平穏から遠ざかる準備は出来ていませんでした
初連載ですので、生暖かく見守ってください。
一番のイケメンは主人公です。後はHEN☆TAIしかいません。
愛ゆえのHEN☆TAIです。え?本人たちは気づいちゃいませんって。
当サイトすべて「主人公がみんなに愛されていること」が条件です。
「――申しにくいですが、我々は手を尽くしました。しかしこのままでは…」
鎧を纏いし屈強な男達が頭を下げ、目の前の玉座に座る者に苦渋の声を漏らす。
中には拳を床につけ、悔しさに震えるのを抑えられない者や、強靭な体の筈が小さく肩を落とし戦場を駆け抜けるあの雄姿の姿は微塵も感じられない者等様々だが、誰一人として顔を上げることが出来ない。
「――東の魔女へ」
ハッと息を飲む音だけが辺りを包んだ。
誰も顔をあげることなく、ただ一人を除いて――。
「アリーシア!今日も入荷助かったよ。最近は体調崩す人が多くてね」
「こちらこそ取引ありがとうございます。今の時期は西からの流れが芳しくないですものね」
ふくよかな体型をした、姉御肌のキリシャが大事そうに運んできた薬草を受け取る。
「うちの旦那も若い者に負けずと張り合うから、腰を痛めるよって言うけど聞いちゃいないのよ」
「ヨルフさん頑張り屋さんですから、無理をしないか心配です」
アリーシアと呼ばれた少女は蜂蜜色の髪にそれよりも濃い琥珀色の瞳をふわりと緩ませた。光を浴びて反射する髪はまるで髪自体が発光しているの様に、きらきらと光輝く。
肌は陶磁器のようにシミ一つなく、唇は瑞々しく潤い、薔薇色に染め上がっている。
それは髪ではなく、本人から醸し出す柔らかなものなのかもしれない。
「今度会ったらアリーシアから直接伝えてちょうだい。そうしたら天にも上る勢いで舞い上がるだろうからね。それはそうと、アリーシアも気を付けるんだよ」
「? 何をですか?」
「最近隣町辺りで騎士隊を見かけたと言う話をちらほらと聞いてね。今でも村の若い集がわんさかと狙ってると言うのに。お前さんみたいな若くて一人もんは危険さ。男は狼だから」
「何かあったのでしょうか。この村を含めてここ一帯はのどかでとても騎士隊達が来るような所でもなかったのにですね」
軽く首をかしげると、肩に掛かった絹糸のような髪が流れる。
目元にかかる睫が影を落とし、更に彼女の儚さを引き立たせていた。
「ちゃんと戸締まりするんだよ。何だったらうちの者にでも見張りしてもらおうか」
「いえいえ、お手を煩わせる訳には。まあ、何事なく済めば良いことですね」
その後もキリシャは何度も何度もアリーシアに注意を促し、まるで娘のように心配をしながら家路に戻っていった。
「――本当に珍しい。せっかくゆっくりとしているのに」
表の扉を閉め、軽く部屋の片付けを済ましてから、作業室の扉を開ける。
扉の先は不思議なことに全く異なる光景で、窓から溢れる景色は日の光をたっぷりと浴びて露輝く草木が生い茂るものである。
目の前には三人が悠に座る事のできる椅子に、生活感が溢れる台所。所々におかれた乾燥した植物が混じ合う筈が、ふわりと春風を運んできたような香りに包まれる。
アリーシアが開けたはずの扉を閉じれば、目の前に広がる其処は彼女の住まいだった。
まるで空間を繋げたかのように景色は変わり、先ほどまでは軒が並ぶ村の一角の建物が一切見えず、窓から零れる日の明かりと緑に生い茂る露草の光が相まって窓から零れ溢れる。
「アリーシア!待ってたのよ!」
「今日は一緒にお茶会の約束だったのに!」
「ぼ、僕はお土産にアリーシアが喜ぶと思って…っ、」
既に先客がおり、アリーシアが息吐く間もなく各々の会話を持ち出す。
まるで一秒も無駄にはしたくないかと思うぐらいに、三者三様の話となっている。
小さなお客様はそれぞれの椅子に座ってアリーシアが扉を開けるとすぐさま飛んできた。
彼女の片手に収まり、光の反射で空色に光り輝く羽を揺らしながら。
「あらあら、そんなに急がなくても。ひとりひとりの話を聞かせてはくれないかしら」
ふふ、と笑む彼女自体も容姿が変わり、蜂蜜色だった髪は腰まで届き日の光を浴びて黒竜の羽のように光輝く漆黒色に、ルビーを埋め込んだかのように深紅色を持つ左眼と、夜の星空を集めた深蒼にキラキラと反射する。
妖艶、その言葉通りに服を押し上げる胸元に縊れた腰回りに更に彼女のスタイルの良さを引き出す。
誰しもハニーと呼ぶ彼女に気づく筈も無いほど姿形が変わっていた。
先ほどの儚さを纏った彼女はとは打って変わり、芳醇な香りを備えた女性がそこにいた。
「キリエばっかり昨日もアリーシアとずっと一緒にいたじゃないか!僕だって一緒に森に行きたかったのに!」
「キリエが僕たちに押し付けたから来るのが遅くなったのに
「それはカイルとノエルが遅れたからでしょ。昨日のアリーシアと一緒に森の泉に行って…あら、これは女性同士の秘密だったわね」
ふふん!とキリエと呼ばれた彼女がアリーシアに小さくウインクをしている姿にカイルの怒りは収まらない。ノエルは一度も口でキリエに勝ったことはないので、うぐぐ、と口を閉じる。
「カイル、せっかくの色男が台無しだわ。私はカイルとのお茶会を楽しみにしていたのに。カイルは違うのかしら?」
今まさに言い返そうと口をあけた瞬間に、ふいに口元に差し出されたのは彼らがとってもとっても大好きな彼女が作った大好きなクッキー。
彼らのサイズに合わせ、一つ一つ形整えられたクッキーは何度食べても、なにを食べてもどれにも勝る美味しさだ。
しかもその本人自ら運んでくれたクッキーを食べないわけがない。ここで断ったら男が廃る。いや、断るわけがない。
「僕だってずっと、ずっと!楽しみにしていたんだ!へへ、いつもクッキーは美味しいけれど、今日のは特別美味しいや」
すぐさま留飲を下げたカイルにアリーシアが爆弾を落とす。
「カイルが楽しみにしていると思って作ってみたの。気に入ってくれて嬉しいわ」
「うぐっ、」「ごほっ、」
カイルの口元についたクッキーの欠片をついー、と指で掬い取り、薔薇色に染まった唇へとそのまま運ぶ。
ちらりと覗いた赤い舌がちろりと指先を舐める。
その一つ一つの妖艶な仕草に思わず吹き出すところだった。
しかし(僕のために)アリーシアお手製のクッキーをこぼすなど勿体なく、何とか飲み込む。
――が。
「これだから無自覚フェロモンキラーは怖いわ…。今のは私でもクラっと来たわね。まだまだ見習わなくちゃ――ってカイル!?ノエル!?」
そのまま二人は固まり意識を失った。顔はとても安らかだったが顔がにやけて気持ち悪かったと後にキリエは語る。その度二人は記憶がない。と口を揃えていった。
「おかしいわね、クッキーに毒なんて入っていないのに。もしかしてベリーは苦手だったのかしら」
「いや違うでしょ」
ううん、と考えこみながらも倒れ込む前に瞬時にベットを呼び寝かせる彼女に、これだからあの方も溺れるのね。と口には出さずキリエは心の引き出しにしまった。厳重にカギをかけて。
キリカは思った。こりゃあ勝てないわ。あの方だって欲しがるわけだもの。
その頃のあの方は、執務に追われつつも、アリーシアのこと99.9%カットできず脳内でぐふふ思っています。
思考はまあ、自由だもんね。
次回はついにあの人の登場!あの方はいつ出るのか!?そして放送上出せるのか⁉