第13話「真名発動←主役は遅れてやってくる」
前話です。
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/12/
「その眼……。魔眼使いか?それも『覚醒』させてやがる」
覚醒。
魔眼にのみ搭載された機能であり、発動すればノット・スタンダードの『真名』と大差ないほどの実力を発揮できるといわれている。
しかし会得し、発動できるプレイヤーはまずいない。
何故ならば『覚醒』の第1条件が、『VR適正』の有無かなのだから。
「つーことはテメェ、適正持ちかよ。厄介なのに当たっちまったな」
「アンタだってそうでしょ?どうやって手に入れたのかは知らないけど、ホントにアンタ達って人工物大好きね。そんな薬まで投与して『VR適正』を欲しがるなんて」
ファントムは予想だにしていなかったと言わんばかりに驚き、怒りを滲ませた。
「どっから聞いた……?」
「さっきパパから連絡があったのよ。アンタ達、シュヴァルツは人工的に適正を体に作り出し、仲間を増やしていたってね」
「あー、そうかい。そいつを知ってるっつーことはあの『クソアマ』と『ジジイ』、しくじりやがったな……」
なんのことを言っているのかわからないが、彼の雰囲気が一変したことだけは理解できた。
「そういうことならもう手加減しねえ。テメェらを殺し、この建物にいるやつらも全員殺す。ゴアモードを強制展開してな」
ファントムから瘴気が溢れる。
彼の顔から笑みが消え、本来の姿である殺人鬼へと戻っていた。
「ミスト、少し時間稼げるか?」
「別にいいけど。ていうかアレ相手にできるの私だけでしょ。相性的に」
「確かにな。だがトドメは刺せんだろう。──だから真名を発動させる。そのキャストタイム中、ヤツを足止めしといてくれ」
「わかったわ。任しといて」
ミストはウォーレンの前に出た。
普通のプレイヤーならば卒倒してしまうくらいの圧が体に伸し掛るも、ミストにとってそんな圧など強風程度のもののようにサラッと受け流した。
「今、こん中にネガ内と同様の効果を付与したぜ。──というかテメェらもわかってんだろ?俺がこのラスターを操ってゴアモードを使い、セイントルウブのガキの才能を開花させ、更にはレイド・ストリームのプレイヤーをネガに送り込んでたことをよぉ」
「まあ大体のことはね。それに私に色んな情報を流してたのもシュヴァルツなんでしょ?」
「ああ、あれか。あんなんはデマだぜ。なんだ?まさか信じてたわけじゃねえだろぉ?」
額に青筋が浮き立ちそうなほどの怒りを表情にしているミストだが、なんとか堪えて冷静に戻った。
「そんなわけないでしょ。っていうことはなに?ネガでやられたプレイヤーのアカウントが消えるとか、あまつさえ死んじゃうって情報も嘘なわけ?」
「はあ?そりゃガチに決まってんだろ。じゃなかったら今ここを埋めつくしているネガの効果の意味がねえ。やられた奴らのアカウントは消え、運が悪けりゃそのままオダブツしちまうのさ。あの世界で叩き潰したテメェらクランのクソ共と同じようにな!」
ケラケラとファントムは嘲笑った。
改めてネガの脅威を確認させられ、動きが鈍る──のかと思いきやミストは一切顔色を変えず、ウォーレンに至っては赤黒い両刃剣『トランス・サバイブ』の真名を発動すべく全身の魔力を解き放つべく目を閉じていた。
「言っとくけどそんな脅し通用しないから。たとえ本当に逝っちゃうとしても、シュヴァルツが相手なら引き下がるわけにはいかないのよ。まして幹部級ともなればね」
「まあ、んなこったろうと思ってたぜ。そもそもハナから見逃がす気はねえし、総勢3156人の仲間をぶっ殺してあの世に送ってくれたツケをテメェらに払ってもらわにゃならんしな」
「なにその筋違いな逆恨み。ていうか殺られた人数覚えてるとか意外と仲間意識高いんだ。そっちはその倍以上の人間殺してるっていうのにね」
一瞬で空気が重くなり、両者ともに戦闘態勢へ入ったことを告げる。
初手をとったのはファントムだった。
体躯を透明と化し、気配すらも遮断している不可視攻撃にてミストの背後をとる。
手刀による刺突で左胸の心臓部分を狙うが、突いた感触がどうにも軽く、まるで雲を突いているような手応えのなさだった。
「幻術か……!」
やがてミストだったものが空気に溶け込み始め、霧のように分散して消滅した。
「そういうこと。アンタと同じで私の本体は眼に見えない。これが魔眼『幻霧の瞳』の能力よ」
そう言うとミストと思しき人影が4体、5体と増殖しながら出現を繰り返し、その様子はさながら一種の幻覚症状のようだった。
「こいつらの中に本体がいるとも限らねえ。何処かに身を潜め、好機を伺っているかもしれねえ。マジで厄介な能力だが、出す相手を間違えたな」
ファントムは先程と同様の瘴気を発すると、周囲にあったペンや椅子、観葉植物などが宙に浮き始め、更にはスマートフォン型デバイス『フリージー』を操作して数十単位の刀剣を床にばら撒き始めた。
「『フォースト・ポゼッション』が憑けるのはなにも人だけじゃねえ。実態のあるモノなら大抵は操れる」
刀剣が意志をもったかのように浮遊し、ファントムを護る盾として矛として周囲を取り囲んだ。
「そこまで適用範囲を拡張できるなんて、やっぱり真名?」
「そうだ、真名だ。これこそノット・スタンダードでありフォースト・ポゼッションの真髄。──飽くなき魂、無限を操りし力を我に授けよ。真名顕現【SoulInfinity】」
瞳を赤色へと変え、ファントムは真名を唱えた。
それに呼応するかのように躰を囲っていた刀剣が複数のミストに対して剣先を向け、矢となって飛来していく。
ホンモノではない只の幻影は矢の前に尽く消滅していき、抵抗しようにも音速で飛んでくる矢に対処などできるはずもない。
なにせ殆どの幻影はウォーレンを護るための壁として機能しているため、攻勢に回れる数が圧倒的に少ないのだ。
「旭山の女を見捨てれば俺に勝てる見込みがあるかもしれねえってのに、つくづくお前らの思想は理解できねえよ」
矢による猛攻が増していく。
撃ち落としても直ぐに意志を帯び、たとえ刃が削れようともその勢いは収まることはない。
もはやウォーレンを護る盾は片手で数えられるくらいの量しか残っておらず、ファントムはそれを好機とみて全戦力を投入して矢を放った。
しかし、だというのに、ウォーレンは避ける素振りすら見せなかった。
「どうした!?諦めたかァ!」
防ぎ切ることは叶わない。
矢は確実に幻影の隙間を抜け、ウォーレンの身を抉り取るだろう。
勝利を確信したファントムだが、突如としてウォーレンの前に誰かが立ちはだかり、矢を全身で受け止めた。
「甘くみてたわ。──チッ、めっさ痛いんですけど」
正体はミストの『本体』だった。
全身からはゴアモード然りネガ内効果によって傷口から血液が溢れ出ており、その激痛とショックによる精神的苦痛でとても立っているどころか、意識を保つことさえ難しいのにも関わらず、ミストはウォーレンを護るために自動ヒーリングアビリティを発動し続けて盾となっていた。
「テメェ……!邪魔すんな!」
ミストから剣を抜こうとするも、なにか抑え付けられているかのように抜くことができない。
「重力系アビリティで私の体から抜けなくさせてもらったよ。考えが甘かったね」
「ざけやがって!まだ武器はある。これでテメェ諸共、串刺しにして……!!」
言い終える前にファントムの腹部には剣が刺さっていた。
いや、正確に言うなれば背中から奇襲を受けたという方が正しい。
スケルトン・アーミーによる銀の剣の刺突で動きが止まり、ファントムは怒りの形相で後方を見た。
「ラスターか……!」
意識を取り戻していたラスターはうつ伏せになりながら、最後の力を振り絞って召喚魔術用の杖『アンチライブス』でスケルトン・アーミーを操作していた。
「リーダー、今です」
ラスターの言葉にハッとなり前方を見る。
そこには魔力を充填させ、トランス・サバイブの刃を通常の何倍もの大きさへと変貌させたウォーレンの姿があった。
「『双つの世界を繋ぎし神剣よ、悪しき者を滅するべく覇の解放をここに命ずる』。──真名顕現【Breath of God】」
荘厳と呼ぶに相応しいオーラを纏っているウォーレンは、両手で構えている神剣を前に突き出した。
その刹那、刀身に拘束されていた青白い光がまるでレーザービームのように具現化し、ファントムの躰を焼き尽くすべく放たれる。
ファントムは防衛体勢を取るため残された剣や家具を眼前へ集結させるが、時すでに遅く、体躯は光によって包まれた。
光は留まることを知らず壁を破壊し、果ては上階全てを吹き飛ばすほどの威力を魅せて終息に至った。
「ありがとラスター君。アンタがいなかったら私達負けてたわ」
ファントムのスキル効果が消滅したことでミストを包んでいた刀剣が消え去り、満身創痍といった形で崩れ落ちた。
「まったくだ。流石はサイの一番弟子なだけはあるな」
「それは言わない約束──って、えぇ!?」
羞恥に塗れながらも反論しようとしたが、ウォーレンの姿格好を見てラスターは声を上げた。
無理もない。先程まで自分と同じくらいの背丈だったのが半分くらいにまで収縮しており、その姿はまるで小学校低学年の子供同然だった。
「何を驚いている?トランス・サバイブの真名を使えばアバターが現実世界の肉体と同期してしまい、暫く直らないんだぞ。そんなこと知っているだろう?」
「話には聞いていましたけど直接見るのは……!ていうかリーダー、子供だったんですか!?」
不躾な質問をするラスターの踵をウォーレンはつま先で小突いた。
「いてっ!何するんスか!」
「私は列記とした成人だ。そこのミストと同年代だし、貴様より確実に歳は上だぞ。……そんなことよりミスト、お前の傷を治さなくてはな。今、医療班を呼ぶ。なんとか耐えて──」
ウォーレンの言葉はそこで途切れた。
なぜなら背中から腹部にかけてまで短刀が刺さっていたからだ。
目を見開いたままうつ伏せで倒れ、ウォーレンの肉体は死体同然に動かなくなった。
「リーダー!……お前!」
ラスターが眼光を向けるその先。
その先に、死んだと思われていたファントムが立っていた。
体の左半分が消し飛んでいるにも関わらず──。
「マジ危なかったぜ。だがこれで借りは返した。魔力を全て使い果たした後なら防御力も低下しているから、こうしてナイフ一本でも簡単に殺せる」
ファントムは肉体の損失などさも問題なさげに話を続け、半身を幻影で補いながらミストの前まで歩を進める。
「次はテメェだ、ブラック・ミストの娘。テメェを殺し、その後は旭山 零加、そして最後はサムライのガキだ。──ヤツに関係する全ての人間を抹殺し、ヤツへの手向けとする……!」
動くことができず、ましてや意識が朦朧としている中、ミストは振り上げられるナイフをただ見ていることしかできなかった。
救助すべくラスターが『アンチライブス』でスケルトン・アーミーを召喚しようとするも、魔力の枯渇によってそれは叶わず、ついにナイフはミスト目掛けて振り下ろされ──。
「なに?」
ファントムの腕が飛んだ。
いや正確には飛んだのではなく、消失したという方が正しい。
何故なら『感覚』は残っており、見えないが確実にそこに腕は在るのだ。
この現象は初めてではない。幾度となく遭った現象だ。
それも、憎いほどに。
「久しいじゃねえか……!」
ファントムの眼前にそれは居た。
このファンタジー世界に似合わぬ純黒のスーツとズボン、相手を見ただけで殺しそうなほどの冷たさを備えている目を右だけ黒の前髪で隠し、右手には漆黒の長刀が握られている。
何から何まで『黒』一色の男はミストらを一瞥すると、ファントムに視点を切り替えて重低音の効いた声を零した。
「お前らゴミ共をぶっ殺すために帰ってきたんだよ。だが来てみりゃ零加の姪はダウン、ゴミは俺の娘にトドメを刺そうとしてやがる。──これを黙って見てられるか?」
スーツの男 ローストは刀を握り直し、突き刺すような殺気をファントムへと放った。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
ミストの『幻霧の瞳』の覚醒は常時発動している設定です。
今後ともよろしくお願いします。
第1話「理想郷到来←ニューゲーム開始」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/1/
第2話「顕現せし能力←スタートアップ・サービス起動」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/2/
第3話「貴方の過去とは?←まだまだ先のお話」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/3/
第4話「古巣へようこそ←門前払いかよ」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/4/
第5話「PvP開戦←彼のため」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/5/
第6話「理想郷閉幕←カウントダウンが聞こえる」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/6/
第7話「現実世界へ←神の庭開門」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/7/
第8話「全ては仕組まれていたこと?←俺だけは違う」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/8/
第9話「決死の猛攻←ボクにやれることは?」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/9/
第10話「リアルの戦い←全てを懸けて」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/10/
第11話「その時が訪れた←正体見たり」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/11/
第12話「4年前の出来事←乗り越えねば」
https://ncode.syosetu.com/n1784hk/12/




