第17話「決戦開始←後戻りはできない」
前話です。
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「貴様らがランカーだト?」
顔半分が霧状になっている黒のローブとフードの男 シーカーは、白く光っている瞳を覗かせながら口にした。
「テメェには言ってねえんだがな。だがそういうことだ。てめぇなんて瞬殺してやるぜ」
「バカなことヲ。物理攻撃が効かない我を倒せるとでモ?」
シーカーは見せつけるようにエネルギー弾を手から発射するも、突然オールが間に割り込み、指輪を向けて一瞬のうちに風化させた。
「僕がいる限り、君は無力だ」
オールは得意げにニヤリと笑い、シーカーの余裕そうな表情を歪めてみせた。
「おい、何をやってる?行くなら今のうちだぜ。……早く行け」
「わ、わかった!」
ダントに催促されて先に進もうとしたライリとナギヤだが、当然それをシーカーは見逃すはずもなく、標的を2人に変えて光弾を放った。
「くっ……!」
「貴様は行かせン」
移動しようとしたオールに目を向け、状態異常:スタンを付与できるアビリティ『ショック・ウェーブ』を発動した。
オールは金縛りにでもあったかのように体が動かなくなり、依然として光弾は軌道を変えぬまま進んでいく。
「ライリさん!逃げて───!」
光弾を防ぐべく立ち止まったナギヤは腰に差している両刃の剣『エンブレス・ストライク』を抜き、青色のエフェクトを刀身に纏わせた。
「ッ───!!バカ野郎ッッ!!!」
足を止めてしまったナギヤを見たダントは、防御のために黒色のナイフ『ブーメランナイフ』を投擲した。
「『カウンター・エッジ』───!!」
ブーメランナイフはエネルギー弾に命中し、亀裂音と共に攻撃を弾き返した。
「止まってんじゃねえ!ライリと一緒に早く行け!」
無言で頷いたナギヤはライリとともに移動を開始した。
「つーか、それにしても……」
『カウンター・エッジ』はイージス・ユートピアにおいて刀剣類の中で唯一、魔術やエネルギー弾系統のアビリティを相殺できるワザである。
しかし相殺できるのは汎用アビリティのみで、高難度のスキルやアビリティになれば『カウンター・エッジ』では防げない。
「テメェ、いつまで温存してやがる。いい加減本気を出したらどうだ?」
今まで使っていたあのエネルギー弾は汎用アビリティ『キロ・デストロイド』だろう。
主にビギナープレイヤーが重宝する初心者向けアビリティで、高ランクの玄人が扱うにしても牽制程度にしか使われない。
そんなロクなダメージすら与えられないアビリティが、ヤツのメイン装備なわけがない。
「よかろウ」
シーカーは手にチャージしていたエネルギーを握り締める。
すると指の隙間から黒い粘液のようなものが溢れ出て、やがてそれが右手全体を包み込み、西洋騎士が身につけるような手甲へと姿を変えた。
「『メガ・デストロイド』」
「広範囲技か……!おいオール、スタンは解けてんだろうなァ!?」
「当たり前だろ。さあ、やろう」
走った。
力の持てる限り足を動かし、道中でPOPする漆黒の人型モンスター『ノイズ』すら無視しながら目的地へと走り続けた。
「チッ……!まずい。……ナギヤ!」
ライリに名前を呼ばれてナギヤは走りながら振り返った。
「思った以上に敵モブの量が多い。このまま『アサルト』の元に行っちまうと、アサルト&ノイズ複数体とかいう最悪の展開になる」
「でもいちいち倒しては……!」
「だから俺が囮になんだよ。それに俺は最初からお前の護衛だ。ならここでコイツらを足止めしとくのが適任だろう?」
確かにそうだ。
アサルトのスキルやアビリティは未知数。そんな危険な状態で更に状況を悪化させては勝てる見込みがなくなる。
ならばここは───。
「すみません、お願いします!ライリさん!」
「ああ。任せろ!」
笑顔で引き受けたライリは立ち止まり、体を回転させてノイズどもと対峙した。
「あん時はカッコ悪いとこ見せちまったからな。今回は久々にガチでいかせてもらうぜ?……なあ、シュガー」
ライリの瞳が赤く光り、傍らに黒の体毛を備えた魔獣『ヘルハウンド』の『シュガー』が召喚された。
そして死をもたらす伝説級のモンスターが地に降り立ったことで、ノイズの腕が剣・弓・槍・斧などの武装に変形し始め、一斉に襲いかかる。
「『獣は我が友であり、命である。願わくば矛となりて、この身を守り給え』。───魔眼『覚醒』【〝See〟Causative】」
ライリが言葉を連ねた刹那、ノイズが消滅した。
遥か遠方にはこの短時間で駆け抜けたらしいシュガーがおり、口にはノイズのと思わしき闇色の腕が咥えられている。
そう、自然消滅したのではなくシュガーが総てのノイズを喰い殺し、一瞬のうちに掃討したのである。
「ナイス」
『ファミリアの魔眼』で仲間にしたモンスターはいずれも『対:MOB特化』のアビリティが付与される。
更に『魔獣』というカテゴリーに位置しているシュガーは元々のステータスが高く、大抵のMOBなら苦戦することなく倒すことができる。
勿論、このノイズも例外ではない。
だが逆にPvP戦闘になると圧倒されてしまうケースが多く、その場合はシュガーではなくライリ自らが打って出て行く。
しかしここはノイズというMOBしかいない、言わば絶好の『狩場』。
だからこそ、ネガ内に無限にPOPし続ける連中を相手にするならば『ファミリアの魔眼』を保有するライリが最も相性がいいのだ。
「まだこんなんじゃないんだろ?」
その言葉に呼応するかのように次々と湧き出てくるノイズにニヤリと笑い、赤い瞳をより一層輝かせた。
「いいぞシュガー、全部殺せ!」
ナギヤは高層ビルの階段を駆け上がった。
殆どが鉄くずに等しいこの高層ビルはネガフィールドの中でも1番高い建造物であり、その屋上にアサルトはいる。
途中で幾度となく邪魔してくるノイズを回避しては通り抜け、屋上を目指し続けた。
全てを終わらせるための、決戦の地へ───。
「また君か」
屋上に辿り着いたナギヤを、アサルトは動揺することなく迎え入れた。
「アサルト、どうしてこんなことを……!?」
「アサルト……?僕の名前かい?それともコードネーム?……まあどっちでもいいけど、その問いの答えは君がよく知っているはずだよ」
「ボクが……?」
何を言っている?この得体の知れない仮面の男は、一体なにを……?
「だってそうだろ?現実世界が嫌いで嫌いで仕方なかった君ならわかるはずだ。確かにイージス・ユートピアは理想的な世界ではある。でも、現実世界が基盤であることには変わりないんだ」
アサルトは仮面をつけ、マントを翻したまま此方へ歩み寄ってくる。
「だから僕はこのネガを使って最高の、それも『VR適正』という新時代を生きるために相応しい人間を集めた世界を作る。でもそのためには元となる『土台』が必要でね」
「じゃあまさか……!」
「そう、現実世界を消してそれを土台にするんだ。これほど合理的な選択肢はない」
「それじゃ現実世界に住んでる人達が……!それに、イージス・ユートピアにいるプレイヤーにだって危険が及ぶ可能性も……!」
言いかけた瞬間、それは失言だと感じた。
仮面の下で見えないが、アサルトから怒りの感情が沸々と伝わってくる。
「そんなのどうでもいい。……このネガで採取したプレイヤーのアバターから記憶データにアクセスして見せてもらったけど、酷すぎるよ。人が人を騙し、憎み、差別し、迫害する。こんな低俗な人間は、現実世界とともに屠るに限る」
アサルトが持論を述べる中、ひとつの真実が明らかになった。
やはりこの世界でノイズに倒されたプレイヤーのアバターデータはこの男が持っている。
ならば、アサルトを倒せば奪われたアバターは戻ってくるのか?
「ニーナ・セイントルウブの模造品として、そしてネガを統率する者として生まれた君なら、僕の考えに賛同してくれるだろう?自由意志すらなく拘束され、果てには理想郷だと信じていた世界も計画の一部だった。そんな自分の人生を殺した現実世界が、君は憎いはずだ」
───憎い。
今までの自分なら、そう捉えていただろう。
今でも現実世界はどちらかといえば苦手で、息苦しいく生きづらい。
イージス・ユートピアにいる方が心が安らぐし、好きなことがなんでもできて楽しい。
だが、それは接する人間や環境が悪いだけであって、現実世界も仮想世界と大差のない世界なのだと、最近気づいた。
だから───。
「確かに、世界は悪い人間で溢れている。もしも現実世界がそんな人ばかりだったら、ボクもあなたに賛同していたかもしれない。でも、世界にはブレイクさんやライリさんみたいな良い人だってたくさんいる!そしてそんな良い人をもっと沢山見つけて、現実世界が、人が好きになれるように頑張りたい!だから、ボクはここであなたを止める……!」
「───そうか。そんな『つまらない』理想を抱いていたのか。人間はその浅はかで根拠のない自信で一時的に自身を鼓舞させられるが、それが不可能だと、早すぎる理想だと痛感した瞬間に崩れ去る。……君も、いずれはそうなる」
やめろ。そんなことない。
もうあの苦しくて怖い過去は捨てたんだ。
今のボクはイージス・ユートピアにいて、ブレイクさんとか、色んな人に認められてここにいるんだ。
ここで一歩でも引き下がったら、一度でも未来を恐れたら、またあの頃のボクになる。
そうだ。またあの人に会うために、ボクを信じてくれたみんなに応えるために。
ナギヤは深呼吸を繰り返して、ブレイクからもらったローブを握って脳内に想起してくる過去の忌まわしい記憶や、未来への不安を抑制した。
「人は簡単に変わることなんてできない。たとえ君が『VR適性』に選ばれた人間だとしても───」
「うるさい!」
ナギヤは一喝した。
それは自らの迷いを断ち切るためと、この男が述べる『呪詛』を止めさせるためでもあった。
「もうボクにはこの道しかないの!あなたにつべこべ言われたくない!それに無理してでも変わんなきゃ、ボクの居場所が全部なくなっちゃう!」
ナギヤは今までの人生の中で出したことのないほどの声量を口にし、その勢いのせいで両目から涙を零していた。
息は荒く、理性など殆どない。
自分の中にある気持ちを全てアサルトにぶつけ、腰に備えている剣を執る。
「もうあなたと話したくない!」
「僕も同感だよ。───君には失望した」
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
第1話「理想郷到来←ニューゲーム開始」
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第2話「顕現せし能力←スタートアップ・サービス起動」
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第3話「貴方の過去とは?←まだまだ先のお話」
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第4話「古巣へようこそ←門前払いかよ」
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第5話「PvP開戦←彼のため」
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第6話「理想郷閉幕←カウントダウンが聞こえる」
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第7話「現実世界へ←神の庭開門」
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第8話「全ては仕組まれていたこと?←俺だけは違う」
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第9話「決死の猛攻←ボクにやれることは?」
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第10話「リアルの戦い←全てを懸けて」
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第11話「その時が訪れた←正体見たり」
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第12話「4年前の出来事←乗り越えねば」
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第13話「真名発動←主役は遅れてやってくる」
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第15話「決別のため←ゲームマスター登場」
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第16話「修行完了←助っ人はナンパ師?」
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