第11話「その時が訪れた←正体見たり」
全話です。
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ストレイ・フォレスト
通称『幻迷の森』と呼ばれているこのフィールドダンジョンは、ある一定のルートを通らなければ目的地に辿り着けない。
しかし逆をいうとルートさえ覚えていれば都合のいいショートカットとして利用できる利便性を備えている。
かくいうナギヤもブレイクのホームがある街『ナチュルクェイト』までの道程を短縮しようと、零加にルートを教わって森を歩いている最中だった。
様々なプレイヤーが右往左往している中、ナギヤが迷うことなく足を動かしていると、近くにあった茂みが微かに揺れた。
「ガギャオオオオオ!!!!」
棍棒を持ち、猿人類を思わせる姿格好をしたモンスターが突然ナギヤ目掛けて襲いかかってきた。
ゴリラの怪物──正式名称を『ウィード・バーサーカー』と呼ばれるモンスターはナギヤを推し潰そうと棍棒を振り下ろすも、股の下をスライディングで通り抜けて回避した。
そのまま頭に飛び移り、脳天を右腰から抜刀した『エンブレス・ストライク』で突き刺してウィード・バーサーカーを絶命させる。
「これでレベル50」
つい最近まで初心者だったとは思えぬほどレベルを上げていたナギヤは、倒れているモンスターに目もくれずに歩き始めた。
かれこれ2時間以上、指示されたルートを歩いている内にウィード・バーサーカーを30体以上は撃破している。
これから行われる『ネガ突入作戦』を万全の状態で挑むためには急激なレベリングが必要不可欠だし、ウィード・バーサーカーは湯水の如く際限なく湧いてくるため相手にするしかない。
しかしそのおかげで大体の急所は掴め、今では殆ど一撃で倒せるまでに上達した。
そんな効率のいいレベリング方法を編み出したナギヤだが、しばらくすると眼前に数時間ぶりの光が見えてきた。
「あ──」
はれてルートを完走したナギヤが見たものは、緑に囲まれた家屋が立ち並んでいる自然豊かな街──ナチュルクェイトだった。
まるで争いを拒んでいるかのように静かで穏やかな街はナギヤを快く受け入れ、零加からの情報を照らし合わせながらブレイクのホームへと歩を進めていく。
それにしても心温まる。ネガの脅威など微塵も感じられない。
実際、ここにくるまで1度もネガへの強制転移は行われなかった。
ナギヤにとっては好都合だが、今この瞬間にも被害に遭っている人がいると思うと気が休まらないのが事実だ。
零加が提供してくれた画像と同じ建物を探していると、突然後ろから声をかけられた。
「よう、こんなとこで何やってんだ?」
反射的に振り返り、声の主を確認した。
「ライリ……さん……?」
思いがけない人物の登場に声が震え、自然と涙がこみ上げてくる。
「無事だったんですか……!?」
「まあケガしたといっても飽くまで仮想空間のアバターだからな。ゴアモードみてえに現実に支障が出るわけでもねえし、少しばかり施術して終わりさ」
「よかった……!あの時やられて、どうなったかと心配で……!」
涙を流しながら笑みを浮かべているナギヤの肩にライリは手を乗せた。
「話はウォーレンから聞いている。アンタがブレイクの代わりにネガとシュヴァルツを殲滅すると──」
「はい!」
ナギヤは涙を拭き取り、真剣な面持ちで返事をした。
「随分な覚悟だな。それとも吹っ切れたか?……まあどっちでもいいが、俺も作戦には同伴する。アンタの護衛としてな。今日はその一環として来たんだ」
「ライリさんがボクの……!?」
「一度目の前でやられてるから心許ないとは思ってるけどよ。ブレイクには俺も世話になったし、何よりシュヴァルツの連中が許せねえ。頼りにはならねえかもしれないが、よろしく頼む」
「い、いえ!そんなことは!」
慌てながら否定するナギヤを見てライリはほくそ笑んだ。
「フッ……。とりあえず進むか。確か聞いた話によるとブレイクのホームに用があるんだってな?俺が案内するぜ」
ライリは慣れた足取りで目的地へと歩き始め、ナギヤがその後ろをついていく。
暫くすると画像と同じ家屋が姿を現し、ライリは中庭で掃除をしているメイド服に身を包んだ青髪のプレイヤーに声をかけた。
「久しぶりだな、シルフィ」
「はい、ライリキスさん。それと、ナギヤさん。お待ちしていました」
シルフィと呼称されたメイドは淡々と言葉を連ねて深々と頭を下げた。
「こちらへどうぞ」
シルフィは箒を壁に立てかけ、先導しながらホームへと入っていく。
一目でわかったが、内装はとりわけ豪華というわけではなく、かといってみすぼらしいというわけでもない。
しかし何故だろう。たとえ極限状態にあろうと安心感を与えてくれるような、人間社会というストレスの渦中から解放してくれるような雰囲気がここにはあった。
「いいトコだろ?」
「はい。もし世界中がこんな風だったらって思います」
「フッ。あいつもここを初めて見つけた時、そんなこと言ってたよ。だから大金はたいてまでホームを買ったんだろうな」
2人でそんな会話をしていると、先導していたシルフィがある部屋の扉を開けた。
続いて中に入り、見たものは壁一面に覆われた本棚の列で、シルフィは迷うことなく本棚から1冊の本を取り出してナギヤに手渡した。
「ここに今、あなたが知らなければならないことが記されています」
「ボクが……?」
「そう。あなたがブレイク様の代わりとなって戦うならば、避けては通れない情報。準備が出来たら開いてください。本の『記憶』があなたを誘ってくれることでしょう」
本の表紙にタイトルはない。
ただ色褪せており、まるで長年もの間放置されていたかのような哀愁を漂わせていた。
ナギヤは意を決して表紙を掴み、ゆっくりと開いた。
同時刻、レイド・ストリームの本拠地。
7階に存在するクランリーダー専用の個室にて、ウォーレンが執務机に肘を乗せながら物思いにふけていた。
このまま作戦を続行させていいものか?
ブレイクという貴重な戦力を失った以上、考え直すべきではないだろうか?
そんな心配が脳裏に浮かび、彼女を精神を削っていく。
「リーダー、いらっしゃいますか?」
「ああ、いるぞ」
ノックと共に聞こえた男の声に、ウォーレンは二つ返事で応答した。
「失礼します。ネガ突入作戦のことでご相談が」
入室してきたのは紫色の長髪を靡かせているラスターだった。
ローブに身を包んでいる彼は、真剣な顔持ちで口を開いた。
「私もご同行させては頂けないでしょうか?もちろん無理な願いだということはわかっておりますが、あのナギヤというプレイヤーだけではどうにも不安でして。それに私には彼女を苦しめてしまった『罪』があります。ここはひとつ、私に彼女の支援としてどうか……!」
「……それが罪滅ぼしになると?」
「ブレイクの仲間だということで早計していましたが、彼女は素晴らしい才能を持っている。ここで失うのは勿体ないくらいです。罪滅ぼしなんて自分勝手な理由ですが、彼女を守りたい気持ちは本心で──!」
「なるほど。その本心を利用し、ナギヤを手にかけようというわけだな?」
口を挟んだウォーレンの言葉に、ラスターは絶句した。
「な、何を言っているんです!?私がそんなことをするわけ……!」
「もう芝居はよせラスター。いや、これではラスターに失礼か。彼も貴様に利用されているだけだからな。そうだろう?ファントム」
名を告げた瞬間、ラスターは口を紡いだ。
沈黙が訪れたかと思うと突然ラスターが笑い出し、今までは別人かのような口調で声を出した。
「フフフフ。ハッハッハッハッ!!!──いつからだ?いつから俺の正体に気づいていた?教えてくれよ、旭山の後継者」
「ついさっきさ。思い返してみれば、あの決闘は不可思議なことばかりだった。突如として発動したゴアモード、ナギヤの暴走。そして、いつものキミでは考えられない攻撃性の高さ。これだけ揃えばラスターが何かしらに関与し、仕組んでいた可能性があると判断した。だがいくらラスターといえど、そんな非道に堕ちるほど弱くはない。ならば誰かに唆され、不本意ながら実行していると推測したまでだ」
「そっからよく俺にまで辿り着いたな」
「簡単な話だ。私の姐からシュヴァルツ再始動の情報を聞き、旭山のデータベースで調べてみたところ、興味深い名を見つけた。それは他者のアカウントを乗っ取り、まるで自分がプレイしているかのように操れるスキル、通称『フォースト・ポゼッション』の使い手。幾人もの人間を殺し、果てには世界各地で危険人物として警告されている殺人プレイヤー ファントムの名をな」
「やっぱ旭山はあの時点で消しとくべきだったか。表舞台に出るつもりはなかったが、こうなっちまえば仕方ねえ」
ラスター元いファントムは瞳を閉じ、短くなにか呟くと再度目を開けた。
謎の動作に何かしらの意図があると読んだウォーレンは立ち上がり、立てかけてあった赤黒い刀身の剣『トランス・サバイブ』を手に取った。
「──成程。そういうことか」
ウォーレンはトランス・サバイブを持ち上げ、横一文字に空を薙ぐ。
その瞬間、今まで不可視の状態で滞留していた『なにか』の正体が四散する形で可視化され、ウォーレンの前に姿を現した。
「悪いが私に『幻術』『呪術』といった精神ステータスに影響を及ぼすスキル、アビリティは通用しない。残念だったな」
「チッ……!さしずめトランス・サバイブにシークレットアビリティを付与していたってところだろうが、次は上手くいくと思うな」
シークレットアビリティ
プレイヤーが武器に自由に設定できるアビリティの名称である。
パターンは無限に存在し、プレイヤーがどんなアビリティを付与するかによって戦局は大きく変わる。
しかし、ひとつの武器に装着できるシークレットアビリティはひとつと限られている。
故に魔装術のように様々な『変化』を起こさせることはできず、各々のプレイヤーは幾年かかろうとも自らと最も相性のいいアビリティを探し抜かねばならない。
「そういう貴様もフォースト・ポゼッションの真髄たる『憑依』を発動していたようだが、これから先は予備動作すらできぬものと思え」
ウォーレンは右手でトランス・サバイブを持ち、正中に構える。
「おもしれぇじゃねえか。憑依が使えなくともラスターの『骸霊魔術』は使える。こいつでてめぇを追い詰めてやるよ。──さあ、消えな!」
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