第2話 その名はデュエル
「それでは、最後にこの学校の特殊な制度について説明していきます。」
そう山高が言うと、クラスメイト全員はさっきまでの気が抜けた雰囲気と違い、真剣な顔つきで山高の顔を見る。
「みなさんご存知かもしれませんが、この学校にはデュエルと呼ばれる決闘システムが存在します。その名前の通りですが、教員の前であれば、学生またはクラス単位での私闘を許可するといったものです。もちろんそれはケガをしない程度のものであり、教員が危険と判断すれば、即刻その戦いを中止させます。」
山高は一言一句を聞き逃すなと言わんばかりに、ゆっくりはっきりと喋る。
「そして、この制度の大きな特徴として二つあります。一つは、生徒は禁術以外の全ての魔法が許されているということ。そして、もう一つは、私闘に勝った生徒は負けた生徒とクラスを交換することができるというものです。恐らくAクラスのみなさんは後者のルールからデュエルを申し込まれる機会が多いと思いますが、Aクラスとしての対応をお願いします。説明は以上です。この制度について何か質問はありますか。」
簡潔すぎる内容にも関わらず誰も手を上げようとしない。それも当然だ。
この学校に入る人間であったら、この制度は周知の事実であり、今さら質問することがないからだろう。
「ありませんね。それでは、本日のオリエンテーションはここまでにします。また明日もお願いします。」
山高は誰からも質問がこないことを知っていたかのようにそう言い残し、そそくさと教室を後にした。
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この学校の独自制度「デュエル」
シャルム魔法高等学園が設立時から導入している制度だ。
表面的には、入りたいクラスに入れなかった生徒のための救済措置を目的にこれが作られた。
だが、これは建前に過ぎない。
最上位クラスであるAクラスに対して、常にプレッシャーを与えるこれがデュエル制度の最大の意図である。
基本的にシャルム魔法高等学園は、魔法界の中でも特に優れた人間を輩出したいという思いが非常に強い。
優秀な人間を更に優秀にするそれがこの学校の運営方針だ。
そのため、この制度の本音は
「もし、少しでも魔法を鍛えることを怠ってみろ、いつの間にか下のクラスの人間とクラスが入れ替わっているぞ。だから、今のクラスに居座りたかったら、常に魔法の力を上げるよう最大限努力しろ。」
というものである。
更に厄介なことにデュエルを申し込まれとしても、拒否権は一切ない。
また、負けた際のデメリットも魔法の補習を受けるというものだけである。
なので、数多くの人間がAクラスを求めデュエルを申し込んでくる。
多い人だと週に1回のペースという噂も聞く。
なら、ここまで多いと、Aクラスと他クラスの生徒の入れ替えが多々行われるのではと考えられるかもしれない。
だが、実際はそういうわけでもない。
その理由は、デュエルのもう一つのルール「禁術以外の全ての魔法が許される」があるからだ。
Aクラスともなると、使える魔法の数が他のクラスの人間と比べ圧倒的に多く、まず負けることはない。
年間を通じて他のクラスからAクラスになるのは1人か2人くらいが関の山だ。しかも、クラス丸ごと取り替えることができるクラス対抗戦においては、Aクラスが負けたということは学校が始まってから一度もない。
なのでAクラスの生徒にとってもデュエルシステムを自分たちの力を試せる相手、または新魔法の実験台ができると捉えられ、意外と文句を言う生徒は少なく、寧ろ好ましく思っている人間の方が多い。
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初日の学校は岸にとって室長になること以外、無事に終わった。
授業が終わり担任の先生も消えたためか、教室が少しずつざわつき始める。
岸も初日でまだ学校のことについてほとんどわからないという不安があるため、取り敢えず誰かと話したい、そういう気持ちはあった。
だが、それができない。それは初対面の人間に話しかけるのが恥ずかしいなどといった精神的な理由ではない。
岸の体に倦怠感のような謎の違和感があり、人と話すという気力が全く出てこなかったからだ。
話たいのに話したくない。
矛盾した思いが岸の心を取り巻く。
__なんか、異常に体が疲れてるな。なんでだろう...
入学式の代表挨拶をしたからかな。帰りたくないけど、明日来れなかったら元も子もないし今日は帰ろうかな。
岸はそう思ってカバンを手に取り勢いよく立った。
そして、クラスメート達が話している中を黙々と突き進む。
明日から仲良くなるんだそう誓い、扉を開けると
「君が岸君か!!」
目の前には、何故か筋肉質、黒髪の短髪でいかにもスポーツをやってそうな爽やかな男が仁王立ちで立っていた。
そして、何故か自分の名前も呼んでいる。
「そうだけど...」
「そうか良かった。岸という生徒が入試トップ成績と聞いてね!一目でも見たいと思ってね!おっと、まだ名乗ってなかったね、俺の名前は布衣野。布衣野極だとりあえず、よろしく!」
すぐ近くにいるにも関わらず、布衣野は教室全体に聞こえるような大きな声を出す。
側から見ても非常に暑苦しい印象を持つような男だ。
疲れていることもあり岸は布衣野と、正直あまり関わりたくなかった。
なので、
「布衣野君かよろしくね!僕も君に負けないよう頑張るね!」
と、無難な返答をした。
もう家に帰ることを決心した岸は布衣野とは明日からじっくり話そう、そう思い、「それじゃあね」と言って横を通ろうとする。
が、
ガシッ
何故か、彼は自分の腕を掴んでいる。
何か、彼を怒らせるようなことをしてしまったのか。
恐る恐る布衣野の顔を見ながら
「__えっと、布衣野君どうしたの?」
小動物かのようなか弱い声で岸はそう尋ねると、
「岸くん!突然ですなないが、今から俺とデュエルをしてほしい!」
ライオンが獲物を威嚇するような勢いで布衣野は返答をした。
どうやら、今日という日は簡単に終わってくれそうにない。
岸はそう心の中で呟いた。