エグマリスの正体・上【4】
「ショウは何でも教えてくれた。それまでは、湯浴みどころか、一人で着替えさえも出来なかったからね」
マリスの意外な子供時代に驚きつつも、気になることを尋ねる。
「それで、マリスさんはどうやって、この世界に戻って来られたんですか?」
「ショウの家に住まわせてもらって、二週間くらい経ってからかな。ショウと出会った森に行ったら、急に戻れたんだ」
それまでも、ショウには内緒で何度か森に行っていた。
けれども、この世界への入り口は開く事は無かった。
それなのに、何故かその日は急に入り口が開いたらしい。
「俺自身も、その日は森に入った途端、どことなくこれまでと森の空気が違っているのを感じたんだ。
この世界に戻って来れると、なんとなく直感したんだ」
「そうだったんですね」
「ショウに別れを告げて、俺はこの世界に戻って来た。戻って来てから調べると、自分と同じように、異なる世界からこの世界に迷い込んで来る者が多く存在していることを知った。その逆もね。
そんな彼らが、異なる世界で苦労しないように、手厚く保護したいと思ったんだ」
それまで、異なる世界から来た者たちは、自ら国に保護や協力を求めてこない限り、そのまま放任されていた。
残っていた記録によると、異なる世界から来た者たちは、苦労の末に自らの「使命」を果たして元の世界に帰った者もいれば、自らこの世界に残って永住した者もいた。
中には、「使命」を果たせずに、この世界で生涯を過ごさざるを得なかった者、「使命」の途中に死んだ者もいたようだった。
そんな者たちが、「使命」を果たせるように支援をする体制が必要だとマリスは考えた。
また、この国に住む者たちが、不用意に異なる世界との境界に近づかないように、国に所属している騎士団を使い、境界の監視も強化したのだった。
「まだまだ体制は充分とは言えない。でも、この世界に住む者たちが境界に迷い込む回数も減ったし、この世界に迷い込んで来る者達も自分の『使命』に集中出来るようになった。……来るのは皆んな男だったけどね」
もしかして、体制を整えながら、マリスはずっと待っていたのだろうか。
「異なる世界からやって来る」という、「花嫁」を。
「マリスさん、あの……」
「あら? 昨夜のお兄さんじゃない!」
沙彩が口を開いた時、昨夜の女性の一人が近づいて来た。
「昨夜は随分とつれない態度だったわね。でも、また会えて嬉しいわ。朝は皆んな忙しいから、こんな時じゃないと、二人きりで話せないもの」
その言葉に、沙彩はムッと不機嫌になる。
女性の中では、沙彩は「いない者」になっているらしい。
しなだれかかるようにテーブルに寄りかかる女性は、艶っぽくマリスの顎に触れる。
「良ければ、これから私とお話ししない? この宿で一番上等な部屋に泊まっていった人はたくさんいたけれども、お兄さんの様ないい男は、なかなか見つからないもの。それも、こんなに噂以上に良い男なんて」
「悪いけど、俺たちはすぐに旅立たないといけないんだ。サーヤを連れてね」
マリスの言葉に、ようやく女性は沙彩の存在に気づいたようだった。
チラリと視線を向けてくると、すぐにマリスに向き直る。




