エグマリスの正体・上【2】
マリスはなんとも無いように言うが、沙彩にとっては一大事であった。
「このイヤリングと婚約者は、何か関係しているんですか?」
「イヤリングが、婚約をしている証になるんだ。同じイヤリングをつけている者同士が、ね」
昔からアマルフィアの貴族や王族の間では、結婚適齢期になると、家紋が彫刻されたイヤリングをつけることになる。
これを持って、その者は成人として、今後は大人社会に引いては社交界に仲間入りする。
まだ戦争があった時代には、このイヤリングが戦死した者の身元や家柄を特定するのに使われたーー時には、家族や最愛の人に、自分の形見として渡していたらしい。
その際、イヤリングを貰った家族や最愛の人は、自らのイヤリングを引き換えに渡していた。
同じ家紋を持つ家族でも、イヤリングの裏側には自分の名前を刻印している。ーーこれもまた、戦死した際には身元の特定に利用されたのだった。
イヤリングを宝物として、戦場に身につけて行く者も少なくはなかった。
形見として扱っていた頃の名残りなのか、今でも、イヤリングをもらった者は、相手とイヤリングを交換し合う。
特に貴族社会では、そのイヤリングを身につける事で、既に婚約者がいるというのを密かに周囲に知らせる意味もあるのだった。
「同じイヤリングと言っても、私はイヤリングを持っていませんが」
イヤリングどころかピアスさえ、沙彩は身につけていなかった。
元の世界でも、イヤリングはすぐに無くしそうで普段から身につけていなかった。ピアスも穴を開ける機会がなく、身につけたことさえなかった。
「それなら心配いらないよ。王城に戻ったら、サーヤに相応しいイヤリングを作るように手配するからね」
「はあ……」
どう返事をしたらいいか迷っていると、マリスは「そろそろ行こうか」と立ち上がる。
「そろそろ食堂が開く時間だ。明日の朝には王城に入りたいから、今日の内に進んでおかないと」
「ここから王城は遠いんですか?」
マリスは考える素振りを見せる。
「そうだね……。俺たち騎士団が馬で一昼夜駆ければ着くくらいだから、そんなに遠くはないかな」
「そうなんですか」
「まあ、電車やバスがあれば、一日で着く距離だけどね」
マリスが呟いた言葉に「えっ?」と返すが、気づいていないようだった。
「さあ、行こうか。サーヤ」
「あの!」
部屋を出ようとするマリスの左腕を掴むと、驚いたように振り返る。
「マリスさんは知っているんですか? 私の世界のことを」
昨日も「スイッチ」と言っていた。今も「バス」や「電車」と言っていた。
今のところ、沙彩はこの世界でそれらを見ていない。
それなのに、マリスは何故知っているのだろうか。
ストックが底をつきかけているので、7月からは不定期更新になりますm(__)m




