のオーラが浮かび始め、それが妖しくも魅惑的な雰囲気を醸し出させる。
危険だと判っていながらも近づいてしまうほどにまで蠱惑的な『黒』。
初めから黒だった服装は勿論のこと、白銀だった銀嶺も髪の色も、あまつさえ瞳の色さえも──。
『黒』という純新無垢な色へと変化を遂げた。
「新しい可能性に懸けるということ。俺が全力を出しても成し得なかった夢を、実現させてくれる人に託すということ。それが俺の見つけた『新たな生き方』ってわけだ。だからこそ俺の物語はここで終わりにする。お前という俺が生み出した最悪の産物を消し飛ばし、過去に終止符を打つためにな」
「成程、合点がいったよ。君がそれを使った理由が。君の言うことは相変わらず理解できないが、最後を飾るには丁度いい」
「『骨は塵に、肉は血に還るであろう。理想郷を地獄に変え、我が命に破滅をもたらせ』【Limit Over】発動。──ああ、始めようぜ。最後の戦いを」
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
現在、後書きを1話から書き直そうと試行錯誤中です。
第1話「理想郷到来←ニューゲーム開始」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/1/
第2話「顕現せし能力←スタートアップ・サービス起動」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/2/
第3話「貴方の過去とは?←まだまだ先のお話」
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第4話「古巣へようこそ←門前払いかよ」
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第5話「PvP開戦←彼のため」
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第6話「理想郷閉幕←カウントダウンが聞こえる」
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第7話「現実世界へ←神の庭開門」
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第8話「全ては仕組まれていたこと?←俺だけは違う」
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第9話「決死の猛攻←ボクにやれることは?」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/9/
第10話「リアルの戦い←全てを懸けて」
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第11話「その時が訪れた←正体見たり」
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第12話「4年前の出来事←乗り越えねば」
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第13話「真名発動←主役は遅れてやってくる」
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第14話「神の裏庭←シュヴァルツ壊滅」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/14/
第15話「決別のため←ゲームマスター登場」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/15/
第16話「修行完了←助っ人はナンパ師?」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/16/
第17話「決戦開始←後戻りはできない」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/17/
第18話「魔術師に狙いを←詰みゲー不可避」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/18/
第19話「バックアップはお大事に←第2ラウンド開始」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/19/




