第16話「修行完了←助っ人はナンパ師?」
前話です。
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2055年、12月31日。世間は大晦日という一年間の集大成といえるイベントに明け暮れており、それは仮想空間であるイージス・ユートピアも例外ではない。
各地では高級武具や魔道具といった商品の半額セール、経験値やゼネルが大幅にもらえる期間限定モンスターの討伐ミッション、有名トッププレイヤー同士のPvPライブ配信などが開催されていた。
どれもプレイヤーにとってメリットしかないサービスばかりだが、それよりもイージス・ユートピアを掻き乱したのはログインボーナスでもらえるアイテムやゼネルが大幅に増加したことである。
これにより、最前線で戦うプレイヤー、戦わずに営みだけで生活する商人系プレイヤー両面が恩恵を得られる形となった。
いずれの街でも賑やかさは変わらず、プレイヤー同士の活気に満ち溢れていたが、『戦士側』の首都である『エルフォール』のみ重苦しい雰囲気で包まれていた。
シュヴァルツの残党であるファントムとの激闘から半日が経過した今でも厳戒態勢がとられ、街への入り口にはレイド・ストリームによる検問が設置されている。
そして、そんな検問の一角にて──。
「ダメだ、現在エルフォールは制限を設けている。許可証のないものは入れることはできない」
紫色の髪を靡かせて指揮を執っている顔の整った青年 ラスターが若い男女2人組のカップルに説明していた。
話を聞いた2人組は残念そうにトボトボ帰っていき、一安心したラスターだが、すぐさま次のプレイヤーが押し寄せてくる。
これは大晦日の年越しイベントのせいで事情を知らない一般プレイヤーが観光地でもあるエルフォールに押しかけているのが起因しており、動けるレイド・ストリームのメンバーはその対応に勤しんでいた。
最も、ラスターがここにいるのはその限りではないが。
「隊長、どうやら運営側からプレイヤーが何人か派遣されて来るようです。これで少しは楽になるかと」
「そうだな……」
ラスターはあまり嬉しくなさそうに反射的に返答した。
確かに朗報ではあるが、今のラスターにとって真に気にかけているのは別のことだった。
ここで待ち続けて実に8時間は過ぎているが、一向に姿を見せない。
間に合わなかったかと諦めかけていたその時、遠方に2組の人影が見えた。
「遅くなりました!」
正体はグレーのマントを羽織り、ショートヘアの黒髪を靡かせている少女 ナギヤだった。
もう1人は昔からの馴染みであり、敬うべきセンパイでもあるライリキス。
両者は息を荒らげながらラスターの前まで走り抜き、満足そうに笑った。
「その様子を見るに、勝てる算段がついたようだな?」
「はい!ライリさんやシルフィさんに手伝ってもらって、どうにかそのレベルまで登りつめました!」
確かによく見れば顔が違う。
以前、自分と戦ったPvP戦の時とは別人のように引き締まっており、ビギナーであった頃の面影など殆どないほどにまで成長している。
しかし言い換えればあどけない面影も多少は残っていて、それが中途半端なクールさとベストマッチしてなんともいえない可愛さに──。
「手ぇ出したらブレイクにぶっ殺されんぞ?」
「しっ、しませんよ!そんなこと!」
ラスターは取り繕ったかのように弁明した。
「それより、ネガに行くための転移装置を準備してある。ついてきてくれ」
案内された場所は、かつてPvP戦を行ったレイド・ストリームの拠点の地下であった。
大元である高層階は凄まじい戦闘の末に破壊されていたが、ここだけは時が止まったかのように静かで平穏そのものだった。
「ここは本来、ユートピア内で不正を働いたものを幽閉するための施設があったんだ。でも結局、法律やら倫理観やらで廃止になったんだけどな」
なるほど。
錆び付いた機材や、年季の入った設備が雑に置いてあるのはそのためか。
施設に関しても運営が認定した公式クランであり、ユートピアの秩序を管理しているレイド・ストリームならそれくらいの設備があってもおかしくはない。
ただ、世の中が許してくれなかっただけで──。
「──すまなかった」
「え?」
突然謝罪されたナギヤは驚いて顔を上げた。
「いくら操られていたとはいえ、君にひどいことをしてしまった。謝っても許されることではないかもしれないが、本当に悪かったと思っている」
「気にしないでください。あの件がなければ魔装術を強化できなかったし、なによりPvPがどういうものかと識ることもできませんでした」
そう。今から自分はネガに飛び込み、人間紛いの『異物』どもと戦うことになる。
1度やり合っているからわかる。あれは殆ど人間と同じ動きをし、場面によって機転を利かせ、最善の策を弄してくる。
だからこそ、この短期間でプレイヤー同士のバトルに慣れる必要があった。
「こいつは強くなったぜ。たぶん今のお前でも勝てねえくらいにな」
「……それを聞いて安心しました」
静かに微笑んだラスターは動かしていた足を止め、こちらに顔を向けた。
「アイギス社が用意してくれた転移装置を今から呼び出す。これを使えばネガに自由に出入りすることができるが、制限時間があってな。発動してから3時間で自動的に消滅するシステムになっている」
「じゃあそれ以降は前にブレイクさんが使ってた携帯式の転移装置を使えば……?」
「生憎だが、ネガも仮面の男──アサルトの影響で進化していてな。その装置はもう使えないことが判明した。だから現在、使用可能なのはコレだけってわけだ」
「つーことはつまり、3時間以内にアサルトを倒して脱出しねえと俺らが帰ってこれなくなるってわけか」
ライリの総括した発言にラスターは静かに頷いた。
「そのため大部隊を送りこむわけにはいかなくなった。少数の精鋭部隊でノイズの襲撃を掻い潜り、アサルトに刃を届かせることがリーダーとアイギス社の最終決定事項らしい」
「でも、行くのってボクとライリさんだけですよね……?少なすぎませんか?」
「その件だが、こちらでメンバーを2人選出した。この方々だ」
岩の物陰からヌルリと出てきたのは金髪でホスト風のキザな男と、眼鏡をかけて優男風なイメージのある銀髪の男だった。
両者とも黒のローブに身を包み、ナギヤを見ながらニヤニヤと笑っている。
「お久しぶりナギヤちゃ~ん。元気してた?」
ホスト風の男が上機嫌で話しかけてくる。
うーん、なんだろう。やっぱり。
本当に申し訳ないんだけど。
…………………………だれ?
「ダント、それにオール。お前らアカウント停止されたんじゃなかったのか?」
ライリが名前を出してくるが、イマイチピンとこない。
でもどこかで聞いたことあるような……。
どこだったっけ?
「そもそもあのクソダサいアバターはどうした?なんでそれ使ってるんだよ?」
「あんな運営が代替えで用意したモンはノイズにくれてやった。今は晴れて元に戻ったってわけよ。こいつでまたナンパし放題だぜ」
「ダント。カッコつけてるとこ悪いんだけど、肝心のナギヤちゃんは忘れてるみたいだよ?まあ、見た目違うから仕方ないだろうけど 」
なんだか薄ら思い出してきた。
ナンパ。そういえばこの世界に初めて本垢で来た時にされたような……?
それにダントとオールって、確かブレイクさんが──。
「あー!ボクに声掛けてきた出会い厨の人達!でも確か、ネガ世界に死体があったはず……?あれ……?」
「ありゃ運営がこいつらのアカウントを止めた時に代わりにあげたアバターだ。まあペナルティとして、なんのスタートアップ・サービスもついてない欠陥品だけどな」
つまらなそうに、尚且つ嫌味っぽく言うライリを見て、ナギヤはこの2人が仲間内でも嫌われていることを察した。
「んで?どうやってアバターを取り返した?アイギスのサーバーにハッキングでもしたか?」
「相変わらず俺には当たり強えの。ひっでーな、まったく」
「それはダントの日頃の行いでしょ?……ライリ、勘違いしないでほしい。今回はブレイクが運営に口を利いてくれて、僕らのアバターを解放してくれたんだ。なんでも綺羅山 宝剣に直接頼み込んだとか……」
オールの発言にライリは驚いて目を見開いた。
「どうしてブレイクが綺羅山と……!?いや、今はそんなことよりネガの方だな。正直なところ、ダントとオールが同行してくれるのは心強い。こいつらはこんなんでもレイド・ストリームの中じゃトップクラスの実力を誇ってる」
「そういうこと。だから頼りにしててね、ナギヤちゃん」
ダントはナギヤに向けてにこやかに笑いながら手を振った。
一方、ラスターはそんなことお構い無しに装備品である銀色の杖『アンチライブス』を右手に召喚し、杖の底で地面を叩く。
すると空間に亀裂が生じ、見覚えのある黒く禍々しい空間が出現した。
「任せたぞ、ナギヤ。俺はここで装置を介して侵入してくるかもしれないノイズを食い止める」
「わかりました。……ご武運を」
ナギヤはラスターと目を交わし、空間の中へ入っていく。
それに続いてライリ、ダント、オールも飛び込んでいき、地下はラスター1人だけとなった。
やはり何度来ても慣れないフィールドだ。
何もかも歪で全ての色彩が反転している狂気の空間。
長時間滞在していては精神に異常をきたしてしまうであろう場所で、ナギヤは腰からエンブレス・ストライクを引き抜いた。
「待っていタ」
それに応えるように、物陰から重低音のある声と共に現れた黒ローブの男が現れた。
顔はよく見えないが、半身はモヤがかかったように黒い霧で覆われており、ただ白く光っている瞳だけがローブの中から覗いている。
「だれ……?シュヴァルツの生き残り……?」
「我が名はシーカー。フロスト殿の指示でヌシらの排除を任されていル。正確にはナギヤ殿『以外』との命だガ」
そう言ったシーカーはおもむろに右手を差し出した。
すると指先が紫色に光り輝き、やがてそれが実体を伴ったエネルギーと化していき──。
「ちょっとどいてね」
オールはナギヤの前に立つと、同じように指輪をつけている右手を突き出す。
青色の宝石が埋め込まれた指輪が妖しく光り、一瞬にして眼前に薄い膜のようなものを生成してエネルギーを遮った。
「『指輪魔術』カ?」
「ご明察。僕のスタートアップ・サービスは『アルマリング』。本来、詠唱を必要とする魔術をノータイムで発動できる優れ物なのさ」
「成程。先程、『プロテクト』の魔術を瞬時に使えたのはそのためカ」
「うん、そういうこと。……ていうかさぁ。君ちょっと油断しすぎじゃない?」
その言葉に反応し、背後を向くも遅かった。
シーカーの首には既にナイフが差し込まれており、ダントはそのままナイフで首を引き裂いた。
「ああ?んだこりゃ?」
手応えがなかった。
まるで空を切っているかのような感触で、首も落ちるどころか空気に溶け込んでしまった。
「我には効かン」
大気が集合し、それが新たな首が作り上げた。
「物理攻撃無効かよ。クソめんどくせぇのに当たっちまったな」
「ダント、ここは僕に任せてくれ。君じゃ倒せない」
「ハァ?バカ言え。テメェが結界張って能力無効にすりゃ俺でもやれんだろうが。さっさと準備しろ」
「悪いけど僕も久々の本垢運用で張り切ってるんだ。出番を譲る気はない」
敵を前にしていがみ合っている2人を見て、ナギヤは苦笑した。
「アレ何なんです……?」
素直に込み上げてきた疑問をライリにぶつけてみた。
「恒例行事だから気にすんな。アカウントが戻るといつもこうなんだ」
「はぁ……。あの、こう言っては失礼ですけどあの人達強いんですか?」
その質問にライリは腹から声を出して笑った。
「ハハハハハ!!!確かに心配だよな!なにせ、ナンパすることしか考えてない奴らだ。……でもな、あいつらはこれでも、レイド・ストリームの両翼を担えるほどの実力を持ってるんだぜ?」
ライリは得意げに言ってのけるも、戦闘中に味方同士で言い争っている姿を見ているナギヤには到底信じることはできなかった。
そして同じく傍観していたシーカーも、その光景にウンザリし始め、2人に対して手の平を向けた。
「茶番に付き合う時間はなイ。消えロ」
エネルギーが収束され、紫の光弾となって発射された。
着弾すると同時に紫の爆煙が巻き上がり、ナギヤは爆風に煽られる。
油断していたところに放たれて四散したか、と思っていたが、煙の中に悠々と立っている人影が見えた。
「そんな攻撃、俺に効くと思ってんのか?」
「PvPランキング3位の僕も甘く見られたものだね。……さて、じゃれ合いはこれくらいにして、やるとしようか」
「じゃれ合いとか言うんじゃねえ、気持ち悪いな。……まあ俺も、ランキング2位の実力をナギヤちゃんに見せつけて惚れてもらわにゃならねえからな」
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
第1話「理想郷到来←ニューゲーム開始」
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第2話「顕現せし能力←スタートアップ・サービス起動」
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第3話「貴方の過去とは?←まだまだ先のお話」
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第4話「古巣へようこそ←門前払いかよ」
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第5話「PvP開戦←彼のため」
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第6話「理想郷閉幕←カウントダウンが聞こえる」
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第7話「現実世界へ←神の庭開門」
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第9話「決死の猛攻←ボクにやれることは?」
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第10話「リアルの戦い←全てを懸けて」
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第11話「その時が訪れた←正体見たり」
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第12話「4年前の出来事←乗り越えねば」
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第13話「真名発動←主役は遅れてやってくる」
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第14話「神の裏庭←シュヴァルツ壊滅」
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第15話「決別のため←ゲームマスター登場」
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