第15話「決別のため←ゲームマスター登場」
前話です。
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/14/
夢をみた。
血肉溢れる荒野にて、湧き立つ殺人衝動を本能に掛け合わせながら刀を振るっている奇妙な夢。
その夢の中で俺は。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も──人をコロした。
まさに惨劇と呼ぶに相応しいが、あくまでこれは夢だ。
所詮は脳が作り出した幻想に過ぎない。
そうだ、そうに決まっている。
だって俺がこんなことするわけが〝チガウ〟ない俺は誰よりも仲間の為に戦って〝ゲンジツダ〟きたし誰よりも悪党を〝オマエノセイダ〟成敗してきたこの力があればみんなを救えるんだ〝スクエナイ〟だから俺は誰よりも正しい誰よりも誰よりも誰よりも誰よりも────。
あれ、おかしいな
おれは、なんのためにたたかってたんだっけ
おもいだせない
寝覚めは最悪だった。
動いていないのにも関わらず、着ている患者衣とその上に羽織っているカーディガンは汗で濡れ、無意識のうちに息を荒らげていた。
しかしそんなことはすぐに気にならなくなった。左目が前髪で隠れるほど伸びている黒髪の大学生 黒宮裁破はここがどこかの病院の個室であることを確認し、上体を起こしてベッドから出るべく腕を動かす。
「えっ……?」
反応がなかった。
まるでもはや自分の一部ではないように右腕は動かない。
だが感覚はあり、神経は辛うじて繋がっていることが感じられた。
「起きたようね」
席を外していたらしい茶髪ロングヘアーの姉 ミストこと黒宮霧華音が微笑みながら病室へ入ってきた。
「ナギヤは無事なのか?」
「目が覚めてすぐに聞きたいことがそれって、よほどあの子にゾッコンなのね。……大丈夫、無事よ。今はライリ君と一緒にナチュル・フォレストにいるはず」
「ナチュル……!?まさか、俺の代わりにネガに行くつもりじゃないだろうな!?」
裁破は飛び上がるように体を動かすもまだ完治していないらしく、全身の痛みに耐えかねてやむ無く中断した。
「本人はそのつもりよ。ナチュルにはネガを倒すための必要な『情報』が揃っている。あの子の『真名』を解放するにも、あそこは丁度いい環境だと思うわ」
「だが危険だ!ネガは何が起きるかわからない。もう止められないなら、せめて今からでも……!!」
裁破は無理をしてまで立ち上がろうとするも、霧華音が肩を掴んでどうにか抑えて座らせた。
「やめなさい。これ以上戦ったらアンタの精神が崩壊しかねないわ。それに右腕だって」
まるで自分のことのように目を閉じて悲しんでいる姉の姿を見て、裁破はこみあがってきていた気持ちを抑えた。
「自業自得だ。ナギヤを1人で助けられると思い上がって、使ったこともないイージス・ガーデンを得意げに発動させて……」
「でもそれを渡したのは私よ。もしあの時点でアンタを止めていれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに」
「そうしてたらナギヤが死んでたさ。……どっちの選択肢が正しかったのかはわからないが、俺はまだナギヤが生きているこっちを選べて良かったと思っている」
そうだ。でなければ自分がここにいる意味がない。
ナギヤを護ること、それが俺に科せられた唯一の──。
「黒宮 裁破くんは居るかな?」
男性の声と共にドアをノックする音が聞こえた。
霧華音が返事をすると病室のドアが開けられ、グレーのスーツに身を包んだ白髪の男が部屋に入ってきた。
ローストより少し年上か、顔に皺が見えるので五十路は確定か、などと考察しているが、よく注視すると見たことのある顔のように思えた。
「はじめまして、裁破くん。私は綺羅山 宝剣。ご存知の通り、イージス・ユートピアを運営しているアイギス社の代表取締役だ」
そうか、そういえばそうだった。
昔、イージス・ユートピアの特集記事で見かけたんだった。
よく見れば面影がある。
綺羅山 宝剣の素顔を拝めるのはイージス・ユートピアのサービス開始直後のインタビュー記事に載っている写真だけで、以降は人前には出ていない。
なので月日が経過した今、綺羅山本人の顔を確認できる物証がないのだ。
それも断定できなかった理由だろう。
しかし──。
「ついにこの日がきちまったか。まったく、運が悪いことこの上ないぜ」
遅かれ早かれこうなることは承知していた。
いつの日かアイギス社の使者が自分の元へ来訪し、アカウントの完全な停止措置を図ることを。
観念して溜息をつくも、待っていた言葉は予想とは違うものだった。
「いや、勘違いしないでほしい。この緊急事態に君のアカウントを凍結させるのは、此方に関してもデメリットでしかない」
「ならなんの用で?」
綺羅山は改まってこう言った。
「君に、謝りにきた。たとえスタートアップ・サービスの弊害があったとはいえ、君を追いかけ回し、挙げ句の果てにはアカウントの削除をも行おうとした。本来は我々がキャラメイキングを終えた時点で『リミット・オーバー』の存在に気づくべきだったのだが、怠っていた。更にはネガの対処をロースト君を経由して君へ任せてしまっている。これらはアイギス社のトップである私の失態だ。──本当に、申し訳ございませんでした」
綺羅山 宝剣が頭を下げている。
あの世界で唯一無二のVRゲーム開発企業 アイギス社のトップが頭を下げている。
本来ならばこのような行為は組織のトップとして許されていないだろう。
だが、そのリスクを承知の上で犯しているということは、それだけ自分に対して罪の意識を感じているに相違ない。
「詫びとはいえないが、君の願いをなんでもひとつ叶えよう。これが君の人生を破滅させた代償となればいいが、都合が良すぎるかな」
霧華音が沈黙を破って綺羅山へ文句を言おうと身を乗り出したが、裁破は静止した。
「待って姉さん。……綺羅山さん、貴方なんでもって言いましたよね?じゃあ、俺の腕を治して下さい。このゴアモードの副作用で使い物にならなくなった腕を」
「ほう、そうきたか」
ゴアモードの治療方法は一般には出回っていない。
その事態が起きる前にアイギス社がパッチを充てて修正し、ゴアモードそのものを無くした。
だからシュヴァルツによって本来存在しないゴアモードの弊害を受けた裁破にとって、このシチュエーションは『神』としか言いようがなかった。
「お願いします。今の俺には、この願いしか存在しえない」
「わかった。君がそれを望むなら、その腕を治そう。翌日の午前中にまた来るよ。それまで待っていてくれ。──心配せずとも、決行日までには必ず間に合わせる」
そう言い残すと、綺羅山は会釈をして病室から出ていった。
また病室には裁破と霧華音しかいなくなり、裁破は黙っている霧華音に対し横を向きながら呟いた。
「ごめんな姉さん。やっぱ俺にはこれしかなくてさ」
その言葉を聞いた霧華音は自分の前まで移動し、同じ目線の高さまで腰を下ろす。
意を決して目をつぶった裁破だが、彼を襲ったのは長い間親しみのなかった温かい抱擁であった。
「気にしないで。アンタの言った通り、行動してなかったら何も変わってなかったわね。さっきのは私が悪かったわ」
怒られると思った。
また自分勝手な、責任感もない若輩者の言い分で周りを振り回し、結果的には迷惑をかけてしまうから。
そうだと思って変な言い訳を考えていたが、そんなものは頭から吹き飛んでいた。
その代わりに瞳から涙が溢れ、裁破は霧華音の胸に顔を埋めて声を漏らしていた。
「──俺、帰ってきてよかったのかな。だって、たくさん人を傷つけた。そんな俺にこの世界で本来居場所なんてないから疎外感すごかったし、周りから浴びせられる冷たい視線も本当は辛かった。でもせめて、ナギヤの前では良いカッコしたいって思ってた。けど、けどさ。俺もう、限界かもしんない」
ナギヤの前では決して見せたくない姿。
それを姉の前で見せ、本音を曝け出している。
一方、霧華音も自分が心の内を声に出す度に相槌を打ち、優しい温かさで包んでくれた。
そして翌日──。
約束の刻がくるのをベッドの上で待っていた裁破の耳に、ドアをノックする音が聞こえた。
ようやく来たか、と若干毒づいて入室許可の返事をし、ノックした本人が入ってくる。
「あなたは……」
現れた人物は想定していた男とは別人だった。
黒のオールバックに自分と同じ患者衣を着ており、その厳格そうな顔付きからは想像もつかないほど弱々しくなっている中年間近の男──神城 禍矢が車椅子に乗って入室してきた。
「来てもらってすみませんが、もう少しで綺羅山氏がくる。引き返した方がいいのでは?」
神城禍矢。
ナギヤの父親であり、神城家の現当主。
シュヴァルツと手を組み、ネガを掌握しようと画策して活動資金を提供し続けていたが、実際は偽の情報に踊らされていただけという哀れな人間だ。
更に本人はネガを全ての人間が平和に暮らせる理想の世界だと信じていたようで、そこまで悪人ではないはずだ。
ただひとつ、ナギヤを苦しめていたことを除けば──。
「いや、綺羅山殿には話は通してある。本来、シュヴァルツと協同していた私が頼める筋合いではないと思っているのだが、どうしても君と話がしたくて」
「いいですよ。ネガの話ですか?それとも、ナギヤの話ですか?」
後者の話題を出した途端、禍矢の顔が暗く曇った。
「確かに、あなたの犯した行為は重いものです。ナギヤ当人がどう思っているかはわかりませんが、俺ではあなたを責めることはできない」
「本当に、悪いと思っている。あの子の自由意志より神城──セイントルウブの悲願を尊重してしまった。いや、それは美化した言い訳か。結局のところ、凪佳を利用していたことには変わりないのだから」
禍矢は自虐するように不敵に笑った。
「ナギヤは今、俺の代わりにネガに挑もうとしています。彼女にとってネガとは現実世界を想起させる云わばトラウマの温床であるはずなのに、それを振り切ってまで戦ってくれている。数日程度しか行動を共にしていませんでしたが、そんな俺でもわかるくらい彼女は確実に成長しています。──あなたがこうして、俺に罪を独白して偽善者ぶっている間もね」
裁破の皮肉を交えた言い方に禍矢は苦笑した。
「全く以てその通りだ。容赦がないな、君は」
「ええ、なにせサムライですから」
「君がそれを肯定するか。それはつまり、君も過去を振り切ったとみていいのかな」
「わかりません。ただ理解しているのは、サムライであった過去を受け入れなければ次に進むことはできないということだけです」
揺らぐことのない眼差しを見て、禍矢は安心したように口角を上げた。
その直後、病室の扉をノックする音が聞こえ、退散するべく車椅子の起動を変え──。
「私にこんなことを言う資格はないが、凪佳をよろしく頼むよ」
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
ついにイージス・ユートピアの開発元 アイギス社のトップである綺羅山 宝剣が登場しました。
本来はここで登場する予定はなかったのですが、ブレイクの過去に一応の区切りをつけるために敢えて登場させました。
第1話「理想郷到来←ニューゲーム開始」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/1/
第2話「顕現せし能力←スタートアップ・サービス起動」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/2/
第3話「貴方の過去とは?←まだまだ先のお話」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/3/
第4話「古巣へようこそ←門前払いかよ」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/4/
第5話「PvP開戦←彼のため」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/5/
第6話「理想郷閉幕←カウントダウンが聞こえる」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/6/
第7話「現実世界へ←神の庭開門」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/7/
第8話「全ては仕組まれていたこと?←俺だけは違う」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/8/
第9話「決死の猛攻←ボクにやれることは?」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/9/
第10話「リアルの戦い←全てを懸けて」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/10/
第11話「その時が訪れた←正体見たり」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/11/
第12話「4年前の出来事←乗り越えねば」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/12/
第13話「真名発動←主役は遅れてやってくる」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/13/
第14話「神の裏庭←シュヴァルツ壊滅」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/14/




