171、王子の華の成人と血の晩餐舞踏会 (三人の男と女モンスター)
一方その頃、例の三人の男たちはというと……。
アニエス達と同じく元いた舞踏会会場そっくりな別の異空間にいた。
「アニエスと離されただと!?」
セオドリックはそう言い、他の二人を睨む。
メンバーは言うまでもなく、セオドリック、エース、ジュリアスの王子二人と……訳あり元王子の三人組だ。
「不本意なのはこちらも同じですよ殿下」
エースはそう言いながら、他の二人を見て内心ほっとする。
アレクサンダーももちろん恋のライバルとして油断はならないが、それでも一緒にいるのがこの二人でないだけエースには千倍はマシに思えた。
「……何はともあれここは元の場所とは違う場所みたいだ。とりあえず出口を探しましょう」
ジュリアスが切れ長の目を涼しげに冷静にそう述べる。……本当にこの人物はアニエスさえ絡まなければ至極真っ当だった。
(タカさん、アニエスたちは無事かな?)
エースはこっそり、タカさんにドラゴニストだけに使えるテレパシーを送ると、タカさんはすぐに返事を返してくれる。
(案ずることはない。あの二人は実力者だし、いざとなれば弟が助けに入るでござるよ。それよりエース殿、魔物の匂いがさっきから漂っているでござる。気をつけられよ!)
「!!」
エースが緊張し、周囲を確認した。すると……。
「うふふん」
「くすくすくす」
「あーん……」
「くすくすくす」
周囲からなんとも妖しく、艶めかしい女たちの声が耳に届く。次の瞬間……! 三人は四方八方から細く白い腕に腕をつかまれ引っ張られる。
「…………っっ!?」
ねっとりと自分の耳朶に知らない舌が這う。それからフッと甘い息を吹きかけられた。
「……おやおや、コレは驚きだ……一頭でも珍しい『サキュバス』がこんなにズラリと勢揃いとはな……?」
現れたのは男の精を吸い尽くすという女淫魔『サキュバス』。
美女の姿の甘美な夢で誘惑し、相手がそれに屈すると人体の限界を超えた"快楽"を与えて、男を絶命させるという……。
因みに男性版の方は『インキュバス』と呼ばれる。
彼女たちは肌や目、髪の色や長さ、様々な体型の……しかし、いずれも大変魅力的すぎる魔物で、一切何も身に着けないか、或いはお情け程度の布や飾りで隠す……どころか男を煽るように一部を覆っていた。
普通の男性であれば、それを目にしただけで、もう一人の自分が大いに目覚めそうなものだが……。
「……こんなの全員を相手にしたら、さすがの私も擦り切れて、明日そこが火を吹くぞ? 勘弁してくれないか……」
「いやいや、いったい何の心配をしてんですか!?」
……セオドリックは、どこまでもセオドリックだった。
またそれをちゃんとツッコんであげるエース。
何しろここには現在アレクサンダーとノートンはいない……。
つまりは圧倒的なツッコみ不足なのだ。
負担は大きいが頑張れエース! と応援したい。
「あ、あ、あ、あ〜〜〜!」
突然、サキュバスから高い叫びのような声が上がる。声はジュリアスの方で上がっており、二人は思わずそちらを振り返った。
「ゆ、指……ながいよ〜!」
「だめ〜〜〜〜〜っ!!」
「し、死んじゃ……う……っっ!」
……いったい指が長いから何だと言うのだろう!?
ジュリアスの周囲でジュリアスを掴んでいただろうサキュバスたちが……今は赤い顔でぴくぴくと痙攣し彼の足もとの床に転がり、涎すら垂れて、陸に打ち上げられた魚のようにひたすら口をパクパクとしている。
そんな中、真ん中に立つジュリアスは若干、不機嫌な雰囲気をまといながらも冷静に自分の手を丹念に執拗に、ハンカチで拭っていた。
「……え、今の一瞬で何が起こったんだ??」
「……いや、僕も振り返った時には、ああなっていたので何が何だか……」
ジュリアスが手を拭いながら転がったサキュバスを冷めた目で一瞥して、ガッと踏み付ける。
すると踏まれたサキュバスは苦しむどころか、甘い声をあげた。
「ご、ご主人様あ〜んん゙!!」
……だからいったいさっきの一瞬で、この人語を解する決して低級ではない魔物を完全に隷属させる、何が起こったというのだろうか……!?
見ると、這いつくばったサキュバスは皆一様にとろんとジュリアスを見上げ、目をハートにひたすら彼の次のご褒美を待っている。
……あ、因みに、ご褒美が何かって? ……うーんおやつとかお小遣いかなあ? うーん??
「……おい、あいつなんか怖いぞ?」
「……だから言ったでしょう。怖いって?」
セオドリックとエースが思わずドン引きしながら、ボソボソとやり取りをする。
だが、そんな中でもサキュバスは彼らをひたすら誘惑し、迫っていた。
そんな一人がエースのベルトへするすると手を伸ばす。
「……!? っ、やめろって!?」
「別に君ももう童貞じゃないんだから一人くらいいいんじゃないか? あ、精は取られても魂は取られないようにな?」
「そうなのか? ……おめでとう。ユージーン」
「だーーーっ!? このメンバーは本当に最悪だよおっ!?」
最悪なのはこのメンバーなのか、はたまたこの悪趣味な展開なのか?? だが、ここでサキュバスは新たな動きに出た!
「エース、そんなに怖がらないで……? 私とただ、気持ち良くなろうよ……」
その聞き慣れた、鈴を転がしたような澄んだ声に、耳にしたエースがビクンとなる。
気付けばサキュバスの香りも変わり、鈴蘭に女の子の清潔な香りが加わった……大好きな香りになっていた。
そう……これこそ夢魔、淫魔と呼ばれる魔物の真骨頂。
サキュバスは夢に出ると同時に相手の深層心理に深く入り込み、相手の好みや嗜好を容易く解して、それに合わせて姿を変えることが出来る。
つまり、その精を吸い取る相手の心から愛する者、心底から欲情する対象へと変身できた。
「エースが欲しい……」
見てはいけない。見てはいけない! と思いつつ、エースは恐る恐る横を向いてしまった。
そこにいたのは赤い顔にうっとりと目を蕩けさせた、ほとんど裸の淫らなアニエス。
エースは知らず、ゴクンと喉を鳴らした。
「エース……お願い。私の全部をもらって私と一つになって……?」
果たしてこの思わぬ最大級の難関に、エースはどう立ち向かうのか!? 次回に続く!!
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