寂しいなら【7】
「はあ……」
また大きな溜め息をつくと、脱力してベッドに寝転がる。
壁に向かって軽く放り投げたスマートフォンがベッドの上を滑っていった。
「明日の朝一で聞くしかないか……」
そう呟いた時、部屋の扉が遠慮がちに叩かれた。
「沙彩、まだ起きてる?」
「マリスさん……?」
ベッドから起き上がると、スマートフォンを拾って、扉に駆け寄る。
扉を開けた先には、湯気が立つ二人分のカップをトレーに乗せたマリスが、申し訳なさそうに立っていたのだった。
「ごめんね、こんな時間に。喉が渇いたから飲み物を頼んだら二人分届いたんだ。よければ飲まない?」
「ありがとうございます。せっかくなのでいただきます。丁度、マリスさんに聞きたいことがあったんです。聞いてもいいですか?」
「勿論。中に入ってもいい?」
マリスを部屋に通すと、二人並んでベッドに腰掛ける。
マグカップを受け取ると中に入っていた茶色のお茶から、ほのかに香ばしい匂いが漂った。
「このお茶の匂い、なんだか焙じ茶に似ていますね」
「この国で広く飲まれているお茶なんだ。もしかしたら、過去にサーヤたちの世界を行き来した人が持ち込んで広めたのかも」
まだこの世界に来て二日しか経っていないのに、元いた世界を思い出して懐古に似た気持ちになる。感傷的な気持ちになりそうになったので、沙彩は何度も首を振ると、マリスの方を振り向いたのだった。
「あの、マリスさん。明日、お城に行くと思うんですが……」
「うん?」
「私、何も用意していなくて……あの、洋服とか、礼儀作法とか……。お城の人たちだけじゃなくて、マリスさんにも失礼になると思うので、今のうちに知っておきたくて……。明日はどうしたらいいですか?」
夕方、マリスに「変態!」って言っておきながら、教えてもらおうなんて自分でも図々しいとは思う。
それでも、マリス以外に知っていそうな人が身近にいない以上、恥も覚悟で聞かねばならなかった。
耳まで真っ赤になりながら、沙彩は恥ずかしい気持ちを我慢して聞いたが、何故かマリスはきょとんとした顔をしたのだった。
「どうしたらって……。サーヤはそのままで充分だよ。することと言えば……まあ、軽く王族に挨拶するくらいだろうし」
「そ、それでも、何かあったら失礼じゃないですか! マリスさんにもご迷惑になりますし……」
「俺? 気にしないから大丈夫だよ。サーヤは何をやっても可愛いし」
「またそうやって……」
「でもね」
エメラルド色の瞳が穏やかに細められ、沙彩の胸が高鳴る。
「どんな人だって、ありのままのサーヤが見たいし、知りたいと思うんだ」
「ありのままの私……」
「失敗したっていい、間違えたっていい。君がどんな人で、何を思っているのか、俺たちをどう思って、この国にどんな印象を持っているのかを知りたい」
「私なんて、大したことありませんよ……」
マリスから目を逸らして俯きそうになると、クイッと顎を持ち上げられる。
瞬きを繰り返すと、キラキラとエメラルド色に輝く両目が目の前にあった。
「大したことあるかどうかは関係ないよ。俺が知りたいと思ってる。誰よりも君のことを……」




