第18話「魔術師に狙いを←詰みゲー不可避」
前話です。
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ナイフが宙を舞う。
それは形容などではなく、変幻自在に赴くままに意志を持って動いていた。
ナイフ・ダガー系武器『ブーメランナイフ』
ドロップ品なのかオーダーメイド製なのか、全く以て不明な武器を金髪でキザな男 ダントはまるで手足のように操っていた。
「貴様、これほど特殊な武装を自在に扱えるなド───!」
「だから俺はそんくらい強いって言ってんだろ!」
黒のローブとフードで全身を隈無く覆っているシーカーはブーメランナイフに翻弄され、広範囲系アビリティ『メガ・デストロイド』を発動するタイミングを失っていた。
更にその下位互換である『キロ・デストロイド』を使おうにも、ダントの片割れである優男風の銀髪で眼鏡の男 オールに邪魔されてしまう。
「ヤツの『アルマリング』という指輪装備、魔術の詠唱短縮だけでなく、初級のスキル・アビリティ及び魔術の阻害効果が備わっているのカ……」
オールがメガ・デストロイドを阻止する際、特に目立った能力を使っている素振りはなかったことに気付いたシーカーは徐ろに考察を述べた。
「『シークレット・アビリティ』だけどね。キロ・デストロイド程度ならいくらでも無力化できる」
「そういうこった!テメェはもう詰んでんだよ!」
叫んだダントがブーメランナイフを投げようとした瞬間、シーカーから鋭くも凍てついた眼光が向けられた。
「がッ……!?」
ダントは金縛りにあったかのように体の自由が効かなくなり、その隙を狙ったシーカーは地面に手を置いてアビリティを口にした。
「『メガ・デストロイド』」
周囲の地表に亀裂が走り、その隙間から光の衝撃波が出現して身動きのとれないダントに襲いかかる。
モロにくらってしまったダントは宙に放り出され、トドメを刺さんと言わんばかりにシーカーは背後に回って紫色のオーラを纏った手刀を繰り出した。
「『我が身を防衛せよ』……!!」
ダントは瞬時に防衛系魔術『プロテクト』の詠唱を唱え、背中に膜を張った。
しかしそれでも威力を完全には軽減できず、『メガ・デストロイド』がクリティカルヒットして壁に叩きつけられる。
「やはりナ。『ショック・ウェーブ』のような発動の素振りがない技に対しては、貴様の『アルマリング』では対処できないようダ。それに、我のアビリティも無力化できるのは精々『キロ・デストロイド』くらイ。……底が見えたナ?」
「どうかな……!」
シーカーはオールに狙いを定め、オーラを纏わせた手刀『ギガ・デストロイド』を携えて特攻した。
「『ザイン』」
オールが静かに呟いた。
指輪から小型のナイフが展開され、刀身を青色に染め上げながらシーカーの攻撃を防ぐ。
「いいのカ?魔術師が『魔術』以外のアビリティを使っテ……」
「僕は半端者だからね。許されるのさ……!」
ギガ・デストロイドに込められる力が増していき、ついにはナイフごと両断して、オールの右肩から左腰まで手刀を炸裂させた。
「ぐッ……!」
真新しい傷口から血液が吹き出す。
仮想世界において、味わうことの無い痛みと恐怖が躰に降りかかる。
『VR適性』を持つプレイヤーに攻撃されれば『ゴアモード』と同等の効果が顕れる。
これがネガの真髄。ネガの──本来の姿なのだと、オールは実感した。
「これで最後ダ……!」
紫色の手刀──ギガ・デストロイドが致命傷を負ったオールに振り下ろされるも、背後から飛んできたブーメランナイフが手首ごと切断して攻撃を中断させた。
落下した手首は霧となって消え、シーカーはブーメランナイフが飛来してきた方向を見た。
「どうやら今まで手を出さなかったことを鑑みるに、ショック・ウェーブとデストロイドのコンボは予想以上の効果を発揮してくれたようだナ?」
「チィ……!オールに使った時よりも技の『ランク』上げやがって……!」
まだ完全には治っていないのか、ダントはよろめきながら戻ってきたブーメランナイフを掴んだ。
「片方は戦闘不能、そして貴様はアビリティの呪縛から未だ解かれていない。どうやらここまでのようダ」
「ざけやがって……!テメェひとりくらい、俺だけでもやれるぜ!」
「それはどうかナ?見たところ、我にダメージを与えられるのはそこにいる魔術師の男だケ。貴様では我のスタートアップ・サービス『アンラベル・アイズ』は打ち破れぬだろウ」
「ハッ!その常識だけの先入観は身を滅ぼすぜ!」
ダントは声を荒らげてみせたが、結果としては虚勢に過ぎなかった。
内心ではこいつをどう倒すかと思考を張り巡らせていたが、時折こんなことになるなら同じ魔術師であるラスターを強引にでも連れてくるんだったと愚痴を連ねていた。
取り敢えず今はこいつを撃破するより、その後ろでくたばっているオールをどうにかして救出し、結界を張ってもらって『アンラベル・アイズ』によるスキル効果を無効にしてもらうしか方法はない。
「成程、わかったゾ。貴様はこの『アルマリング』の男を助け出し、結界を張らせ、我を丸裸にしてから倒そうと考えているナ?」
読まれた。
これでは──。
「ならば先にこちらから始末すればいいだけの話。いずれ『出血』ペナルティによって死亡する故、放置しておいてもよかったが、こうなれば別ダ」
シーカーはダントに背を向け、手刀『ギガ・デストロイド』を起動させた。
「──ッ!!」
ダントはヤケクソになって『ブーメランナイフ』を投擲するが、シーカーによる『ギガ・デストロイド』の横薙ぎの一撃でいとも容易く粉砕されてしまった。
「蓄積されている武器への損傷ダメージすらも理解していないとは、これでよくランカーが名乗れたものダ」
溜息混じりに嘲笑したシーカーは再度オールに照準を向け、『ギガ・デストロイド』を振り下ろした。
しかし直後、オールはニヤリと笑って呟き──。
「ジ・エンド」
「……?」
不可解な言葉を口にしたオールに疑問を持ったのも束の間、背中に機関銃の一斉掃射を受けたような感覚が走る。
ふと背中を見るとダントの武装である『ブーメランナイフ』が何本も突き刺さっており、その異様な光景にシーカーは目を丸くした。
何故、実体を持たぬ自分に物理攻撃が通用しているんだ?
いや、気にするべきはそこではない。
『ブーメランナイフ』は確実に破壊したはずだ。
なのに、どうしてここまでの数の『ブーメランナイフ』が──?
「ひとつ種明かししておくとな。その『ブーメランナイフ』には『シークレットアビリティ』として『幻術』『呪術』のアビリティと魔術を阻害する効果が備わっている。ちょうどウォーレンが使ってるのと同じやつがな」
「ならば、なぜ最初から使わなかった……!?」
「そうしちまうと俺への警戒心が一気に高まるだろ?お前にはオールだけを警戒していて欲しかったんだよ」
『種明かし』を聞いていたシーカーは『ブーメランナイフ』のダメージに耐えられず、うつ伏せのまま崩れ落ちた。
「我が騙されていたと……!?しかし、その説明では……!」
「ああ、そうだ。『ブーメランナイフ』が復活して更に増えた理由にはならない。でもな、誰も俺のスタートアップ・サービスが『ブーメランナイフ』だなんて言ってないぜ」
「なに……!!」
「俺のスタートアップ・サービスは『プロリフェレート』というスキルだ。武器やアイテムを増殖させることができる。つまり、俺はお前にバレないように『ブーメランナイフ』を投げた後、『プロリフェレート』で増殖を繰り返し、隙ができる機会を伺いながら物陰に待機させておいたってわけさ」
ダントはネガを間接的にしか聞いていなかっため、内部の細かな構造までは把握出来なかった。
もしも地平線が続く荒野などであったら『プロリフェレート』の出番はなかったかもしれないが、こうも廃墟が立ち並んでいれば話は別だ。
ダントにとって絶好の『狩り場』へと早変わりし、そこで相対する敵は敵に在らず、言い換えれば無防備な草食獣でしかなくなる。
じっくりと追い詰め、虚言を撒き、しかし油断はせず相手を見極め、最後は首を獲る。
そこに至るまでの『演技』こそがダントの本質であり、強さでもあった。
「これで『種明かし』は以上だ。わざとやられたとはいえ、オールも俺も相当ダメージをくらっちまったからな。そろそろシメるぜ」
何処からか飛んできた『ブーメランナイフ』を手元に収め、シーカーの首元に刃を置いた。
軽く勢いをつけて縦に振ろうとした瞬間、対象の躰が霧状と化して溶け出し、現れた『ホンモノ』のシーカーが背後で紫色の手刀を携えて笑っていた。
「フフフフフ」
勝ちを確信した笑みだった。
明確な内容までは構想できなかったが、何かしらの『策』は弄しているだろうと想定はしていた。
その時のための切り札として用意していたのがこの『テラ・デストロイド』である。
致命傷となる攻撃を受けた時、任意で発動でき、相手よりも先制を取ることが可能なアビリティ。
流石のランカーもこれには反応できまい、獲った!と思い込んでいた矢先、ダントが不意に目を向けた。
絶望、落胆、死を覚悟した目ではない。いや、それよりもこれは想定内のことが起きた時の、冷静且つ侮蔑の目だった。
そしてそれに気付いたと同時に腹を貫く異物の感触がカラダ全体に伝わってきた。
下を見ると地面から槍のように尖った鉄状の棒が生えており、それがシーカーを貫き、宙に浮かせていたのだ。
一体誰が?
一瞬考えたが、答えは明白だった。あの魔術師だ。
「ほらな、今度は俺に注意が向いた。勝手にオールを『戦闘不能』なやつだと思い込んでな。だから言ったろ。お前はもう詰んでんだよ」
その言葉を最後まで聞いていたかは不明だが、シーカーは棒の上で項垂れてHPを全損させた。
ネガ世界のためプレイヤーのアバターは消滅することなく残り続けるが、復活することはない。
それがこの世界の鉄則である、らしい。
「チッ、だがよ。かなりのダメージを負ったのは事実だぜ。そこだけは評価してやらァ」
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
第1話「理想郷到来←ニューゲーム開始」
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第2話「顕現せし能力←スタートアップ・サービス起動」
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第3話「貴方の過去とは?←まだまだ先のお話」
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第4話「古巣へようこそ←門前払いかよ」
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第5話「PvP開戦←彼のため」
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第6話「理想郷閉幕←カウントダウンが聞こえる」
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第7話「現実世界へ←神の庭開門」
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第8話「全ては仕組まれていたこと?←俺だけは違う」
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第9話「決死の猛攻←ボクにやれることは?」
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第10話「リアルの戦い←全てを懸けて」
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第11話「その時が訪れた←正体見たり」
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第12話「4年前の出来事←乗り越えねば」
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第16話「修行完了←助っ人はナンパ師?」
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第17話「決戦開始←後戻りはできない」
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