第13話 惨敗の後
「えっ、冗談だよね...」
「冗談なんて言わないわよ、降参よ」
「何で、どうして」
「どうしてって、私勝負する前に言ったでしょ。貴方に勝負には勝つって。別に試合には勝つ気はなかったから。」
何を言っているんだ。
せっかく僕を倒してAクラスに入れるかもしれないっていう絶好の機会なのにそれを見捨てるなんて。
負けるのは嫌だけど、こんな決着の仕方なんて悔しいじゃないか。
「まだ試合は終わってないよ。続きをやろうじゃないか。」
「貴方じゃもう無理よ。それにもう降参って言ったから変えられないよ。ですよね、山高先生。」
「__はい、彼女のいう通り、このデュエルはもう終わりです。先ほどの降参宣言で岸君の勝ちは決まってます。」
「そういうことよ。先生も結界を消してください。」
そう言い、千里さんは山高先生の方を見てウインクした。
そして、僕らの周りに合った結界が消えていった。
僕は本当に勝ったのか。
何もできなかったのに。
何でだよ。
「岸くん、私が断言するけど、貴方はもっと強くなるよ。もしかしたら、直ぐに私に追いつくかもしれない。だから、頑張ってね。」
そう言い残し、こちらを振り返らず手を振りながら千里は彼方へ去った。
「岸大丈夫?」
愛が僕のところに心配そうな顔をして近づいてくる。
何か一言返すべきかもしれない。
だが、僕は今は誰とも喋りたくない。
自分のこんなみっともない姿を見せた後だ。
早くどこかに去りたい。
岸は愛とは目を合わせようともせず、ただただ地面を見つめる。
「きょ、今日は負けちゃったけど、ほら連戦だったし、次やったら勝てるよ。」
「そうだね...」
「だからさ、ほら、元気出して。」
「うん。」
「岸...」
いつの間にか周りには何かのAクラスの面々がいた。
だが、僕は彼らの顔を見れない。
おそらく心配そうな顔をしてこちらを見ていると思うが、今の僕からしたら、それは僕をバカにしていると感じてしまうだろう。
こんなちっぽけな自分本当嫌だな。
早くどっかいこ。
岸はずっと俯いて、トボトボと校舎へと歩いていった。
だが、
「岸くん。」
突然自分の名前が呼ばれ、思わず岸は後ろを振り向いた。
「岸くん、あとで職員室に来てください。話したいことがあります。」
そういうのは、Aクラスの担任の山高だった。
「山高先生、今はそういった気分では。」
「岸くん、気持ちはわかります。ですが、1時間ほど経ったら職員室にお願いします。」
「わかりました。」
何だろう。怒られるのかな。
岸は教室に戻って、帰るつもりだったが、そうすることも出来ず、取り敢えず、図書室に向かうことにした。
校舎に戻り、長い廊下をゆっくりと歩いた。
図書室についても岸は心にここにあらずといった状態で、ただただぼーっとしている。
時計をふと見ると、約束の時間になっていた。
もうこんな時間になったのか。
早く山高先生のところに行かないと。
岸はまたゆっくりと歩き始めて、職員室の前についた。
そして、ゆっくりと扉を開けると、岸の目の前には信じらない光景が広がった。
それは、見た目に関しては、普通である。
学校にあるような机と椅子が置いてあり、そこに先生たちが座っている。
それだけ見たら、大して驚くこともない。
岸は何に驚いたかというとその大きさだ。
岸の想像をはるかに超える広さだったのだ。
岸はその大きさを確かめるため、職員室に足を踏み入れ、周りを見渡すが、職員室の終わりが全く見えない。
魔方陣を使った空間拡大魔法を使っているということを岸が理解したが、ここまで大きいのは彼にとって始めてだった。
ちなみに魔法陣は学校内で使用禁止だが例外的に職員室では使えることになっている。
なぜなら、ここには魔法学校の猛者が集まっていて、不審者が勝手に魔法陣を書きにきてもすぐばれて捕まる体。
「ああ、岸君。僕はここにいますよ。」
驚いて周りをキョロキョロ見ている岸を見つけた、山高が岸に声をかけた。
名前を呼ばれた僕は山高先生の前にいた。
「本日は何度もデュエルお疲れ様でした。」
「はあ、ありがとうございます。それで話って一体なんですか。」
「岸君、君はもっと強くなりたいですか。」
「それは強くなりたいですけど、それがどうしたんですか。」
「わかりました。それなら、」
.....
何だ。
この沈黙は。
山高は、勿体ぶっているのか、何故か数秒口を動かさないでいた。
そして、やっとその重たい口が開いたかと思うと、
「そしたら、特訓をしましょう。」
突然、突拍子も無いことを言い出した。




