第5話 長かった学園生活初日
何だろう。地面がふかふかしている。
もしかして僕死んだのかな。
ゆっくりと目を開けるとそこには見慣れない天井があった。
「ここはどこだろう....」
岸は上半身だけを起き上げ、キョロキョロと周りを見ていると、
「あっ、やっと起きたの。てっきりもう起きないんじゃないかと思ったわよ。」
突然右からカーテンを開けて、一人の短髪のつり目の女の子が入ってきた。
「あなたここで2時間くらい寝てたのよ。全くウチに変な心配させないでよ。」
今日の昼にクラスで見たあの子だ。
「__えっと、あ、ありがとう。」
「別に良いわよ。気にしてないから。」
「え、そう。ハハ。それでさ、えっと、君ってだれかな?」
「はあ!あんた同じクラスなのに私のこと覚えてないの。」
怒った口調でその女は岸に問いかける。
岸はその態度に心臓が縮み上がりそうになりながら、入学式初日なのにそんなわかるわけないでしょと言った。
ただし、心の中で。
「私の名前は奥野愛よ。ちゃんと覚えてよね。」
なるほど、奥野愛さんか。
名は体を表すという言葉があるが、彼女の場合はどうやらそうではないらしい。
明らかに愛という言葉が似合わない。
「えっと、奥野さんは」
「愛でいいわよ。あとさんもいらないから。」
どうにも彼女との会話はやり辛い。
「そしたら、あ、愛はなんでここにいるの。」
「あなたが起きるのを待ってたからに決まってるじゃん。」
「そうじゃなくて、何で僕を待っててくれたの。」
「それは...今回のデュエルを岸にやらせたのは私にも原因あったし、それに岸が体調悪いってことも知らなかったし、なんていうか....その...ごめんって言いたかったからよ。」
横を向きながら、愛はそう答える。
__何だただの良い子じゃん。
今回のデュエルは、確かにこの子の発言があって起きたものだ。
ただし、元々の言い出しっぺは布衣野君だし、それに僕がはっきりと断れなかったから、正直彼女はそれほど悪くない。
なのに、それを気にして謝ってくるなんて....
てっきり自分勝手な子だと思ってたけど、ちゃんと責任感はあるんだ。
それより、なんで僕が体調が悪いことを知ってるんだろう。
「あっ、岸君起きたんだ、よかった!もう大丈夫?」
岸が愛のことを再評価していると、愛の後ろから一人の女性が現れた。
綺麗な黒髪が肩までかかり、ツヤのある白い肌をして白衣を着ている。年齢は25くらいだろうか。
恐らく養護教諭だろう。
「あ、はい、大丈夫です。」
「それならよかった。岸君デュエル終わった時に倒れて、それでここまで運ばれてきたんよ。入学初日から生徒が保健室来るなんて初めてだから私びっくりしちゃった。それに岸くんの相手だった、布衣野君って子も来てたんだけど、彼はすぐに目を覚まして帰ってちゃったのよ。もう、岸くんが勝ったなんて信じられないよ。」
いきなり出てきたにも関わらず、彼女は捲したてるようにしてどんどんと話をする。
「それに、岸君診てたら、調子悪そうだったじゃない。だから少しだけ私の魔法を使わせてもらったわ。もう家に帰れる?」
「__ありがとうございます。はい、帰れます。」
そう言って、岸はその女性にお辞儀をし、周りをキョロキョロと見始めた。
そういえば、カバンを教室に置きっ放しだ。
取りに行かないと。
「あら、カバンならそこにあるわよ。」
長髪の女性はまるで岸の心を読んで発言したかのように優しい声でそう言い、壁の角の方を指差した。
「愛ちゃんが持ってきてくれたのよ。」
「なっ、先生。それは言わなくても良いです。」
愛の顔は少々赤面しているかのように見える。
何はともあれ、取りに行く手間が省けて非常に助かる。
「何から何までご迷惑おかけしました。体調も問題なさそうなので、帰ります。」
ここにこれ以上長居するのも、申し訳ないと岸は感じ、床に置いてあるスリッパを履き保健室の扉へと歩いて行った。
「ウチも帰る。」
そう言って愛が後ろから急ぎ足でついてくる。
ふう、とにかく今日は疲れたな。
初デュエル、本調子じゃなかったけど、無事に勝てて良かった。
それに、なんか体の悪さも嘘のようになくなったし、保健の先生の魔法ってすごいんだな。
家帰ったらゆっくり寝よう。
岸は、扉を開け最後に会釈だけして、扉を閉めた。
閉める際、養護教諭は小さな声でこれからも気をつけてねと言って優しく微笑んでくれた。
「岸今日はデュエルすごかったよ。」
簡素な風景の廊下を歩いてる途中、突然愛が話しかけてきた。
「あの、布衣野って奴の魔法もすごかったけど、それを余裕でかわす岸はさらに凄かった。それでさ、あれって何したの?属人魔法使ったの、それとも四大元素?」
愛は、自分が今日のデュエルで何を使ったか知りたいのか、こちらの顔をじっと見て、そう言ってくる。
「ふふ、それはね。__内緒だよ。」
「なんでよ」
そう言って愛は僕に持っていたカバンで思いっきり肩を殴ってくる。
やっぱりこの子は苦手かもしれない。
そうこうしている間に、いつの間にか校庭までたどり着ていた。
「それじゃあ、ウチ帰るから。岸帰る途中に倒れないでよ。」
そう言って愛は右手を上げ、頭の真上に魔法陣を出現させる。
「バイバイ、また明日。」
全身が魔法陣から出る薄い光に包まれ、愛は笑顔で手を振っていた。
そして、光が足元まで届くと彼女の姿は消えていた。
さて、僕も帰るか。
岸も愛同様魔法陣を身体の上に出現させた。
そして、瞬く間に岸は自宅の前に到着していた。
しかし、魔法って色々できて本当便利だな。
今だって、マーキングさえ付けとけば一瞬で行きたい場所に行けるんだから。
取り敢えず、家で早くお風呂入って寝よっと。
「ただいま!」
岸はそう大声で言って、家へと帰っていった。
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(校長室)
「やはり、彼には呪いの魔法がかけれていましたか。」
「はい。それに魔法を分析したところこの学園で確認されたものではないので、恐らく、新しい生徒の誰かがかけたのだと。ただ、」
「ただ?」
「彼にかかっていた呪いは非常に強力でした。その分野のスペシャリストがかけてものと遜色ない、いえ、寧ろそれよりも優れていたかもしれません。こんな魔法を生徒が使えるとは到底信じがたいです。」
「そうですか...今後岸くんに今日のようなことが起きないといいですが。」
初老の男がそう言い外を見ると、不気味にカラスが飛んでいた。
ここまでが触りの部分といったところです。
次話以降では、より細く魔法ついて書いていくと思いますので、お時間あればぜひ読んでください!
後、ブックマークや星などもつけてくれたらさらに嬉しいです笑