148、王子の華の成人と血の晩餐舞踏会(タニアの過去② 兄妹の会話)
「タニア!! 話を聞いたぞ!? すごいじゃないか!!」
久々に会えたタニアの兄であるセオドリックが、会うなり興奮気味にそう言った。
顔全体を喜びいっぱいに綻ばせ、自分のことのように本当に嬉しそうにする……。
「ありがとうお兄様。でもまだ実感がわかないわ……」
「はははっ、それもそうかもしれないな!?」
「お兄様。心配かけましたね。本当に今までごめんなさい」
「?? どうして僕に謝る。最近タニアは会うたびにムダに謝っていないか? ……タニアは僕の妹なんだからそんな風に謝ることはない! 僕はとにかく嬉しいんだから!!」
「うふふ! 本当に嬉しそう!」
「うーん……それにしても『生命の魔法』か、僕も、うかうかしていられないな? タニアは元々、出来がいいし、王位継承権のライバルになりそうだぞ!?」
「もう! あり得ない! お兄様は大げさだわ?」
「そんなことはないと思うがな……?」
「しかも、こんな風にお祝いまで」
「タニアはピンクばかり着ているが、赤系のドレスもよく似合うと思ったんだ……。まあ、好きなものはどうしてもよく着てしまうか?」
「……………………」
「母上も似合うと言って喜んでいたし、たまに着てくれたら僕も嬉しい」
「お母様は、お兄様の言うことは本当に否定なさらないのね……」
「タニア……何か母上とあったのか?」
そう兄に驚かれてタニアは慌てた。
「え!? 別に……た、たまにお母様と意見が合わないだけよ?」
だが、セオドリックは眉を寄せてタニアをジッと見つめる。
「本当に? ……タニア、何か我慢しているんじゃないか!? 何かあるならすぐに僕に言うんたぞ? これでもたった一人の君の兄なんだから」
「ええ、わかったわ!」
タニアはたまにしか会えないセオドリックが、いかに会えない間も母や自分のことを気遣い……またどれほど深く愛しているかを知っていた。
また、だからこそその絆に水を差したり、兄の気持ちが傷付くようなことはタニアは決してしたくはなかった。
このいかなる時も太陽のように明るい兄の表情に影を落とすような真似をしたくない……!
タニアはこの兄の明るさが好きだし、穢してはならない神聖なもの……家族の希望そのもののように感じているのだ。
「タニア! 機会があったら、ぜひ僕にも魔法を見せてくれ……いや、でもそれ位の魔法だと、幼くともすぐにもタニアも公務に出るかもしれないか……?」
「……私が一人で出かけるだなんて、お母様はきっとお許しにはならないわよ」
「母上はタニアにとくに過保護だからなー……よし、わかった! その時は僕も母を説得しよう! 僕が一緒ならタニアの外出もきっとお許しになる」
セオドリックはそう言い、笑ってタニアの頭をなでる。
「タニアにせっかくこんな才能があったんだ。活かさないのは国益すら損なってしまう」
「お兄様は本当に大げさね?」
「そんなことないだろう。あ、そろそろお茶の時間だな。じゃあ、行こうかタニア!」
「ええ! ……お兄様、それで今日は何に乗せてくれるの?」
タニアがそう言うとセオドリックは実に渋い顔をした。
「…………タニア…………私は変身をして、それを解くと裸になってしまうんだが……?」
「あら、服なら持ってあげますよ? そうね……陸ガメにしましょうか!」
「……僕に拒否権はないのか??」
「え? かわいい妹のお願いを断るの?」
「ほぼ脅しだ!」
「いいからいいから、早く早く!」
「はあ……たく、しょうがないな!?」
そうぶつくさ言いながらもセオドリックは素直に陸ガメに変身し、タニアは兄が着ていたものを回収してその背に乗る。
「よ~し、ハイヨ〜! シルバー!」
『うん……振り落とすぞ?』
こうして兄妹の午後は穏やかに過ぎていくのであった。
【ハイヨー! シルバー! の語源】
『ローン・レンジャー』という1933年に西部劇のラジオドラマで主人公ローン・レンジャーが愛馬シルバーを発進させる時の掛け声が元になっている。
同作は大変な人気でアメリカ・コミックス化、テレビドラマ(1949年から全221話)化、三回の映画化もされた。そのため、「馬に乗った時の掛け声といえばコレ!」扱いされている合い言葉。
今回はギャグ部分のため、考証知ってなお思いっきり使わせていただきました!




