寂しいなら【5】
「今の内に軽く入っちゃおうかな」
ほぼ一日、マリスが操るジョゼフィーヌに乗っていただけとはいえ、慣れない馬上に緊張して身体の筋が強張り、肩が凝っていた。
ジョセフィーヌが走る度に砂埃が舞い上っていたので、顔や髪にも砂が付いているだろう。
そんな汚れた身体で夕食の席に着くのは、さすがに失礼な気がした。
沙彩は浴室に入ると、湯張りをしたのだった。
軽く汚れを落として、濡れた髪を拭いていると、扉が控えめにノックされた。
「サーヤ。夕食の用意が出来たって。すぐに食べる?」
「あ、はい! 食べます」
軽く汗を流したのか、銀色の髪には僅かに雫が残っていた。
沙彩の視線に気づいたのか、「さっき、軽く汗を流してね」とマリスは苦笑したのだった。
「そういうサーヤも身体を流したんだね。なんだか、花の様な甘い香りが室内に漂ってる気がして」
「そんなに漂っていますか? 備え付けの石鹸で軽く洗っただけなんですが……」
腕に顔を近づけて自分の匂いを嗅いでいると、そっと近づいて来たマリスが黒髪を一房手に取る。
自身の鼻に近づけると、沙彩と同じように匂いを嗅いできたのだった。
「うん。この匂いだ」
「ちょっと……! 匂いを嗅がないで下さい!」
「どうして? こんなに良い香りなのに……」
頭に何か柔らかいものが触れたかと思うと、マリスが鼻を近づけてくる。
直接匂いを嗅ごうとするマリスに、沙彩は顔を紅潮させると、両手で軽く突き飛ばしたのだった。
(いま、鼻に近づけた時に軽く口づけを落とさなかった!?)
見間違いでなければ、さっき沙彩の髪を一房手に取った時も軽く口づけていたように思う。
「どうしたの? 急に突き飛ばしたりして……」
「もう……! 変態って言いますよ!」
「変態って……。さすがにそれは傷つくな……」
苦笑するマリスを置いて部屋から出ると、ずっと夕食の返事を待っていたらしい、宿の若い男性の姿に気がつく。
「あ、あの……」
沙彩と目が合った途端に、無言で目を逸らしたところからすると、今までの恥ずかしい会話を聞かれていたのかもしれない。
(べ、別に、そんな関係じゃないんです〜。あっちから勝手にやってきて〜)
そう言う訳にもいかず、だからといってどう話したらいいのかも分からず、ただ口を開閉していると、ようやくマリスがやって来た。
マリスも男性の姿に気がつくと、待たせていたのを思い出したというように、「ああ!」と声を上げる。
「すぐに用意してくれるかい?」
「す、すぐにご用意失礼致します!」
「失礼します!」と慌てた様子で男性が部屋から出て行くと、沙彩は耳まで真っ赤になったのだった。




