プレゼント【2】
「着て欲しいんですか。この服を?」
「ああ、似合わないはずがない……。昨日からずっとサーヤを見ていたんだ。サーヤにはこの服が似合うよ」
「そんなこと……」
ないのに、という言葉は、マリスが広げるドレスを見ていると言えなくなった。
爽やかなミントグリーン色の生地に、首元や裾にさりげなくレースが施されたワンピースのような形をしたドレスは、色もデザインも沙彩の好みに合っていた。
着てみたいと、沙彩自身も思ってしまったのだった。
「どう? 気に入った?」
沙彩が何も言わなかったからか、マリスがそっと覗いてくる。
間近に迫ったマリスの端正な顔立ちに、頬が赤く染まっていくのを感じながら、沙彩は何度も頷いたのだった。
「……気に入りました」
「それは良かった。せっかくだから試着しておいで」
更にマリスは手に持っていたドレスを何着か沙彩に押し付けながら、店主に断りを入れると、入り口から死角に位置する小部屋の扉を開ける。
「試着室があるんですか?」
「こういう宿の近くに建つお店にはね。女性がすぐに着替えられるように、試着室代わりの小部屋が用意されていることが多いんだ」
マリスによると、この店の様に、宿屋の側に建つ洋品店には、やはり旅の途中で替えの服を購入し、その場で着替えたいという旅人の為に、店内に試着室となる小部屋が用意されていることが多いらしい。
宿に持って帰って着替える者が大半らしいが、中には急ぎの旅の者もおり、そうした旅人たちの為に、試着した後、そのまま着て行けるように、着替えも可能な小部屋を提供しているらしい。
「あっちとは違って、カーテンや壁で個別に区切られてないし、目隠しもないけれど……」
「あっち」とは、沙彩の世界を指しているのだろう。
試着室代わりの小部屋の扉を開けた先には、マリスの言う通り、扉の前に目隠しとなるカーテンも無ければ、他の人の目から隠れられるような仕切りもなかった。
ただ木製の丸椅子が部屋の片隅に置かれただけで、大人が二人入ったら満室になってしまうような部屋であった。
「これで充分です。ありがとうございます」
「良かった。俺は扉の前で待っているから、着替えておいで。気に入った物があったら、何着でも購入するからね」
「値段も気にしなくていいからね」と、大盤振る舞いなことまで言うと、マリスは試着室から出て行ったのだった。
「何着でもいいって……」
値段も気にしなくていいと言う事は、やっぱりマリスはただの騎士じゃないのだろう。
(そもそも、宿も一番良い部屋を取ってくれたし……)
マリスは食事代も含め、沙彩の分も合わせた二人分の宿泊費を、まとめて支払ってくれた。
決して安い値段ではなかったと思うが、それを軽々と支払った以上、マリスはよほどのお金持ちなのだろう。
それとも、騎士というのは、案外公務員並みに高収入なのだろうか。
「とりあえず、着てみようかな?」
沙彩がドレスを着たのは、大学の卒業パーティーが最後だった。あの時はどうやって着たのか、すっかり忘れてしまった。
ドレスをよく見ると、首元にボタンが付いていた。ボタンを外して、腰を結ぶリボンを緩めると、スカート地が広がった。
どうやら、腰のリボンがベルト代わりになるらしい。
(これなら、一人でも着られそう)
ホッとすると、沙彩は他のドレスと脱いだカーディガンを畳んで丸椅子に置く。
下着姿になると、ドレスに袖を通したのだった。




