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悔しい【2】

 宿の一階にある食堂は、下町の食堂という雰囲気であった。

 宿を利用する客以外も利用出来るという事もあって、荒くれ者らしき集まりから、地元の人と思しき数人組もいたのだった。

 そんな彼らから見たら沙彩達は浮いているようで、興味深そうにチラチラ見られたのだった。


「サーヤ、なんでも好きなものを頼んでいいからね」


 けれども、マリスはそんな視線を気にしていないようで、テーブルに案内されるなり、食堂のメニューを渡してきたのだった。


「ありがとうございます……」


 沙彩は受け取ると、メニューを開いた。

 文字だけがずらりと並んだメニューは、日本語でもなければ、アルファベットとも違う、これまで見たことがない文字で書かれていた。

 本来なら読めないはずのこの世界の文字。

 けれども、それらの文字は日本語となって、沙彩の頭の中に浮かんできたのだった。


「どう? 決まった?」


 楽しそうに沙彩を眺めてくるマリスに、メニューを閉じるとそっと返す。


「文字だけなので、どんな料理かわからないものが多くて……。マリスさんと同じものでお願いします」


 沙彩が料理に関して無知なのか、それともこの世界では名前が違うのか。文字は読めても知らない料理名ばかりで、どれもピンとこなかった。

 それなら、この世界の人間であるマリスに頼んでもらった方がいいだろう。


「そう? それなら、同じものを頼むね」


 マリスは、先程から客の間を行き来している食堂の女性を捕まえると、よくわからなかった料理の一つを注文をする。

 呼ばれた女性は、注文を取りながら艶やかなな視線をマリスに向けていたが、やがて注文を書いた紙を持って厨房に去って行った。

 向かう途中、沙彩を睨みつけて。

 自分が何かしただろうかと考えたが、答えはすぐ傍らにあった。


「どうしたの? サーヤ」


 沙彩の傍らのマリスは首を傾げていた。

 首を傾けた時に、サラリと艶やかな銀の髪が揺れる。

 そんなマリスは、食堂にいるほぼほぼ全ての女性の視線を釘付けにしていたのだった。


「いいえ。なんでもないです」


 マリスが話しかけてくる度に、女性達の視線が沙彩に刺さってくる。

 まるで、マリスに相応しいのか品定めをするような視線に、だんだんと沙彩は縮こまっていた。


(マリスさんには、私は不釣り合いだよね)


 何故、女性達が品定めをしてくるのかわかっている。

 飛び抜けた美貌の持ち主であるマリスとの関係を予想されて、マリスに相応しい女なのか注目されているのだ。

 マリスに相応しくなかったら、女性達がこぞって沙彩を引き離し、関係を持とうとするだろう。

 マリスがその女性達を選んだ時、沙彩は捨てられるのだろうか。

 見知らぬこの世界に。ただ一人。


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