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悔しい【1】

 ジョセフィーヌを厩舎に預けて宿に入ると、マリスはツインベッドがある一番高価な二人部屋を借りた。


 マリスによると、値段が高い部屋にはツインベッドだけではなく、専用の風呂や洗面所があるらしい。

 それ以外の部屋は、共用の風呂や洗面所になるそうだ。

 そんな場所では同じ宿泊者同士のトラブルや盗難が後を絶たず、宿側も仲介や盗難の補償をしてくれないので宿泊者側が損して終わるらしい。

 そんなトラブルに巻き込まれる事を危惧して、マリスは高価な部屋を借りてくれたらしい。

 この辺りの話を聞くと、いかに日本の治安がいいのか、身に染みて感じたのだった。


 宿の部屋に入ると、共用のリビングルームを挟んで、ベッドや洗面所だけが付いているふた部屋と、マリスが言っていた浴室のひと部屋ついていたのだった。

 まだ夕食まで時間があったので、沙彩は浴室に入ると、風呂の用意をし始めたのだった。


「サーヤ、もう風呂に入るの?」


 ジョセフィーヌの様子を見に行っていたマリスは、不思議そうな顔をしながら浴室にやってきた。


「夕食を済ませたら、すぐに入れるようにしておきたくて」


 白いバスタブはさほど深くないが、大きさは学校のプールぐらいあった。

 一度に何人が入るつもりでこんな大きな浴槽を作ったのか、設置者の意図が気になってしまう。


 マリスの服装や街並みから、勝手に西洋を舞台にした作品に出てくる様な一人用の猫足バスタブを想像していた。

 それなのに浴室の扉を開けて現れたのが、旅館の大浴場にある様な大人数が一度に入れるバスタブだったので、拍子抜けしたといってもいい。

 ただ、浴槽の側には豪華な飾りがついた数本のシャワーらしきものがついていた。

 そこだけは西洋ぽさがあると、沙彩は苦笑したのだった。


「それなら、宿の人に頼んでも良かったのに。使い方はわかった?」

「はい。元の世界のお風呂と似ていたので」


 どうやら、この世界の湯張りも浴槽に備え付けの蛇口から湯が出るようだった。

 どういう仕組みになっているかはわからないが、熱い湯が出る蛇口の隣には、よく似た造りで水が出る蛇口もあった。


「へぇ〜。ここにも普及してきたんだね……」


 小声で話すマリスに首を傾げると、「なんでもないよ」と首を振られたのだった。


「この蛇口はね。外にある貯水槽から汲み上げているんだ。普通は別に沸かした湯を何往復もして浴槽に持ってくるんだ。それを溜めて風呂にするんだけど」


 ただし沙彩の世界とは違い、外の貯水槽の湯は一定時間ごとに交換しないと冷めてしまうらしい。

 冬場は湯を使うタイミングによっては、ただの水になっている事も珍しくないそうだ。


「一定の温度を保てるようになれば、いつでも入れるんだけどね。

 まだ、そこまで技術は追いついていなくて」

「そうなんですね……。いちいち、お湯を沸かすのも大変ですよね」

「うん。ここではスイッチ一つで沸かせないからね」


 マリスの言葉に納得しながら、はたと気づく。


(ん……。スイッチ?)


 この世界に「スイッチ」なんて、存在するのだろうか。

 肩を竦めるマリスは、訝しんでいる沙彩の様子に気づいていないようだった。

 どういう事か聞こうと口を開いた時、先にマリスが話し出す。


「サーヤ、キリの良いところで夕食にしようか? 俺もうお腹空いちゃって」


 ハハハと、恥ずかしそうに話すマリスに言われて気づいたが、沙彩はこの世界に来てから食事どころか、水さえも飲んでいなかった。気にする余裕がなかったというのもあるが……。

 マリスは恥ずかしそうに言っているが、もしかしたら自ら言い出せない沙彩を気遣って、代わりに言ってくれたのかもしれない。


「そうですね。私もお腹が空きました」

「良かった。食堂は一階にあるって。一緒に行こうか」


 沙彩は浴槽の半分くらいまで湯を貯めると、マリスに連れられて部屋を出たのだった。


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