181、王子の華の成人と血の晩餐舞踏会 (Fカップと道しるべ)
ノートンに横抱きから下ろしてもらったタニア様が、目をまん丸にして穴が開くほどアニエスを見つめる。
アニエスは堪らなくて、思わず俯いてその目線から逃れた。
「……そうなのね。あの……アニエス」
「な、何でございましょうタニア様……」
「少しだけ……貴方に触れても大丈夫かしら?」
「はい、どうぞなんなりと……タニア様のお気に済むままに」
アニエスは大好きなタニアから罰を受けるのかもしれないと、思わず目をギュッと瞑る。
でもそれによる痛みよりもタニアにひどくガッカリされたかもしれない……。
せっかく……王宮宮廷行儀見習いとしての今まで期待して下さっているのを裏切っている! そんな言い様の無い罪悪感の方がアニエスには今は余程苦しかった。
タニアは触れる前に、ノートンに二人と一匹(※一柱)の蜂蜜まみれの可哀想な姿に、まずは『洗浄』と『乾燥』と『浄化』を施すよう命じ、三人を綺麗にする。
そして、いよいよタニアの白い腕がアニエスへとスッと伸びた。
「ーー!!」
ふかっ……。
「お、大きい! 本物だわ!?」
「………………」
……あ、あれ? タニアの予想外の動きにアニエスの目が点になる。
一方タニアはひとつひとつ確かめるように、ふよふよ、さわさわ、つんつんとアニエスの今現在、推定Fカップの胸を子供のような無邪気な好奇心で堪能していた。
「すごいすご〜い!」
「あ、あの……タニア様??」
「うーん……これは……裸の胸も見てみたいものね? きっと綺麗でしょうに!」
「タニア様!?」
「……ああ、ごめんなさい。だって、あまりにビックリしてしまって……。他に言うべきことが色々あるはずなのだけど……どうしよう。ぜんぶ吹き飛んでしまったわ!」
どうやらタニアは現在。お説教をすることよりも目の前のアニエスの巨乳に釘付けのようである……。
さらにそんなタニアは知らずに、ある爆弾を投下した。
「もしかして、アレクサンダーも触っていたりするの……?」
「「ぇ゙ッ……」」
「な〜んてね! 冗談、冗談! うふふっ私ったらそんなわけも無いのに……馬鹿な質問ですよね? ごめんなさい! ……って、あらら?」
なんでか、こんな時ばかりバカ正直に盛大に顔を背ける二人……。
それにタニアは大きな黒金剛石のような瞳をさらにさらに丸くした。
「え……本当に……アニエスの胸に触れたのですか……!?」
思わず赤くなるタニアに、アニエス達も思わず耳まで赤くしながらも、必死に弁明する。
「え、えと……私がこれは一夜の魔法なんだからとハシャぎ……盛大にフザケてしまって、それで……!」
「ぼ、僕もそんなお嬢様の軽い挑発に乗ってしまい……本来お止めしなければならない立場なのに、つい何だかムキになってしまって……!?」
タニアは予想外の展開に身体を縮こませて両手で口もとを覆い、ぷるぷると震えながら、その目は爛々と隠しきれない好奇心に輝く。
「なっ!? そんな身も心も大人になってしまったのですか? アニエス〜!」
「〜〜違います。タニア様ッ! 誤解ですっ!?」
「やっぱり……男女の主従関係はただならぬ事情……もとい爛れているものですわよね〜?」
「って、ロゼッタ様もなんかイキナリ参戦していらしたっ!?」
ロゼッタが、にっこりと微笑んだ。
「だから、私はそれを踏まえた上で、アレクサンダー様との関係を申し込みましたのに……私、そこら辺は全然、無粋ではなくって寛容ですのよ〜?」
「さらに無駄に色々ずっと前の事を掘り返されている!? ちーがーいーまーすー!? 本当にただただ、フザケていただけなんです〜!?」
それにタニアがわくわくテカテカした様子で、ウンウンと頷くが……。
「では、ここは公正に判断いたしましょうか! ……というわけでノートン。判定は……?」
一人。魔法で三人をキレイにした後、静かに見守っていたノートンにタニアがそう話を振る。
ノートンがそれに出す答えは、はたして……!?
「ダララララララララララララララッ、ダン!!」
「……アレクサンダー。アニエス嬢。……アウトー!」
タニア様がノリっノリでジャッジの効果音を口で鳴らし……ノートンもそのノリに便乗する形で、容赦なく判定を下す。
それに二人は思わずガクンと盛大に項垂れた。
「なんか……あほ娘の周りって、類は友を呼ぶって感じで……おかしな奴ばかりだよナ?」
それにネコさんだけが、竜のマトモな頭で辛辣コメントを残す……。
そうして二人を中心に、ひと通り場が温まったところでタニアが周囲を見回し言った。
「まあまあ、冗談はさて置き!! …………二人とも無事でよかったわ……義務的なお説教は後にして、今はここを出て、全員で元の所に帰ることをまずは考えましょう」
「!! はい」
おふざけモードをいったん終了し、真面目モードに切り替えて、ローゼナタリア王族としてタニアがそう皆へと指揮をとる。
そう、まずは元の空間のあの舞踏会場に戻らねば話にならない……。
「心配することは無いだろうけど、お兄様たちも無事なのかしら?」
「私たちも飛ばされる直前までは、セオドリック殿下たち数名と行動を共にしていたのですが……」
「何しろランダムに飛ばされているみたいですものね。いったい誰がどんな目的で……?」
「少なくとも私は、一朝一夕の計画とは考え難いと考えます」
「規模からいって、私もそれには同意するわ……とりあえず、そうね。どっちの道へ行くべきかしら……?」
「でしたら……!」
アニエスがにゃーんと鳴くネコさんをヨイショと両腕にかかえるように抱っこする。それを目にしてタニアは目を輝かせた。
「あらー! じつは先程からずっと気になっていたの! ……この素晴らしい可愛い子ちゃんはドコから来たの?!」
それにアニエスはチラリとアレクサンダーを見て答える。
「アレクサンダーからに御座います……」
「え!? ……ということは……もしや!!」
「はい。ですからこのビビットカラーのマヌルネコ……もとい御ネコ様にお力添え頂ければ、無事に導いてくださるかと……!」
「にゃにゃ~ん」
「なるほど……確かにそれでしたら……!」
神の力を持つ森羅万象、万物の覇者『竜』にとってみれば不可思議、奇天烈な場所の道案内など造作もない。
無論。それも彼等のご機嫌しだいではあるのだが……。
「それにしても、大変失礼ながら……なんてなんて愛らしいお姿!」
そう言われ、ネコさんは人間ごときがと、機嫌を損ねるどころか、むしろ嬉しそうに積極的に喉をゴロゴロと鳴らす。
「まあな! オイラの可愛さは世界の至宝レベルだ!」
「!? 会話が可能なのですか……!」
「当然だ! ……それより道案内は、もうついでだからこの際構わないが、その前に厄介事を片付けないといけないんじゃないか?」
「え? ネコさん、どうゆうこと?」
「やっぱり『スモール』のスキルはな……まだまだ実用段階には至っていなかったということだ。……おかげで余計なものまでデカくなってしまったゾ!」
すると蜂蜜の川からパシュンッ、パヒュンッ! ドドーンドーンと何かが飛び出した。
「しかも、時間差で来たナ……」
「な、何ですか。アレは!?」
「どうやら、オイラに寄生してた蚤のようだ」
黒い巨大な物体がスーパーボールのようにそこら中をあり得ない高さで飛び跳ねている。
「ええ……と、それって……つまり」
「つまりはオイラの血を吸って最凶強化された、突然変異種の魔物ダ。おい……来るぞ!!」
「「「!!」」」
ここに来て……新たなる意外な敵の存在!
果たして変異種とは何なのか!?
次回に続く!!




