お兄様
目が覚めるとそこは知らない部屋だった。
私昨日はパーティに出席して、それで迷子になって...
そして昨日の殿下とのやりとりを思い出す。
あぁ、私殿下の前で倒れてしまったんだったわ。やってしまった...殿下の前で倒れるなんて不敬にもほどがある。私は後悔の念が押し寄せる。
それにしても昨日の出来事はほんとに現実かしら...なんだか夢だったんじゃないかという気がしてきたわ。倒れて記憶が混乱してるのかも!なんて少し現実逃避をしてみる。
すると「コンコン」とノックの音が部屋に響いた。
「はい...」
「お、起きてたか。体調は大丈夫か?」
「わぁお兄様!」
そこに現れたのは兄であるリンネお兄様だった。
お兄様は部屋に入ると私の横へ来て顔色を見る。
「うん、大丈夫そうだな!」
そう言ってお兄様は頭をポンポンと撫でてくれた。
「はい!というかここはどこなんですか?」
ここはいつもの自分の部屋ではないし、自分の家でもない。
すごく豪華な部屋でふかふかのベッドだった。まるで昔泊まったことがある王城のベッドのような...ってまさか
「ここは王城の空き部屋だよ。昨日殿下の前で倒れたの覚えてないのか?」
「王城!?」
お兄様の言葉に思わず飛び上がる。
ということはやっぱり夢じゃなかったんだ...。
殿下のあの言葉を思い出てまた胸がドキドキしてきた。
「どうせ夢だとか思っていたんだろ。いや〜それにしても面白かったぞ昨日の殿下、お前が倒れたってすごい慌てっぷりだったんだから」
と言って笑っている。
お兄様とレイモンド殿下は幼馴染だ。騎士学校時代も同級生でずっと一緒だったみたいであまり気を使う関係ではないみたいだ。
今ではお兄様は殿下の側近をしているし。
「ご心配をおかけしたみたいですね...。というかお兄様!殿下が婚約者ってどういうことですか!?」
殿下の側近であるお兄様だったら絶対に知っていたであろう事実を問い詰めてみる。
「父上に口止めされてたんだよ。殿下がきっと自分の口で伝えるだろうからってさ」
「なるほど」
お父様に止められていたのか。
じゃあ昨日パーティに連れてこられたのも殿下に会うためだったのね。
それならあんなにしつこく参加してほしいと頼まれたのも納得。
「まぁ嬉しかっただろう?お前昔からレイモンド一筋だもんな」
う、お兄様にはバレバレだったみたい。
なんだか恥ずかしくなって布団に顔をうずめる。
するとそれを見たお兄様はニヤっと笑って
「照れてるソフィアかわいいかわいい」
なんて言ってからかってきた。
(もう!昔からお兄様は私をからかうのが好きなんだから! .......あ、そういえば聞きたいことがあったんだったわ)
「あ、あと気になったことがあったんですが、なぜ殿下は皆様の前だとあんなに無表情なのですか?」
普段から無表情だとエリアルも言っていたけれど、昨日私と話した時は全然そんな感じではなかった。
むしろ昔みたいに表情が豊かだったように思う。
「あー、それは気になるなら殿下に直接聞いてみな」
「直接ですか..?」
「おう、そういえばお前が起きてたら呼べって殿下に言われてたからちょうどいいだろう」
うーむ、殿下に直接聞くのは少しハードルが高い気がするのは気のせいかしら。
まだ緊張してちゃんと話せる自信が無いのだけれど...
「でも2人きりになるけど大丈夫か?倒れたってことは殿下でもやっぱり苦手克服できなかったんだろう?」
お兄様は心配そうに私を見つめる。
「うーん、確かに心配な部分もあるけれど殿下がゆっくりでいいと仰ってくれたから。きっと大丈夫な気がします」
そう言って心配してくれているお兄様に微笑む。
私は殿下の言葉を聞いて頑張ろうと思えた。
少しずつでも苦手を克服できるように。
だって私殿下に恋をしているのだもの。好きなのに恐怖心を感じてしまうのは矛盾しているような気もするが、きっと人間の本能的なやつだから仕方ない。
「そうか、ソフィも強くなったな。さすが俺の妹は世界一だ」
なんて大袈裟なことを言って頭を優しく撫でてくれた。
お兄様はいつも私のことを考えてくれているのを私は知っている。意地悪なところもあるけれど誰よりも優しい兄だ。
「お兄様ありがとう」
「おう!じゃあ呼んでくるから待っててな」
少し照れたように笑ってお兄様は部屋から出ていった。
昨日はあまりゆっくりお話できなかったから、殿下とたくさんお話ができるといいな。
そう思いながらドキドキと殿下を待つのであった。