思わず流れる涙
「エリアル」
そう呼ぶと金髪の少女がこちらを振り返る。
「まぁ!ソフィ!あれほどパーティを嫌がっていたのにこんなところで会えるなんて」
そう言っているのは、普段から仲良くしてくれている友達のエリアルだ。
なかなか外に出ない私を気にかけて屋敷まで遊びに来てくれる数少ない友達だ。
「お父様に連れ出されてしまったのよ。私もそろそろ婚約者を探さなければならなくて」
「なるほどねぇ。その男嫌いを克服させてくれるような方に出会えるといいわね」
「別に嫌いではないのよ、苦手なだけ。」
「ほとんど同じじゃない」
そうエリアルは苦笑している。
「そうだ、レイモンド殿下っていつもあんなに無表情なの?」
昔とはまるで別人になっていた彼について聞いてみる。
「あら、殿下にお会いしてきたのね。そうね、私もあまり直接お見かけしたことはないけれど、噂に聞くといつもあんな感じらしいわよ。皆笑顔を見た事なんてほとんどないみたい」
「そうなんだ...」
やっぱり殿下は変わってしまったみたい。
もう昔のように話すこともできないと分かり少し胸が締め付けられる。
「ソフィが男の人のこと聞くなんて珍しいわね、まさかあの美貌に惚れちゃった?」
とエリアルは笑いながらからかってくる。
「そんなんじゃないわよ、ただ少し気になっただけ」
惚れる...か。昔は殿下に恋していたのは確かだ。
でも今は分からない。先ほど殿下に対しても恐怖心を抱いてしまったから。
「エリアル、そろそろ行くよ」
そうエリアルの背後から声をかけてきたのはエリアルの婚約者のセリウス様だった。
「アドゥリツ嬢もお久しぶりです。パーティが苦手だと聞いていたからお元気そうでよかった」
「ということだからソフィ、私行くわね!今日は会えてよかったわ。また近いうちに会いましょう」
「え、ええまた」
そうしてエリアルたちは行ってしまった。
ああ、またセリウス様にまともに挨拶できなかった。エリアルは私が上手く声を出せないのに気づいて気を使わせてしまった。セリウス様はエリアルの大切な人で悪い人じゃないって知ってるのに、男の人ってだけで私は頭が真っ白になってしまう。前エリアルが紹介してくれた時もそうだった。
わたしは去っていくエリアルとセリウス様の仲睦まじい後ろ姿を見つめる。2人は幼馴染でお互いに好きあっていて婚約者になった。お互いが相手を大事に思っていて私にとってすごく理想の恋愛だ。
エリアルがセリウス様の話をしてくれる時はいつも本当に幸せそうな顔をしている。
(私もそんな恋愛をして結婚したいわ)
そう思うけれどこんな体質だし、きっとお父様が相手を見つけて政略結婚になってしまうと思う。公爵令嬢だから結婚しないわけにはいかないし...
そんなことを頭で考えながら1人になった私は数分後に王城内で迷子になっていた。
少し身だしなみを整えるために御手洗に向かって帰ろうとしたらこのざまだ。
(王城広すぎるのよね...なんかこの辺人があまりいないみたいだし私がいて大丈夫なところかしら)
ふらふらと王城の中を散策しているが、パーティの会場に一向に戻れる気がしない。
私は完全に迷子になってしまっていた。
(あ、あそこにバルコニーがあるわ。一旦外の空気を吸って落ち着こう)
そう思ってバルコニーへ出る。
ひんやりとした風が気持ちいい。
焦ったソフィアの心をその風が洗い流すようだった。
バルコニーから下を見下ろすとすごく手入れされた花々が咲き誇っていた。 ソフィアはその景色に懐かしさで胸を締め付けられ、自然と涙がこぼれていた。
「ここって...」
そこから見えた景色は今日夢に見たあの庭園だった。
殿下は昔のようではなくなっていたし、恐怖も感じてしまった。
けれどソフィアにとって殿下との思い出はどこまでも美しいかけがえのないものだった。
(今でもこの庭園はこんなに美しいのね。)
「ソフィ...」
懐かしさに浸っているとふと後ろの方で名前を呼ばれた。
その声はなぜか心が温かくなるものだった。
淡い期待を胸に振り返ってその人物を見る。
そこにいたのは紛れもないレイモンド殿下だった。