変わらない甘えん坊
「ソフィ!いるの!?」
殿下の言葉を遮って勢いよく扉を開けたのは小柄な少年だった。
その風貌は一言でいえば可愛らしい。
(あれ?なんだか見覚えがある気がする...)
「ほんとにいる!本物だー!」
そう言ってその少年は私に勢いよく抱きついてきた。
「きゃっ」
「ソフィずっと会いたかったよ。全然王城に来てくれなくなったから寂しかった」
上目遣いで話すその少年をやっぱり知っている気がする。
それにこの感覚もどこか懐かしい。
自分の記憶を辿ると1つの答えが導かれた。
「えっと、もしかしてユーリ...?」
私の記憶の中でこんな風に抱きついてくる人物はユーリしかいなかった。
ユーリはこの国の第2王子、つまりレイモンド殿下の弟だ。
小さい頃はユーリも混ざってよく遊んでいた。
「うん!ソフィ!」
「まぁ!大きくなったわね」
あんなに小さかったユーリがこんなに大きくなってるなんて...!
すごく成長を感じる。
そして昔みたいに撫でてと言わんばかりの頭をついつい撫でてしまう。
「おい、ソフィから離れろ。というかソフィこいつも男だけど大丈夫なのか?」
とレイモンド殿下がユーリを無理やり引き剥がす。
(あ、そういえば伝えていなかったわね...)
「実は自分より小さかったり、子供とかは大丈夫なんです」
あのトラウマになった時の男の人が自分よりすごく背が高かった。
そして身体の大きい分、力があることを知った。
それから男の人に見下ろされたりするのが苦手になり、今では知らない男の人が近くにいるだけで恐怖を覚えるようになった。
「えーじゃあ僕はソフィのこと抱きつき放題ってこと?わーい」
そう言ってまた抱きついてきた。
ユーリはそんなに小さいとは言えないけど、なんだか昔と全然変わっていなくて恐怖を感じない。
むしろ犬みたいに懐いてくれて可愛い。
「それにしてもよく私のことを覚えていたわね。あの時ユーリまだ小さかったのに」
10年前というとユーリは4歳のはずだ。
小さい頃の記憶はだんだんなくなっていくし、忘れていてもおかしくはない。
「そりゃ覚えてるよ。僕ソフィのこと本当のお姉ちゃんみたいに思ってて大好きだったもん。会えなくなってからも会いたいって思い続けてたし」
「そうだったのね」
ふふ、そんな風に思っていてくれたなんて嬉しい。
私も下の兄弟がいないからユーリのことは本当の弟みたいに思っていた。
いつも私と殿下がお庭で遊んでいると「僕も混ぜて〜」ってとことこやってくるのが本当にかわいかったのを思い出す。
身長ももう少しで追いつかれそうなぐらい大きくなっているし、顔つきも大人っぽくなっている。
でもなんだか全然ユーリは変わっていないように感じるのは不思議だ。
そして甘えん坊のところも健在のようだ。
「なんで...」
殿下が何か小さく呟いている。
その顔は少し険しい。
そういえば殿下のこと置いてけぼりにしてしまっていたわ...。
「あの...殿下?」
「なんで、ユーリのことは呼び捨てで呼んでるんだ...」
殿下は少し怒っている声でそう言ったのだった。