エグマリスの正体・上【5】
「そんなつれないことを言わないで。私の方がもっと楽しいお話しが出来るわよ……」
女性を睨みつけていると、不意にマリスが自らの左耳を指しているのに気づく。
沙彩が自らの左耳に触れると、マリスのイヤリングが指に当たったのだった。
「そうだ。せっかくなら、女性の洋服が手に入るお店を教えてくれないかな? この辺りはあまり来ないから、よく分からなくて」
「それなら、宿を出たすぐ側にあるわよ。……誰にあげるのかしら? 聞いてもいい?」
「ああ。サーヤにプレゼントしようと思ってね」
「サーヤ? ああ、あの子の……」
女性が沙彩を振り返ると、何かに気づいてギョッと顔をした。
視線の先を見ると、どうやら左耳につけているイヤリングに向けられていたのだった。
「そ、そうなの……!? この時間はまだ洋服屋は開いていないけど、店主のおばあさんは早起きだから、頼めば開けてもらえるわ! その洋服屋なら、女性用の衣服一式、手に入るから」
「ありがとう。教えてくれて」
マリスが礼を言うと、女性はそそくさと離れて行った。
そんな女性を目で追っていると、昨夜マリスを囲んでいた他の女性達と壁際でヒソヒソと話し始めたのだった。
「良かったね。お店の場所がわかって」
そんな女性たちに気づいているのかいないのか、マリスはにこやかに話しかけてくる。
「そ、そうですね……」
女性たちから視線を外して、マリスに向き直った沙彩だったが、時折、壁際から向けられる視線が気になったのだった。
(これって、婚約者の意味があるって言っていたよね……?)
マリスと雑談を交わしながら、沙彩は気になって左耳に触れる。
自分以外のイヤリングを身につける行為には、婚約者の意味があるとマリスは言っていた。
先程の女性は、マリスのイヤリングを沙彩が身につけていたから驚いたのだろうか。
それにしても、あの慌てようは婚約者という意味だけではないような気がした。
まるで、見てはならないものを、見てしまったようなーー。
「サーヤ? どうしたの?」
「え? いえ、大丈夫です……」
イヤリングをいじっていたからだろうか。マリスに不審な目で見られて、沙彩はイヤリングから手を離したのだった。
「そろそろ部屋に戻ろうか。用意もしたいことだし」
「そうですね。わかりました」
マリスに合わせて、沙彩も席を立った。
右斜め後ろを歩いていると、不意にマリスが左手を握ってくる。
「マリスさん?」
「遠慮しないで、俺の隣を歩いて」
手を繋ぐ沙彩の背中に、いくつもの視線が刺さる。先程の女性達や食堂の利用客らが見ているのだろう。
「でも、恥ずかしいですし……」
「部屋までだから……ね?」
「それくらいなら……」
部屋ならここから近いがらいいかと思いつつも、耳まで真っ赤になりながら、沙彩は部屋に戻ったのだった。




