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俺の姫【2】

「マリスさん、どうして……? だって、さっきまで食堂にいて……」


 沙彩は顔を戻すと、胸元を抑えて振り返る。


「先程の女性たちをあしらって戻って来たんだ。外に出ていたら、どうしようかと思っていたけれども……。良かった。ここに居てくれて」


 安心したように顔を綻ばせたマリスだったが、何かに気がついたように目を見開くと、沙彩の左頬に手を添える。


「マリスさん……?」

「泣いていたの?」

「え……。ええ」


 何を言いたいのか沙彩が戸惑っていると、マリスは顔を近づけてきた。

 固まっている沙彩の頬を両手で包むと、指先でそっと目元を拭ってくれたのだった。


「ま、マリスさん!?」


 沙彩が飛び跳ねるように、浴槽の中で立ち上がると、クスクスとマリスは笑う。


「そうやって、驚いているサーヤも可愛いよ」

「そうじゃなくて……! 何をするんですか!? 突然!!」


 タオルが近くにないのがもどかしい。

 胸元を隠していると、マリスは笑ったまま続ける。


「サーヤを守るって言いながら、サーヤを泣かせてしまったから、これくらいはしないとね。それに、せっかく洗うのを手伝いに来たのに、もう洗い終わっているみたいだし」


「濡れてもいいように。服も脱いで身軽で来たのに」と、マリスは残念そうに肩を落とす。

 沙彩は徐々に自分の顔が赤くなっていくのを感じたのだった。


「とにかく、私は一人でも大丈夫ですから……! マリスさんは濡れる前に、出てくださ……」

「本当に?」


 バチャバチャと湯をかき分けて浴槽に入ると、マリスは近づいて来る。

 手で顔を隠しながら後ろに下がっていると、トンと冷たい壁に背中をぶつける。


「マリスさん……」

「さっきだって、あの場で君は怒ることだって、泣くことだって出来た筈だ。でも、どれもしなかった……。それは、どうしてだい?」

「それは……」


 マリスが言っているのが、食堂でのことだとわかった。

 真っ直ぐに見つめてくるエメラルド色の視線を受けながら、沙彩は考えつつ口を開く。


「マリスさんに迷惑がかかるからで……」

「俺の心配なんてしなくていいのに。それよりも、サーヤの方が心配だよ」


 腕を掴まれて、あっと声を上げそうになる。けれども、それをさせない迫力がマリスにあった。


「そうやって、辛いのも、苦しいのも、泣くことさえも我慢して。そんなに俺が頼りない? それとも、君の世界ではそれが当たり前?」

「そんなことは無いです。マリスさんを頼りないと思った事も……」

「じゃあ、どうして、俺を頼ってくれないの?」

「頼ってないってことは……。いたっ!」

「サーヤ!?」


 マリスが腕の力を緩めると、痛みを感じた左腕を見つめる。

 先程、この世界に来た時にぶつけたところが、赤黒い痣になっていたのだった。


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