第12話 デュエルに勝って勝負に負ける
「私の魔法は、創造と言って思ったことを全て具現化することができるの。だから、今から岸君を倒すとっておきの魔法を用意するから、頑張って防いでみてね。」
そう言うと、千里の右手の先には、神々しく輝く、謎の炎の球ができていた。
「あっ、それと補足で、さっき、うちのクラスの人たちが、5人で炎の合体魔法使ってたけど、私の魔法はそんなのじゃないから気をつけてね、首席君。」
ギュオンギュオン
女の右手の先の球は不気味な音をたてながら、どんどんと肥大化していく。
まずい...
あんなの直撃したら、死ぬ。
本当にまずい...
てか、思ったこと全てを具現化する魔法って何。
あの子の魔法チート過ぎない。
岸の顔一面中には汗が浸っていた。
取り敢えず今は目の前の魔法に集中しないと。
ただ、あんなの全力の僕の魔力でもどうにもできないよ。
いや、本当にどうしよ。
この空間じゃあれから逃げることも難しいし。
てか、何であんな子がFクラスいるの。
僕なんかよりも魔力あるし、絶対Aクラスに入るような生徒じゃん。
「じゃあ、いくよ首席君。どんな魔法を使ってくれるか、私は今すごい楽しみにしてるから。」
女は手を前へと降ろし、それと同時に彼女の作った禍々しい炎の球、もはや擬似太陽とも呼べるような物質が岸の方へと向かってくる。
「クッソおおおおおおおお」
岸は声を張り上げ、目の前で己のできる限りの魔法を展開する。
「ねえ、風月岸が何してるかわかる?」
「ごめんなさい。私にはわかりません。岸さんが、あの女性の方の魔法に対し、何かしているということはわかるんですが、私には岸さんがただただ両手を前に出しているようにしか見えません。」
「そうよね。岸どんな魔法使ってるかわからいよね。」
愛と風月は目の前の魔法結界内部で起きている状況に対して疑問を抱いている。
「てか、岸大丈夫かな。あんな強そうな魔法どうにかできるのかな。」
「どうでしょう。目の前のお二方の力が私よりも遥かに高いので、私では何とも言えませんわ。ただ、愛さんと同じで、私も岸さんが心配です。」
「岸...」
愛は無意識のうちに両手を胸の前で組んでいた。
岸は額にシワを寄せ、非常に苦しそうな顔をしている。
「岸君の魔法ってその程度なのね。貴方の魔法が何を使っているかってのは私にはある程度わかってるけど、改めて、貴方って大したことないのね。」
炎の物体は岸の方へとどんどんと近づいていく。
「まだ試合は終わってないよ。ここから何がおきるかわからないよ。」
「ふふ、岸君そんな顔してよくそのセリフ言えるのね。」
「でも、君の魔法を見てごらん。」
「ああ、確かに段々小さくなってるわね。でも私から見たら先に貴方が倒れる未来の方が想像つくわよ。」
ググググ
岸は歯を噛み締めながら、さらに魔法の勢いを上げる。
だが、その思いは届いていないのか、千里の魔法は更に岸に近く。
限界の限界まで絞り出す。
絶対に、これを防がないといけない。
僕はAクラスにいないとダメなんだ。
炎の球が岸の20cmほど前に来た瞬間。
「いけええええええええ。」
今まで岸が出したことないくらい大きな叫びとともに、ポンと音を鳴らしながら、それは消えていた。
「ハアハアハアハア。」
「へえ、やるじゃない。さすが首席といったところかしら。」
「はは、余裕でいられるのはここまでだよ。千里さん。今後はこっちからいかせてもらうよ。」
「岸君って、面白い冗談を言うのね。でも、それはないよ。」
ビュン
千里はいつの間にか、岸の後ろに立って、右腕で岸の首を縛っていた。
なっ。
何をされた。何も見えなかったぞ。
一瞬で移動したのか。
だとしたら、この速さ、布衣野君並みなんじゃないのか。
「ふふ、これで貴方は何もできない。もう私の勝ちってところかしら。」
くっ、やばい。
取り敢えず、ここから逃げないと。
岸はこの状況から何とか逃れようと、必死で両腕を使って千里の腕を外そうとするが、まるで何かに固定されたかのようにガッチリと絞められ、びくりとも動かない。
ダメだ。動かない。
なら、これしかない。
岸は体全体に力を入れて、魔法を使う準備をしていると、
「あら、貴方の魔法は効かないわよ。」
岸の考えを全て見透かしているかのように、千里は不気味な笑顔と共にそう言う。
「岸君。貴方がやろうとしていることは全てお見通しよ。何をしても意味ないよ。もしここで私が貴方に魔法をこの距離で使えば、どうなるかわかるよね。」
___負けるのか。
僕が負けるのか。
せっかくこの学園でAクラスに入れたのに。
嫌だ。嫌だ。
くそ。何とかできないのか。
そう思って、岸は必死に体を動かしながら魔法を使うも、状況は一向に変わらず。
「ふふ、無駄よ。もう貴方には何もできない。じゃあいくわよ。」
千里はそう言って、左腕を空に向かって上げた。
もう無理なのか。
岸が諦めていたその瞬間。
「山高先生、私の降参です。」
千里はそう言った。




