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イージス・ユートピア  作者: 鍋田 リューマ
ネガ編
10/40

第10話「リアルの戦い←全てを懸けて」

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/9/

全話の続きです。

 そして現在───。

 裕次から全ての真相を聞いたフロストは、笑いを堪えきれずに零した。

「フフフ……。あーあ、本当にムカつく男だ。黒宮裁破(くろみやさいば)、やはりヤツは完全に消し去らなければならないようですね。しかし幸いにも、あなたの話によると、黒宮はこの場にいるということになる。貴方が共に連れてきた執事がそれでしょう?」

 フロストは腕につけていたブレスレットのようなものを押し、瞬時に肉体を消失させる。

 裕次は取り乱す様子すらなく、耳につけていたインカムに対して囁く。

「裁破、敵がそちらへ向かった。対処を頼む」

 そう指示を出すと裕次を象っていたロボットは目を閉じ、ついには充電が切れたかのように項垂れて機能を停止した。


 テラスにて胸に踞る凪佳を片手で抱き締めながら、聞こえてくる裕次の声に反応した。

「了解。……ナギヤ、すまないが少し待っててくれ」

 裁破は懐よりモノクル型のデバイス『Moa-002』を右眼に付け、仕掛けてくるであろう襲撃者に対して身構える。

 やがて目の前に小さな竜巻を纏い、執事服を身につけた金髪の男が現れた。

「どうやら準備は万全のようですね……。しかし、あなたにそれが操れますか?」

 執事───フロストは元々装着していたモノクルに触れると、慣れた手つきでそれをデバイスへと早変わりさせた。

「なにかを眼につけていなければ気持ちが落ち着かないんですよ。ですがやはり、こちらの方がしっくりくる。……イージス・ガーデンにおいて展開される武装は基本的にメインとなる近接戦闘装備のみ。身を守るための防具はなし。そんな殺し合いに特化したゲームで、あなたのようなガキが勝てると思っているんですか?」

「───やってみなくちゃわからないだろ」

「黒宮……。世代が変わろうとも、ムカつくことに変わりはないようだ」

 全身の毛が逆立つ。

 フロストから発せられるバーチャルにはない本物の『殺気』が躯を包み、足を竦ませる。

 ここで立ち止まるわけにはいかない。後ろで怯え、蹲っている少女を守るためにも、ここで剣を執ってこの男に勝たねばならない。

 もう一度あの世界に戻り、本当の『理想郷』を取り戻すために。

「「『イージス・ガーデン』アクティベート!!」」

 両者ともにアプリケーションの起動を促す音声を発し、ゲームアバター『ブレイク』となった裁破の手に愛刀である銀灰色の刀『銀嶺(ぎんれい)』が出現する。

 一方でフロストの手足には武器らしい装備はなく、拳を突き出す構えをしながら腰を落として息を吐いた。

 どういうつもりだ?素手装備ではないだろうし───。

「まさか!?」

 気づいた頃には遅かった。

 既に戦闘態勢をとっていたフロストは驚異的な脚力でその場から飛躍し、1秒足らずでブレイクの眼前まで迫っていた。

「───ッ!!」

 しかしブレイクとて負けてはおらず、間一髪で素手による打撃を回避して間合いを取る。

 息を荒らげ、よろめきながらも左手に持っている銀嶺を正中に構えた。

「なるほど、凄まじい反射神経だ。だが負傷した右腕は治っていないようですね。まあ当たり前ですが」

「何言ってる」

「薄々気づいているでしょう?その傷を抉っているのはノイズの斬撃でなく、お嬢様の魔装術『壱式』を形成していた『スパイラル』の魔法の効果であると。そして、ゴアモードで中途半端なダメージを受ければ身体機能にも影響が───」

「やめろ!」

 これ以上、自分が抱えている『真実』をナギヤに知られることを恐れ、ブレイクは叫んだ。

 だがフロストはそんなこと気にもとめず、無情にも真実を打ち明けた。

「影響が出て、受傷した部位はやがて壊死に至る。現実世界の治療方法は未だに公表されておらず、イージス・ユートピア内の回復アイテムもアイギスがゴアモードごと削除したため無し。だからといってアイギスに事情を話し治療してもらおうにも『サムライ』であった過去をもつ貴方では取り合ってもらえない、と考えているのでしょう?」

 ブレイクは吐露された真実に歯を食いしばった。

 せめてナギヤだけには明かしたくなかったが、ここまで話されては隠し立てすることは不可能だろう。

 事実、自分の後ろでナギヤは信じられないという表情を浮かべ、呆然と立ち尽くしている。

「確かにアンタの言う通りだ。俺はアイギスから目を付けられている。治すことは不可能だろうな。……でも後悔なんてしていない。あの場面でもし俺が助けに出なかったらナギヤは更に暴走し、精神を壊していただろうから」

 フロストはブレイクを見て鼻で笑うも、自白した彼自身の意図までは読めなかった。

 自ら認め吐いた言葉の羅列は正確には執事に対して言ったわけではないからだ。

 背後にて自責の念に駆られているナギヤを慰めるため、その罪悪感を少しでも取り除くためである。

「強情なところも親譲りというわけか。……ですが虚勢を張っていられるのも今のうちだけですよ」

 フロストは両手を腰に充て、力を溜めるような姿勢をとった。

 同時にブレイクの脳内に危険信号が走り、これが『撃滅葬(げきめつそう)』の基本アビリティ『身体強化(フル・エンチャント)』のモーションの起動を促す構えであることを知らせた。

 ブレイクは4年前に発生した撃滅葬の『増殖チートバグ』の処理を担当していたので、アビリティモーションの起動方法は殆ど理解している。

 だが戦ったことのある撃滅葬はアビリティはコピーできてもステータスまではコピーできなかった粗悪品であるため、この『本物』である撃滅葬の威力は計りしれない。

「次も避けられますか?」

 フロストは初撃と同じような構えをとり、ブレイクに接近すべく地を駆けた。

 二の轍を踏まないために『正面からの攻撃』を念頭に置きながら。

 だがなんだ?この違和感は。それに奴の拳になにか薄い膜が見え───。

「……しまった!」

 ブレイクは『身体強化』を重ねた通常攻撃だと思い込んでいたが、早計だった。

 執事が企んでいる『作戦』をこのタイミングで阻止できるかわからないが、一縷の望みに賭けて『緊急脱出系アビリティ:リペルフライ』を発動して振り向く。

 案の定、フロストが眼前に迫ってきていたため、彼の右拳に銀嶺の刀身を命中させて隣接していた小部屋まで吹き飛ばした。

「今のは……?」

 その一部始終を横で見ていたナギヤは好奇心を抑えきれなかったのか、はたまた気持ちが落ち着いて心に余裕が生まれたのか、再会してから2度目の言葉を口にした。

「不意打ちだよ。撃滅葬を知らない初見とか、油断している相手なら有効なアビリティなんだ。名称は『幻剛(げんごう)』で、あれをくらえば戦闘不能にはならないけどHPの60%は確実にもっていかれる。どうにか見極めて『緊急脱出用』のアビリティを使って対応したけど、このままじゃ……!」

 ブレイクは崩れるように膝を着いて歯を食いしばった。

 予想以上に体が言うことをきかない。今の『リペルフライ』も利き手ではない左手で打ったということもあり、上体に相応な負荷がかかっている。

 ナギヤを救うべく参上したのに、これでは助けるどころか自滅しかねない。

 こうなれば玉砕覚悟で懇親の一撃をヤツに叩き込むか?

 痛みに堪えて思考回路をフルブーストしていると、隣の部屋から声が聞こえた。

「いやはや驚きましたよ。まさか初見で『幻剛』を見破られるとは思いませんでした。さすがサムライと賞賛すべきでしょうか」

 恐るべきことに、フロストは転んだだけと言わんばかりに立ち上がって肩から埃を払った。

 しかしそんなことはありえない。

 左手で放ったとはいえ、今のは短時間で復帰できるような軽い攻撃ではないはずだ。

 考えられるとすれば、奴の持つ『AR適性』の高さ故か───。

「しかし同時に残念でもあります。バーチャル空間では無敵の『サムライ』も、現実世界では一般人と変わらないということが今のアビリティでわかりました。これでは何時間粘ろうと私を倒すことなどできない」

 執事はブレスレットに一瞬目をやると不敵に笑い、拳に毒々しいほど光沢を増した赤色のオーラを宿してこちらへ近づいてきた。

「お嬢様、朗報です。今しがた貴方の最大の障壁であった旦那様が出血多量で死にましたよ。よかったですねぇ」

「ッ……!?死……!?」

「ええ。もはや生きている価値がなかったので、私自らの手で引導を渡しました。……あの方は最後まで全ての人間を活かすための世界を作ろうとしていたようですが、そんなことは許されない。ネガは選ばれし者だけが住まうことのできる理想の世界なのですから」

 フロストは拳を胸元に上げ、無防備な状態でへたり込んでいる金髪の少女を目指して歩を進める。

「ですが貴女だけはここで殺す訳にはいきません。共にネガへ来てもらい、ネガ世界を完全にするための礎となってもらわねば。多少、痛いかもしれませんが、我慢してくださいね?」

「……待てよ」

 両者の間に体力も精神力も殆ど限界に近いブレイクが割って入った。

 もはや立つことさえも精一杯であろう彼は全身の力を込め、左手で銀嶺の柄を握る。

「もう貴方に興味はない。存在価値もない」

 そう言ってフロストが攻撃態勢に入る前にブレイクは叫び、魂のこもった最後の一撃『近接攻撃系アビリティ:アトミックブレイカー』を発動した。

 しかし刀身はフロストの胴体ではなく右手に装備されているらしい見えない『撃滅葬』に命中する。更に不運なことに銀嶺は耐久値の限界を超えてしまったようで、刃が真っ二つに折れてそのまま地面に突き刺さった。

「フッ、アテが外れましたね」

 フロストは自滅したブレイクを嘲笑うかのように鼻で笑う。

 だがそう思ったのも束の間、右手の透明な『撃滅葬』にヒビが入り、亀裂となって粉々に砕けた。

「バカな……!?」

「『武器破壊』のアビリティだ。忘れたか」

 近接攻撃系アビリティ:アトミックブレイカー。

 イージス・ユートピアにおいて数少ない武器破壊系統のアビリティで、両手剣や両手槍といった大型の武器には通用しないが、ナイフや拳武器などの小型武器には絶大な効果を発揮する特性を備えている。

 勿論、撃滅葬も例外ではない。

 脅威であった撃滅葬を右手だけといえど破壊したブレイクだったが、突如として全身に激痛が走り、その場に蹲ってしまった。

「がっ……!ぐっ……!!」

 痛い。

 本来放つべきではないアビリティを無理矢理使ってしまったせいで体中が悲鳴を上げている。

 足に力を入れ、立ち上がることすら難しいだろう。

 やはり1人でナギヤを助けるなど不可能だった。せめて、体が万全であれば───。

「舐めたマネをしてくれましたね!」

 フロストは座り込んでいるブレイクの首を掴み、自身の眼前まで持ち上げた。

 まだ生きている左手の撃滅葬に赤黒いオーラを纏わせ、指先を固め手刀の形をとって腕を引く。

 辛うじて持っていた銀嶺も手から抜け、無情にも地に落ちた。

〝ブレイクさんが死んでしまう〟

 傍観していたナギヤの思考には自分の身の安全より、現在に至るまでどんな状況だろうと助けてくれたブレイクの安否の方が先にきていた。

 今、なにかしらの行動を起こさなければ最悪の結末に至る。

 ではなにができるか?どう考えても、答えはひとつしかない。

 自分が───この執事を倒すということ。

「貴方の父親には大きな借りがありますからね。彼に代わり、貴方にその借りを返させてもらいますよ……!」

 選択肢はない、常識を打ち破れ。

 剣を執るのだ───。

 そうしなければ、何度も助けて貰った恩に報いることができない。

 胸を張ってあの人の隣に立つことができない。

「死になさい、黒宮 裁破」

 手刀がブレイクに届く前───彼の命が尽きる前にナギヤは落ちていた銀嶺を拾い上げ、頭の中で反芻し続けている理性による警鐘を無視しながら走った。

「ああぁぁぁぁ!!!」

 力の限り叫んだ。

 身に纏う警鐘を振り払うためか、または神城家と完全に離反するという覚悟の表れか。

 棟と柄だけの銀嶺を両手で持ち、目標物であるフロストの胴体目掛けて鋼の刃を突き刺した。

 反応が遅れたおかげで運良くカウンターをくらわずに済み、フロストは目を丸くさせながら流れている自らの血を見た。

「これはこれは……。貴女もそちら側の道に進むのですね。まるで数十年前に亡くなった貴女の母親にそっくりだ。彼女もクロミヤ・ローストという愚か者に付き、無駄な逃避行の末に死んだ。せめてそうならないよう、心の底から願っておりますよ。お嬢様」

 微笑みながらフロストは語り、腹部を抉っている銀嶺を引き抜くと身体を霧状に変化させて消え去った。

 もしもこのままナギヤがブレイクの『Moa-002』を引き継ぎ、新たなプレイヤーとして立ちはだかれば勝ち目がないと判断してのことだろう。

 逃がしてしまったことは損害ではあるが、ブレイクを救出できただけでも幸運といえる。死に目に立ち会えなかった父親のことが脳裏に浮かぶも、すぐさまブレイクへ思考をシフトチェンジさせて彼の元に駆け寄った。

「大丈夫ですか……!?」

 目立った外傷は見当たらない。

 そのため何処をどう処置していいかわからず、息を荒らげて虚ろな瞳を浮かべているブレイクをただ見ていることしかできなかった。

 何もできない。今まで散々助けて貰ったのに、自分は何もしてあげられない。

 無力な自分への憤りのせいで自然と涙が出るが、直後に弱々しいブレイクの左手が頭を上に優しく置かれた。

「あまり、自分を責めるな。お前のせいじゃないさ」

 なんて情けないんだろう。

 彼は今にも事切れそうな状態だというのに自身のことなど意に介さず、自分の心配をしてくれている。

 だが今ので限界を迎えたのか、頭上にそっと置かれていた手が緩やかに落ちていき、瞼がゆっくりと閉じていく。

 ついに手が地についたと思った矢先───何者かが彼の手を掴んだ。

「まったく、親子揃って無茶しちゃってさ。私が来なかったらどうするつもりだったのよ?」

 声の主は女性だった。

 黒髪ロングヘアーで物腰柔らかそうな顔立ちは『年上のお姉さん』と形容するに相応しい。

 黒のライダージャケットとショートパンツを着こなし、ブレイクの容態を見て後ろに控えていた数名の黒服に声をかけると、黒服達は担架を広げてブレイクを運んで行った。

 しかしなんだ?どこか既視感があるような───。

「あなたがローストの話してた神城凪佳(かみしろなぎか)ちゃんね。ホントお母さんにそっくり」

「あのっ……!失礼ですけど貴女は?それとブレイクさんは助かるんですか!?」

 前のめりになって質問してくるナギヤに対して女性は後退りして答えた。

「少しは落ち着きなさいな。私は旭山零加(あさひやまれいか)。名前くらいは知ってるでしょ?」

 旭山───。

 神城、嵐豪(らんごう)と同じくアイギス社のスポンサーをしている財閥の名前だ。

 聞いた話ではアイギス社が創立して間もない頃に友好を結び、以降破綻することなく今でも関係が続いている数少ない古参らしい。

 しかし現在はあまり表舞台に立たなくなり、ナギヤ自身も当主とはお目にかかれたことはないため、まさかこのような場面で出くわすとは思ってもみなかった。

「あとブレイク───裁破君のことなら安心して。意識が戻らないってことにはならないから」

「そう……ですか」

「それとね。あなたのお父さんだけど、まだ死んじゃいないわ。フロスト・フォレストがなんて言ったかは知らないけど、峠さえ越えれば回復する見込みはある」

 驚いたが、素直には喜べなかった。

 全ては騙されていたことだとはいえ、現在に至るまで自由を奪われて単なる『道具』として使われてきた経緯を思えば複雑な心境ではある。

 だが教えられてきた『剣術』や『座学』がなければネガでノイズと渡り合えなかったことは事実だし、何より関係を再構築できるいい機会だ。

「ここへは嵐豪 裕次っていう裁破君の友人に頼まれて来たの。突然で驚いたけど、ローストから情報を受けてネガのことは知ってたし、裁破君とあなたがイージス・ユートピアで何度もネガ内で交戦を繰り広げていたことも聞いてたから準備自体はできてたんだけどね」

「聞いてたって、誰から……?」

「あなたも知ってる人よ。『レイド・ストリーム』のリーダー『ウォーレン』。あの子、私の姪だから」

 なるほど。ひとつ謎が解けた。

 デジャブがあると思ったらそういうことだったのか。

 ならばウォーレンのリアルは旭山家の関係者で、それも親族に類する人物ということになる。

 そうなるとなんだか重要な秘密を知ってしまった気もするが、今は心に留めておき、本題に戻らなければ。

「どうしてウォーレンさんがあなたに?」

「私、20年以上前にローストと一緒にシュヴァルツ───つまりフロスト達と戦ったことがあるの。その中であなたの母親に相当する人物と出会い、ローストは彼女と駆け落ちしてね。逃亡生活の末にローストはシュヴァルツの首領と相打ちに近い形で勝利したけど、彼女はその戦いに巻き込まれて死んだ」

 零加は複雑な顔持ちで語った。

 フロストが去り際に言っていたのはこれだろう。

 恐らく自分の母親も『造られて、生み出された人間であり』自身もそうだ。

 そして同じように運命を呪い、大切な人を見つけて、未来を掴みとるために逃げた。

 しかし願いは叶わず、夢半ばで命を散らし、潰えた。

「だからその時の罪滅ぼしをしたくて助けちゃってるってわけ。自分勝手な理由でしょう?」

「いえ、あなたが来なかったらブレイクさんは助からなかった。どんな理由があれ、ボクは感謝しています。本当にありがとうございました」

 深々と頭を下げるナギヤに、零加は安心したように口角を上げて笑った。

「そう言ってくれるだけで長年、日陰の道を歩いてきた甲斐があったわ」

 零加が感傷に浸っていると、ジャケットにしまっていた携帯端末のバイブレーションが鳴り、取り出して画面を見る。

「ごめん、もう時間がないわ。あなたは旭山家の屋敷でしばらくいてもらう予定よ。裁破君がこの状態じゃ明後日の『作戦』は無理そうだし、計画を練り直す必要が……」

「作戦……?なんですか、それ?」

 零加は目を丸くして驚いた。まさか知らなかったなんて、と言わんばかりに。

「2日後の12月31日に想定していたネガへの突入作戦のことよ。……ホントに知らないの?」

 ナギヤは静かに頷いた。

 ブレイクやウォーレンから聞かされておらず、何よりそんな大掛かりな作戦を実行するなんて予想だにしていなかった。

 何故?と思っていたが、理由はすぐにわかった。

 ブレイクは魔装術を暴走させた自分の身を案じ、敢えて告げなかったに違いない、と───。

「知らなかったのならそれはそれで問題ないわ。裁破君がいない以上、この作戦は中止せざるを得な───」

「ボクがやります」

 またしても零加が驚き。静寂の時間が訪れる。

 慌てるように目を泳がせていた零加だが、一瞬のうちに冷静さを取り戻して口を開いた。

「わかってるの?シュヴァルツはあなたを狙っている。ネガへ飛び込むというのはつまり、自分から喰われにいくようなものなのよ。それでもいいの?」

「ボクは元々、ブレイクさんと一緒にネガで戦う予定でした。覚悟ならできています。それにボクはもう絶対、ヘマなんてしません」

 ナギヤは迷いや嘘など微塵も感じさせないくらい真剣な顔持ちで零加に言った。

 対する零加は反論しようにも、20年以上前に同じようなやり取りをニーナ・セイントルウブとやった記憶をふと思い出してしまい、苦笑しながら黙殺する。

「私弱いのよね、その眼。───まあとりあえずわかったわ。そこまで言うのなら任せるしかない。ウォーレンには私から話しとくわ。でもその代わり、イージス・ユートピア内にある『この場所』まで出向いてくれない?」

 零加は携帯端末を取り出し、画面を見せた。

「作戦まで15時間以上あるから余裕で着くと思う」

「ここは……?」

 初めて見る写真だ。

 しかし灰色のレンガで構成されている二階建ての家屋がポツンと存在しており、周りは木や茂みといった自然に囲まれている至って普通の画像だった。

「イージス・ユートピア内にあるプレイヤーホームよ。このホームは4年前まで裁破君が使用していたの。上手くいけば、彼の過去を知ることができるかもしれない」

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

各所で度々語られているローストの過去編は、現在のストーリーが終わってから書こうと思っております。



第1話

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/1/


第2話

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/2/


第3話

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/3/


第4話

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/4/


第5話

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/5/


第6話

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/6/


第7話

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/7/


第8話

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/8/


第9話

https://ncode.syosetu.com/n1784hk/9/

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