寂しいなら【10】
「それは、そうですが……。でも、明日のことを考えると、緊張して眠れなくて……」
カップを窓辺に置いたマリスは、「なんだそんなこと」と呟くと、クスリと笑ったのだった。
「そんなに緊張しなくてもいいのに……。まあ、誰だって最初はこんなものか。
沙彩はベッドに横になって、俺が寝かしつけるよ」
「寝かしつけるって……マリスさんが?」
沙彩の言葉に、マリスは頷く。
「うん。でも何もしないから安心して。サーヤが寝たら、俺もすぐに自分の部屋に戻るから」
昨晩あった出来事を考えると、なかなかマリスの事を信用出来ず、沙彩は訝しむように見つめる。
沙彩の視線とそれを意図するところに気づいたのか、マリスが「本当だって」と苦笑したのだった。
「こう見えて、女の子を寝かしつけるのは慣れているんだ。妹がいるからね」
「そういえば、今朝も言ってましたね。妹がいるって」
「うん。妹がいるんだ。それも四人も」
「妹だけで!?」
今朝、洋服を試着した際に、妹がいるという話は聞いていたが、まさか四人もいるとは思わなかった。
素っ頓狂な声を上げた沙彩がおかしかったのか、マリスは小さく噴き出した。
「そんなにおかしい?」
「ええ、まあ、あまり聞かないので……」
男性の知り合いが少ないというのもあるが、妹だけで四人いる兄というのも珍しい気がした。
「そうは言っても、実の妹は一人だけで、下の三人は異母姉妹なんだ。父と父の再婚相手の間に生まれた子供たちでね」
「そうだったんですね……」
「うちは何故か昔から女の子ばかり産まれる家系らしくてね。俺の父上も、自分以外はみんな姉か妹しかいなかったらしいよ」
どことなく、マリスは面倒見が良い気がしていたが、それも妹がいるからだろう。良い兄という証拠でもある。
「沙彩は? 兄弟はいないの?」
「一応、弟が一人。既に成人して、会社の寮で一人暮らしをしていますが」
今年の春先、大学を卒業した沙彩の弟は、都市部にあるそこそこ有名な会社に就職して、その会社が所有する寮で一人暮らしを始めた。
実家を出てから全く連絡が来ないが、便りがないのは元気な証拠だろうと、沙彩を始めとして両親もそう思っている。
「沙彩の弟に会ってみたかったな。素敵な姉がいるんだ。きっと凛々しくて、しっかり者で、沙彩に似た優しい子なんだろうな」
「そんな大した弟じゃないですよ! いつも寝てるか、ゲームしている姿しか見たことないですし……」
「そういうことが出来るのも、沙彩や沙彩のご両親が優しいからだろう。……羨ましいな」
最後の「羨ましい」にどこか切なさが含まれているような気がしたが、気のせいだろうか。
気になりつつも、沙彩がベッドに入ってしまうと、その傍らにマリスが横になる。
端正な顔がすぐ目と鼻の先にあり、自然と胸の鼓動が早くなる。




