17、【閑話】タニアの魔法 ☆ new挿絵×3あり
ごきげんよう。
私はローゼナタリア第一王女、タニア・リリ・ローゼナタリア・バルファード。
王女に生まれついたためか私は昔から魔力の強い子どもでした。
とはいえ私が使える魔法は兄のセオドリックのように多彩なものではありません。
けれど、私の使える魔法は自分で言うのも難なのですが中々のもので……。
その魔法とは成長を促したり止めたり、若返らせたり、ものによっては命の再生や、逆に根絶やしにしたりすることができる『生命』に特化した魔法。
おかげで私が個人的に出る公務は珍しいこの力を使うものが多く、やれ、飢饉対策に国の害虫、害獣対策だ! 疫病対策だ! はたまた増産だ! と目が回る忙しさに振り回されることも少なくないのです。
けれど私がこの力を授かったのも王女という立場ゆえの神の思し召しなのかもしれません。
それにまだ飢饉対策や疫病対策なら、公務として納得がいきます。
でも残念なことに一番私に割り振られることが多い仕事は……。
「タニア様、我が侯爵領の港をこたび整備し、国の海運に役立てて頂きたく献上いたします」
……ほうら来たわよ、来た!
「まあ、それは素晴らしいわ侯爵夫人。オーク侯爵家には何か褒美を差し上げなくてはいけないかしらね?」
見え透いたおべっかと、ソレにのって茶番を披露せねばならない我が立場にうんざりしつつ……これも国の発展のためよと自分に言い聞かせ、大方、百パーセント予想できる相手の言葉に耳を傾けます。
「それでしたら! ……不躾なお願いでございますが、どうか……!!」
人は時間に支配されている。
だからどうしても年老いる。
しかし、中にはその事実をどうしても受け入れることが出来ずにどんな手を使っても抗う者が少なくない。
特に地位や財産、美貌など守るものが多い者ほどその傾向が強くなる気がするのよね?
「わかりました。それが夫人のお望みなのね……しかし先に申し上げておきます。無理に若返らせると、体に歪みが出て時に寿命を縮みかねません。……それでも構わないのかしら?」
「はい!!」
夫人は頬を上気させ、喜びに打ち震えています。
もお、私が何を言っても無駄なようね……。
私は魔法を使う時は吟遊詩人になったつもりで歌に呪文をのせます。
魔法の使い方は学校で習うもの以外は千差万別で、人の数だけ種類ありますが、私にはこの詩が一番合っているみたい。
齢五十代だった侯爵夫人は私の目の前でみるみる若返り……白髪交じりの薄い髪はふさふさした栗色の豊かな髪に、膨らみたるんだ体は全体的にしぼんで上向きに、最後に頬が毛穴とともに引き上げられ皺やシミも無くなっていく……。
そうして、彼女はすっかり二十代前半くらいの姿に生まれ変わりました。
………………うぅっぷ、魔法を使い過ぎて、吐き気がいたします。ごめんあそばせ……。
「では、これをオーク家への褒美とします」
「ありがとうございます。ありがとうございます!!オークはこれからも王家に絶対の忠誠を誓います!!」
まあ、それは結構ですこと……。
はあ、疲れたわ。今日はもう魔法は使えそうにないわね。
「わあ……は、初めて、タニア様の魔法を拝見いたしました。すごいお力ですね!?」
そう言い、私をキラキラした尊敬のまなざしで見つめてきたのは、最近、訳ありで王宮宮廷行儀見習いに入り、私に付きになった公爵令嬢のアニエスその人。
白金のサラサラとした髪に、光が透けるほどの白い肌。宝石のオパールのような内側から七色にきらきら輝くつぶらな瞳で…………それがまた目もくらむような可愛さで、この可愛さについてはつい私情で成長を止めそうなのを日々、必死に堪えずにはおれないわ……!
あら! コホンッ、これは失礼。
落ち着いてタニア。
貴女は王女。貴女は王女なのですよ!
「本当に、タニア様は素晴らしいです!」
春の花が一斉に咲きほこるような笑顔で言われ、思わず顔を手で覆って、足をジタバタとしてしまいそう!
なんで、そんなに貴女は愛らしいの!?
ねえ! ねえ!?
……正直、お兄様がアニエスにおいたする気持ちもちょっぴりわかったりするのよね? あら、私ったら、いけないわね!
アニエスは『魔力無し』で魔法の使えない女の子。
きっとそれで苦労もあったろうに、それを普段は微塵も出さず、いつもニコニコと元気で明るい。
私の成長の魔法で魔法を使えるように出来たらいいのだけど……。
「ねえ、アニエスあなたは魔法で成長したり、若返ったりしてみたい?」
その問いにアニエスは、うーんと考える。
「……今のところはNOでしょうか?」
「どうして? 大人になりたくはないの? または小さな頃に戻りたくはない?」
「確かにそれも素敵ですね。ですが成長の過程で色んな発見がありますし……その途中途中で見えるものはその時、その時間にしか感じえないものでございましょう? 年をとる中で得るのは経験だったり絆だったりと大切な財産になると思うのです。……それに後戻りできない方が覚悟ができて、後悔しないように今を全力で進めます!」
そう言い、アニエスはにっ! と笑いました。
私はその答えに西風が胸に飛び込んできたような、そんな気分になって魔法の使い過ぎで感じていた吐き気もどこかに吹き飛んでいってしまったわ。
「……そうね、私もそうありたいわ」
私は魔法が使えるけど、ときどき魔法を使えない彼女になんだか魔法をかけられている気がするの。
私も、彼女に魔法でない『魔法』をかけられたりするのかしら?
……そうね、いつかかけたい。
だから、今はゆっくり魔法に邪魔されない時を彼女と楽しむことにいたしましょう……。
※衣装案①
※ドレス参考おぼえ書
※タニア様のロマンチック・スタイルドレス姿⓵




