懐かしい記憶
「ねぇソフィ、おおきくなったら僕と結婚してお姫様になってくれる?」
「おひめさま?わたしおひめさまになりたい!」
「ほんと?じゃあ約束だよ」
そう言って小さい男女が小指をからませあっている。
緑豊かで花が広がる美しい庭園では無邪気な子供たちの笑顔がとびまわる。
「僕ソフィと...」
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「...お嬢様!お嬢様!そろそろ起きてください」
「...んん、もうちょっと寝かせて...」
「それさっきから何度も仰っているじゃないですか!今日は大事な日なんですから」
カーテンが開けられ眩しい日差しが部屋の中へ入ってくる。
どうやら今日はすごくいいお天気みたい。
「ふあ〜、ローザおはよう」
「おはようございます、お嬢様。一応公爵家の令嬢なんですからそんな大あくびしないでください」
「まあいいじゃない〜ここにはローザしかいないんだし」
「まったくお嬢様は...」
ローザは幼い頃から私のお世話してくれている侍女だ。小言は多いけれどなんだかんだ私のことを甘やかしてくれる。
「今日は久しぶりのパーティへの参加ですからね、気合い入れましょう」
「えーいいよ、あんまり目立ちたくないもの」
「そんなんじゃ婚期に乗り遅れてしまいますよ。今日がチャンスなんですからね」
うっ、痛いところをつかれてしまった。
確かに私は成人を迎えたばかりなのに婚約者はいない。
もう周りは婚約者をつくって結婚の準備をしている頃なのに。
「今日はレイモンド殿下も久しぶりにパーティにこられるそうですし、尚更綺麗にしていきましょう」
レイモンド殿下...
私は今日見たあの懐かしい夢を思い出す。
私、ソフィア・アドゥリツは小さい頃、父同士が友達ということもありよく殿下と遊んでいた。
王城の庭園で一緒に笑いあったのはもう10年も前の話だ。
そういえばあの約束の後、殿下は何をおっしゃられていたのだろう。
幼い頃の記憶がどんどん薄れていっているのを感じる。
「はぁ...」
「元気がないですね、お嬢様」
私を心配そうにローザが見つめている。
「まぁね...」
きっと殿下は私のことなんて忘れてしまっているだろう。
10年前、殿下が騎士学校にお通いになられてからはなかなか会えなくなってしまい、いつしか疎遠になってしまった。
まぁ半分は私のせいでもあるのだけれど...。
数年前までは私は普通にパーティに参加していた。
しかしあるパーティで男の人にひどく絡まれるという経験がトラウマになってしまい、参加することがなくなってしまったのだ。
今でも家族以外の男の人と関わるのが怖い。
男の人を目の前にすると震えて逃げ出したい気持ちになる。
それでも私もいい歳なのでということでお父様に言われるがまま今日のパーティに参加することになったのだけれど、まさか殿下まで出席するとは思っていなかった。
殿下はなかなかパーティに顔を出されないと聞いていたから...。
レイモンド殿下はこの国の第1王子だ。
すごく優秀でそのルックスもよく、皆に慕われていると友達が言っていたのを思い出す。
私の小さい頃の印象はすごく心の優しい男の子だということ。
「ソフィ」
と優しい声で呼ばれるのが大好きだった。
幼い頃はわがままだった私を受け入れてくれる、そんな私にとっての王子様だったように感じる。
もう昔のことで記憶が曖昧な所もあるけれど。
10年ぶりに会う彼はどのように成長しているだろう。
ソフィアの胸には期待と少しの不安が入り乱れていた。