第14話「神の裏庭←シュヴァルツ壊滅」
前話です。
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超人同士の戦い。
この状況を説明するにはその言葉が妥当だった。
モーションの処理速度を超えて固まってしまいそうな程の速度で繰り出される剣戟と、それを反射神経と勘だけで避けている両者の遣り取りが実に1時間も執り行われている。
ウォーレンらはローストが手配した医療班に回収され、この拠点内に残留していたプレイヤーも避難を開始していた。
その時間稼ぎのためにローストは攻勢に出ずに様子見をしていたわけだが、ようやく耳につけていた無線機から避難完了の報告が入った。
「終わったらしいな」
勘づいていたらしいファントムは不気味に笑った。
「ああ。こっから本気だぜ」
言い終えたと同時にローストの姿が消えた。
それに呼応するようにファントムからも笑みが消え、目を閉じたままナイフを前方へと振るう。
虚空を斬ったかと思いきや、刃は突如として現れたローストの漆黒の日本刀『黒霧刀』の刀身に命中して金属音が鳴り響く。
「冗談言うなよ、これが本気か?」
「勿論」
柄を握る手に力を込め、刀身から黒い妖気なようなものを放出させる。
「おいおいマジかよッ……!!」
驚愕の色を隠せないファントムを無視して黒霧刀を縦に振るう。
幸いか不幸か、放たれるであろうアビリティを予測していたおかげで回避に成功するも、代わりにメインアームとして装備していたナイフが『感覚』だけを残して消滅した。
しかしそんなことはこの際どうでもいい。
今、問題視すべきは黒霧刀の斬撃が通った場所だ。
斬撃は床を一直線に切り裂いて壁にまで浸透しており、裂かれた箇所は透明となって消滅し無くなっている。
更にこれほどの威力の大技を放っておきながらローストは何食わぬ顔で刃を返し、ファントムの懐に切っ先を向けた。
「動きが止まってんぞ」
反応できない。体がいうことを効かない。
グサリと、内臓を抉る一撃が腹の中に染み渡る。
ファントムは口から生温かい血液を垂れ流し、素直に負けを認めたかのように、ニヤリと笑った。
「歳取って弱くなったと思ったらこれかよ。俺も焼きが回ったか」
もはや打つ手なし、慢心ゆえの無惨な敗北か。
いや、この男は既に『ブレス・オブ・ゴッド』を受けて限界に達していたに違いない。
でなければ最後の刺突を軽々しく避け、反撃の手に着手していたに相違ないからだ。
「こいつで満足か?20数年ぶりの決着が、これでよ」
「お前らとの戦闘にそんなもんは求めてねえ。俺はただ、テメェらを殲滅できればそれでいい」
「そりゃあニーナ・セイントルウブへの罪滅ぼしのためか?それとも──」
ローストは腹部から刀を抜き、ファントムを蹴飛ばして床に転がした。
「俺の単なる自己満足のためだ。そのために、お前をここで……!」
トドメを刺すべく、刀を振り上げたその時だった。
突如として周囲に煙幕が立ち込め、ローストは咄嗟に口元を袖で覆って身をかがめた。
──増援か。
想定していなかったわけでない。ただ、シュヴァルツの生き残りでこの状況を打破できるプレイヤーがいないと過信していた。
「誰だ……!?」
増援はひとりだった。
黒いフードとローブを身につけており、素顔は視認できなかったが、体躯から性別は女だと判別できた。
そいつは瀕死のファントムを脇に抱え、こちらを一瞥するとポツリと呟いた。
「裁……弥……」
背筋が凍った。
それと同時に逃がしてはいけない、という本能に駆られ、ローストは女に対して手を伸ばした。
だが叶わぬ願いだった。何故なら自身の腹の底から込み上げてきた異物を察知し、迷いもせず赴くまま床に其れを吐き出したからだ。
一面を赤く染め上げるほどの血溜まり、そして呼応するように心臓に激痛が走り、ローストは理性を制御する間もなくその場に倒れた。
ファントムは目を覚ました。
枯れていく意識の中、何者かに窮地を救われ、助け出されたところまでは覚えている。
なので必然的に到達する目的地は安全地帯のはずだ。
だが、ここは──。
「チッ……!おい!誰かいねえのか!」
鉄格子の中にいた。それも『ネガ』内にて。
ファントムは出せる限りの声量で叫び、人を呼ぶ。
なにせ救出されたのに関わらず檻に閉じ込められているなんて、これほど奇妙な結果はない。
しかし、もしもこれが予期しない『第3勢力』の介入であるとするならば、話は別だが。
「おや?起きられましたか」
声の主は男だった。それも知っている人物。
黒の執事服に身を包み、金色のセミロングを靡かせているシュヴァルツのメンバー フロスト・フォレスト。
「フロスト、テメェ。こりゃ一体どういうわけだ?」
「はて、なにが?」
さも当然のように首を傾げた。
「私は単に『敵』である貴方を拘束しているだけですが」
敵だと?笑えない冗談だ。
まさかくだらない予想が的中したというわけでもあるまいし。
「何言ってんだよテメェ。いいからさっさと出しやがれ!」
「出すわけないでしょう。貴方は最後のシュヴァルツメンバーなのですよ?」
「は?なにとち狂ってやがる。テメェもシュヴァルツだろうが!」
ファントムは重体である体を起こし鉄格子を揺らすも、フロストは微動だにせず鑑賞していた。
「私はシュヴァルツなどではありません。確かに23年前において、創設者であるエイジ氏が倒されるまでは仲間でした。ですがあの時から私はシュヴァルツに見切りをつけ、新たな組織に鞍替えしていたのですよ」
こいつは何を言っているんだ?そんなこと、有り得るはずが──。
「貴方がウォーレンやローストを倒し、ネガ計画を推し進めてくれるなら生かしておく価値はありましたが、もはや不要ですね」
フロストがチラッと傍らを一瞥すると、黒いフードを被った人物が現れた。
「報酬です。お好きにどうぞ」
フードの人物にその場を任せ、フロストは目の前から去っていった。
残された其れはファントムに手の平を見せると、トレードマークであるフードを外してみせた。
「テメェは──!」
ファントムが言い終える前に周囲は光に包まれる。
肉体は焼かれていき、やがて煙となって蒸発した。
これは断罪の光だ。
私の、私の仲間を、殺したことへの──。
「どうやら、満足してくれたようですね」
フロストは瞬く閃光を見て不敵に笑った。
「でも僕はまだ足りないよ。フロスト」
ネガにおいて最も高く、歪な赤黒い建物の頂上にいる仮面の男 アサルトはフロストに不満をたらした。
「もっともっとプレイヤーのデータが欲しいな。──あと、彼女はどうして仲間の仇を討ったんだ?別に自分が殺されたわけでもないのに」
良くいえば純新無垢。悪くいえば単なる無知。
アサルトは笑顔を浮かべ、物心のついた幼児のようにフロストへ質問を問いていた。
「まさか仲間のため、とか?そうだったら素晴らしいなぁ」
「いえ。自分のためですよ。所詮凡人は自分のためにしか戦いません。それは貴方が一番良く知っているはずでしょう?」
その言葉を受け、アサルトの表情から笑みが消えた。
「うん、そうだね。だから僕が世界を変えなくちゃ。そんな薄汚い世界を壊して、代わりに『VR適正』を備えた新時代の人間が楽しく暮らせる場所をここに作らなきゃ」
「その通り。間もなく最後のピースである神城凪佳がやってきます。彼女と同化し、ニーナ・セイントルウブが成し得なかった『真の理想郷』の開拓を、どうかこの地に──」
「わかってるよ。彼女のDNAに刻まれた『魔操術』とは別のスタートアップ・スキル、通称『クリエイト・ユートピア』を目覚めさせるってことでしょ?」
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
ローストの戦闘描写が短いかと思われますが、都合ゆえですのでご容赦ください。
第1話「理想郷到来←ニューゲーム開始」
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第2話「顕現せし能力←スタートアップ・サービス起動」
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第3話「貴方の過去とは?←まだまだ先のお話」
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第4話「古巣へようこそ←門前払いかよ」
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第5話「PvP開戦←彼のため」
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第6話「理想郷閉幕←カウントダウンが聞こえる」
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第7話「現実世界へ←神の庭開門」
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第8話「全ては仕組まれていたこと?←俺だけは違う」
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第9話「決死の猛攻←ボクにやれることは?」
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第10話「リアルの戦い←全てを懸けて」
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第11話「その時が訪れた←正体見たり」
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第12話「4年前の出来事←乗り越えねば」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/12/
第13話「真名発動←主役は遅れてやってくる」
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