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アニエス嬢はご苦労されてます  作者: ちゃ畜
媚薬騒動と新たなる魔女
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114、【閑話】フレイの想い

 

 西の偉大なる魔女の居城。ここが、僕の今の居場所だ。


「う……ん、フレイ。もう起きたのですか?」

「はい、昨日の研究が気になってしまって……」

「ふふ……流石(さすが)は私の一番弟子ですね?」


 隣に眠る人は、ぱっと見、十二歳にしか見えない。

 成人晩餐舞踏会の時には十五、六歳の姿まで成長させるそうだが、今はこの姿が気に入っているようだ。


 実年齢の姿のままでも、とてもご高齢には見えなかったが、今は床に着きそうなほど長い黒髪の美しい少女そのもので、逆に僕が悪いことでもしているみたい。


 しかし、彼女は(まぎ)れもない魔法使いの中の魔法使い『魔女』の称号を許された。世界にたった三人のうちの一人。

 そして、その本質も選ばれた者ゆえに人間より魔女の本質に近しい。

 特にこの方に関しては、『魔女』としては、誰よりも大真面目な性格と言っていい位だ。


 魔女にとっては、何が大切か? ……彼女達にとって何よりも大切なのは『魔法』であり、それは本能が欲するところでもある。

 だから、その存続のためになら手段を選ばず、彼女たちはどんなことだってする。


 その例の一つとして、彼女たちは魔力の強い魔力のセンスの高い子種を非常に欲する傾向にある。

 昔、彼女ガブリエラ・ロナ・チャイルズ・アルテミスティアは、僕を一目見て一番弟子にしたいと言ってきた。

 それは彼女との肉体関係の契約も、同時に結ぶということを指している。


 僕は、魔法への興味関心は人一倍高く、魔法の研究がしたくてしたくて、いつもうずうずして(たま)らなかった。

 ……しかもその申し出は、あの魔女直々に師事をしてして頂けるということだ……魔法を勉強する上で、こんなに素晴らしいことは無いだろう。

 さらに、魔女が僕を欲したということは、つまりは、国でトップと言っていい魔力と魔法のセンスを認められたという証明でもあるのだ。


 ……僕は、王の弟でありながら王位継承権第二位。それまでずっと二番手の辛酸をなめさせられてきた。

 (おい)のセオドリックより、ずっと魔力も魔法も僕の方が、上だったというのにである。


 だから、魔女にとっての一番に選ばれたことは、単純に僕の存在全ての肯定をすることでそれは本当に嬉しかった。

 けれど……。


「……考えさせてもらえないでしょうか……?」


 僕は、その時、返事をするわけにはいかなかった。

 何故なら、僕には心から大切にしたくて、愛している人がいたから。


 愛する彼女は、優しく賢く美しく、清く正しく公平で、誰が見ても理想と言える王女だった。


 歳の近い僕たちは幼い頃から一緒に育ち。彼女と一緒にいる日々は、僕にとってかけがえのない世界だった。

 僕らは内緒で付き合い愛を育んだ。

 だから、その彼女を裏切り魔女の手を取る訳にはいかない。それなのに彼女は……。


「終わりにしたいのこの関係を……もういい加減、潮時だわ……フレイ」


 ある日、突然そう告げた。

 僕はわからなかった。


 なぜ彼女が僕を拒絶するのかが……。

 僕は、あんなにも彼女を愛していたのに……!!


「……おわかりでしょう! 私たちは叔父と(めい)なのですよ? こんな関係……国を背負う者が続けるべきではないわ」

「理屈なら解る。でも僕が愛しているのは君だけだ!! 僕にとって君こそが世界そのものなんだ……そして、君もそれを受け入れていた。それなのに何で今更……?」


 そう言いながら、僕はわかっていた。

 なぜ、彼女……タニアが関係を終わらせる決意をしたのかを……。

 それというのも、僕等の身体が第二次性徴を迎え、そのために、一線を越えかけたからだという、あの事実。


 僕はいい加減、彼女と抱き締め合うたびに自分の欲望を押さえるのが難しくなっていた。

 また、そんな僕を彼女も拒絶しきれないところがあった……彼女も僕を愛していたから……。


 しかし、ギリギリ一線を越えようとしたその時、彼女は急に(おのれ)の正気に戻ったように、その侵入を(はば)んだのである。


「……私の身体は……国家のものです。…………私自身が好き勝手にして良いものではないのだったわ……」


 彼女は、王女として恐ろしいほどの責任感をその身に有していた。

 自分の個人的意思等より、いつだって国家の意思を最優先に考えている。

 彼女は、もはや人間としてでなく……王族という生き物として生きていた。


 そして、王位についても……彼女は、時期国王を兄のセオドリックにと後押ししていたのである。


 僕にとって彼女は一番だったが、彼女にとっての一番は、国と兄であり、また僕は二番手の辛酸を舐めることとなった。


 だから、僕は、僕を『一番に』と言った。彼女……魔女の手を取ることに決めたのだ。


 結果的には、その選択は間違っていなかったと思う。

 おかげで、貴族、魔法使いの最大派閥が僕のバックに付き、大きかったセオドリックとの王位継承権の差は今はわずかしかない。


 また、気付いたのだ。魔女……ガブリエラ様は、何となくタニアに似ているということに……。


 タニアが国家にその身を捧げるように、彼女は『魔法』にその身を全身全霊、真摯に捧げている。


 そこには自分の意思がある様で、人間としての自分は押し殺していた。

 だがそれに対し、彼女は神聖なほど自分の役割への忠誠心から、決して逃げたりその歩みを止めたりはしない。


「アニエスは、きっと、私の忠告を聞いてくれるわよね……?」


 ガブリエラ様がそう言い、ベッドから裸で這い出ると、いつものように小姓たちに着替えをさせ、朝の準備を始める。


「あんなことをしてきたのですから、素直に聞いたりはしないかもしれませんね……」

「今はそうでしょうね? でも大丈夫よ……彼女は『魔女』だから、その運命からはすり抜けられない」


 ええ、貴方がすり抜けられなかったようにね。


 ガブリエラ様。……彼女は、世の中の人間が思っているよりずっと可愛い方だ。

 その証拠に、結婚する前に好きだった幼馴染の手紙を今もいつも肌身離さず大切にしている。


 だが、そんな彼女が結婚したのは、愛する幼馴染ではなく、当時一番魔力が多く、高いレベルの魔法を操ることができた人物……ロナ直系の御曹司だった。


 結婚した後の彼女のそれからの人生は、たとえ身内にどんな憎まれようと、世界の魔法のバランスの御為(おんため)ならば、エルフの王族の血を宿す娘を血眼(ちまなこ)で探し出し、その血と力が失われないように自分の息子と結婚させ、生まれてきたエルフ返りをした実の孫を帝国に差し出す。

 それから…………ロナの運命の子を産ませるまで、嫁が逃げださないよう、死んだりしないよう、ずっと監視と管理をし続けた。


 それでついに生れたのだ。最後の女の子……『アニエス』が……。


 彼女は、それをとても喜んだ。

 魔女として実に正しく。

 人間の彼女が、たとえ我が孫が背負うこれからの運命を思い、自責の念への苦悩と引き換えに……。


 僕はガブリエラ様の小さな背中を見た。


 どうやら、僕は結局こういう人に惹かれないではいられない運命のようだ。

 それは、その姿があまりに孤独で美しいからに他ならない。


 そんな彼女等に僕だけは寄り添い、支えて上げたいと僕は本気でそう思うのだ。


「フレイ来てください。朝食には貴方が一緒でなくてはね?」


 そう言い、それを本人は知ってか知らずか彼女も僕を頼り素直に甘える。

 ええ、もちろんその手を取らせて頂きますよ。大切な僕の先生?



 貴方が、僕をお傍に置くのを一番に望む限りは、ずっと……。

 




 フレイが、ガブリエラとの関係を結ぶは、内心嫌々というわけでもなく、また盲目的に崇拝してでもなく、意外なことに、誰よりもガブリエラをフラットな視点から見て好意を持っているからです。

 この賢明さも一番弟子に望まれた原因ではないかと思います。

 また、タニア目線だとまた色々あるのですが、それはまたいずれ……。

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