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イージス・ユートピア  作者: 鍋田 リューマ
ネガ編
19/40

第19話「バックアップはお大事に←第2ラウンド開始」

 剣が靡き、空を斬り、そして衝突する。

 ここで行われている様相はまさにその繰り返しだった。

 お互い同格のテクニックと戦闘センス。

 ここらで試しにワザをぶつけてみようかとナギヤは思い、鍔無しの両刃剣『エンブレス・ストライク』に白亜の闘気を纏わせた。

「『完全にして究極である我が魔操は、凡百の敵を討ち滅ぼす』。真名顕現【transferトランスファー】」

『零式』とは違う威圧感を持つ両刃剣を躊躇することなく振るい、アサルトの肩口に向かって切りつけた。

「凄まじく重い攻撃。この殺意こそが、君の答えなのか?」

 しかし仮面の男──アサルトは『真名』の一撃など意に介さず、逆に体内から電流を放出して『エンブレス・ストライク』の刃を弾き返す。

 ナギヤはすぐさま距離をとり、様子を見た。

「そう。あなたを倒せば、全てが終わる」

「それは妄信じゃないのかい?確かに彼らにとって僕は不要で、理想郷を穢す危険因子でしかない。汚い大人たちの計画のためのね。君はそんな人間どもの尖兵に成り下がるのか?」

「違う!ボクは、ブレイクさんのために……!」

「そのブレイクが『汚い大人』の1人だと言っているんだ」

 アサルトは手を掲げ、指先から電流を放った。

 天に昇る竜のように空に舞った雷はやがて輪となってナギヤを取り囲み、掲げていた手を勢いよく握った。

「『雷よ。獲物を捉え、全身を焦せ』」

 魔術『ライトニング・シージ』の詠唱を口にしたアサルトによって、輪になっていた雷は収束していき、その中心にいたナギヤを襲った。

「──うん、やろう。【transferトランスファー】」

 ナギヤは不敵に笑った。

 真名を再び呼称した瞬間、『ライトニング・シージ』の雷は何事も無かったかのように消えたのだ。

「へぇ」

 初めて見る現象だった。

 未曾有の雷撃は一体何処に、と思考していると、『エンブレス・ストライク』の刀身が微かに帯電しているのが朧げに見えた。

「そうか。『魔操術』の『真名』は他の魔術を吸い取る効果をあるのか。ますます『実装されてはならないスキル』だよ、それは」

「どういうこと……?」

「システム上に載ってはいるが、実装されることはないスキル。運営であるアイギスは『ショッド・ノット・イグジスト』とか呼んでいたか。それに該当するんじゃないかな」

 意味がわからない。

『魔操術』は『ノット・スタンダード』じゃなくて、ショッドノットなんちゃらとかいうのだったのか?

 というか、それは恐らく誰も知らない事実なのでは──。

 ……………………いや、今は長考している時間はないし、余計なことを考えている場合じゃない。

 既に1時間は経過している。

 残り2時間でアサルトを倒してネガを永久的に封じ、元の世界に帰らねばならない。

 現実的に考えれば難しいが、それでもやるしかない。

 今の自分にできるのか?なんて自問自答は何回もした。

 もう、後には引けないから──。

「──まあいいや、そういう色んなこと。今は気にする必要はないし、気にしたくもない」

 自分が尽力すべきなのは目の前に立ちはだかっているアサルトの撃破と、ネガの封印。

 それに必要なこと以外は頭から一旦排除し、脳の容量をできるだけ確保する。

 無理にでもそうしなければ、たぶんきっと負けてしまうだろうから。

 いくら『真名』を完成させたとはいえ、付け焼き刃であることには変わりない。

「会話を続ける気はないか……」

 アサルトは少し残念そうな顔でそう呟くと、自身の周りに複数の赤い光弾を展開させ、ナギヤに対して一斉に放射した。

「『屠れ、赤雷』」

 魔術『レッド・クラッシャー』

 対象への自動追尾機能が標準搭載している光弾がナギヤへ襲いかかる。

「通用しないってわからない?」

 しかし『真名』を携えたナギヤにとって『魔術』なぞ脅威ではない。

 先程も魅せたように『transferトランスファー』で無効に──。

「『インビジブル』」

 なにが──!?

 消えた。

 突如として、目の前で光弾が消えたのだ。

 アサルトが口にしたのは詠唱ではないことからして『魔術』ではなく、ただの『アビリティ』だと推察される。

 いや、それよりも自らの放った魔術を何故消した?

「やっぱりね」

 意味深に微笑んだアサルトに不信感を覚えたと同時に、ナギヤの全身を持て余すことなく消滅したはずの光弾が炸裂した。

「スキルで見えなくした魔術は普通に効くと。考察通りだったよ。君は視えている魔術しか無力化できていないんだ」

「なにを……!?」

「なにをしたか……?単なる魔術とスキルの重ね技さ。広範囲系魔術『レッド・クラッシャー』をスタートアップ・サービス『インビジブル』で消させただけだ」

「じゃあ、あなたのスタートアップ・サービスは『インビジブル』なの──?」

 アサルトはナギヤの問いに対し、首を横に振った。

「違う。そもそも、正規のプレイヤーでない僕にスタートアップ・サービスなんてものはない。だからフロストが与えてくれたコレを使っているんだ」

 仮面の男は掌に四角いキューブのような透明な箱を展開した。

「かつて『シュヴァルツ』のボスが使っていたと言っていたスキル『バックアップ・セメタリー』。他者のスタートアップ・サービスを保有できるらしい。このネガ世界は不完全ゆえにイージス・ユートピアのプレイヤーが稀に迷い込んでくる。その迷い子をノイズが狩ることでスキルは箱に、アバターの知識や記憶は僕の叡智を高める糧になるというわけさ」

 正方形のキューブ『バックアップ・セメタリー』はアサルトの意思に呼応するように赤、青、黄、緑──と様々な色へ点滅を繰り返していく。

 まるで、絶望の淵に沈んでいくナギヤの心を嘲笑うかのように、キラキラと、ケラケラと──。

「君を倒すためのスキルや武器は幾つもある、力量の差はわかっただろう。こうしてスキルの解説をしたのも、君をできるだけ無傷で手に入れるためだ。ここでこれ以上僕と戦っても行き着く先は破滅だよ。たとえ覚悟とか、誰かのためにとか格好のいいこと言っても、どうにもできないことはある。それが真理さ。……まあでも、どうしても抵抗して応じないようなら、手をかけることも考慮しなきゃね」

 怖い。

 死が、怖い──。

 任せられた使命よりも、大切な友達や居場所を守り抜くよりも、自分の命が惜しい。

 確かに彼の言う通りだ。どんなに綺麗事を言っても、最後の最後に欲しくなるものは『生』への渇望だった。

 本当に情けなくて、笑えてくる。

「──弱い」

 つい、本音が漏れた。

 ここで素直に彼の導きに応じ、手を取れば少なくとも命まではとられない。

 殺されることもなく、神城凪佳及びナギヤという人物は存続を許されるだろう。

 だが、一生後悔するであろう。

 その行為は今まで成し得てきた経験全てを否定することに変わりないのだから。

 ならば、どうするか?答えはひとつしかない。

 ──戦う。

 残された道は、戦うという選択肢だけ。

 悔恨と無念に苛まれながら生きるより、ここで剣を取って最後まで抵抗する方がずっといい。

「──ッ!」

 緩めていた剣の柄を握る手を強く引き締める。

 脳裏に仲間の顔を思い浮かべた。恐怖心はもうなかった。

 なにを恐れていたんだろう。

 もう、死なんて怖くはない。

 自分を信じて付いてきてくれた仲間を裏切りたくはないから。

 せっかく出来た居場所を失いたくないから。

 もし死が回避できないのだとしても、ここで力の限り戦って、自分を肯定しながら果てよう。

「ぐッ──!!」

「なんだい?その目は。まさか、まだやるなんて言うつもりじゃないだろうね?」

「やるに、決まってるでしょう。裏切ってあなたと手を組むより、最後まで戦って死んでいった方が何千倍もマシよッッ!!」

 アサルトはその答えに表情を曇らせ、黄金の光が蓄積された右手をナギヤにかざした。

「ならば、もはや交渉はできないか。本当に残念だよ、ナギヤ」

 まだ手は動く。

 たとえ負荷がかかって激痛が走ろうとも、やり遂げなければならない。

「無駄だ」

 光が量を増して大きくなっていく。

 腕の速度が光に追いつかない。これでは──。

「──?」

 肉を砕く雷鳴が響く前に、全てが終焉へと導かれる前に。

 アサルトの右腕が刃物によって切断され、攻撃が阻止された。

 目の前に出現した黒衣のサムライ。

 それを見た瞬間、ナギヤの瞳から涙が零れた。

「よくひとりで頑張ったな。偉いぞ」

 サムライは銀色の刀を手に持ち、こちらに横顔を向けて微笑んだ。

 かつて口にしてくれた約束を思い出した。

〝たとえどんな状況でも助けに行くし、どこにいようとも君のことを救いに行く。──これじゃ、ダメか?〟

 今思えばキザっぽくてあまり似合っていなかったその約束を、破ることなく守ってくれた。

 嗚呼、堪えようとしても際限なく涙が溢れてくる。

 本当にこの人は、どこまで自分を安心させる気だろう。

「ありがとうございます。ブレイクさん」

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

近々、後書きの欄を活用するべく一新するかもしれません。

よろしくお願いします。


第1話「理想郷到来←ニューゲーム開始」

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/1/


第2話「顕現せし能力←スタートアップ・サービス起動」

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/2/


第3話「貴方の過去とは?←まだまだ先のお話」

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/3/


第4話「古巣へようこそ←門前払いかよ」

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/4/


第5話「PvP開戦←彼のため」

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/5/


第6話「理想郷閉幕←カウントダウンが聞こえる」

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/6/


第7話「現実世界へ←神の庭開門」

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/7/


第8話「全ては仕組まれていたこと?←俺だけは違う」

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/8/


第9話「決死の猛攻←ボクにやれることは?」

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/9/


第10話「リアルの戦い←全てを懸けて」

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/10/


第11話「その時が訪れた←正体見たり」

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/11/


第12話「4年前の出来事←乗り越えねば」

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/12/


第13話「真名発動←主役は遅れてやってくる」

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/13/


第14話「神の裏庭←シュヴァルツ壊滅」

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/14/


第15話「決別のため←ゲームマスター登場」

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/15/


第16話「修行完了←助っ人はナンパ師?」

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/16/


第17話「決戦開始←後戻りはできない」

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/17/


第18話「魔術師に狙いを←詰みゲー不可避」

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/18/

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