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【コラボカフェ開催】ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する【アニメ化しました!】  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜7章3節〜

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291 サファイアとダイヤモンド


「……ふふっ」


 目を細めたフロレンツィアが、扇子で口元を隠したまま、その華奢な肩を震わせて笑った。


「ふふふ、ふ、ふふ……っ!」


 その笑い声に、怒りのようなものは感じ取れない。

 けれど、それが何処までフロレンツィアの本音であるのかを、鵜呑みにする訳にはいかないだろう。


「――ああ、本当に、なんて興味深い子なのかしら!」


 ぱちん、と扇子が閉じられる。

 フロレンツィアは、甘えるような仕草で首を傾げた。


「あなたの言葉はもっともだわ。危ないものを片付けさせてしまって、ごめんなさい」

「いいえ。陛下にお怪我がなくて、安堵いたしました」


 リーシェは心からそう告げつつ、砕けたティーカップをハンカチに包む。


(本当は、ティーカップの破片どころではない武器を隠し持っている身だけれど)


 秘密はドレスの裾に隠したまま、再びフロレンツィアの向かいに座る。

 リーシェのカップに残ったお茶は、すっかり冷めてしまったようだ。それなのに、優秀な侍女たちがやってこないのは、人払いをされているからだろう。


「私は、ガルクハインに仇をなすつもりはございません。フロレンツィア陛下」


 先ほどの問い掛けを、リーシェは改めて否定する。


「私がこの人生に望むのは、のんびりごろごろ自由に生きる、とても怠惰な生活なのです」

「あらあら、そうなの? 商会をこの国の事業に引き入れ、皇太子を大神殿に連れ出して、コヨル国やシグウェル国の王族とも親交を始めたお嬢さんが」


 リーシェがこの国に来て取った動きを、フロレンツィアは把握している。

 数ヶ月の間、一度も彼女からの接触が無くとも、やはりずっと監視されていたのだ。


「今更、『皇帝の正妃』に会いに来たのは何故?」

「…………」


 柔らかな微笑みの中に、リーシェを見定めるまなざしが混ざる。


(商人の人生で浴びた値踏みでも、狩人の人生で感じた警戒でもない。騎士の人生に受けたような、敵を計り知るための観察とも違う)


 フロレンツィアの問い掛けからは、張り詰めるような緊張感とは相反して、少しの敵意も感じないのだ。


(たとえるならば、神判だわ。怒りや処罰感情とは程遠い、もっと高位の存在から、裁きを与えるために尋ねられている……)


 リーシェは小さく息を吸う。


(それなら、真実を答えるだけ)


 真っ向からフロレンツィアを見詰め返して、こう告げた。


「――アルノルト殿下のことを、教えていただけませんか?」

「…………ふうん?」


 フロレンツィアの双眸に、かすかな『興味』の色が見える。


「フロレンツィア陛下がガルクハインにいらしたのは、アルノルト殿下が四歳の頃。そんなに幼い頃のアルノルト殿下をご存知でいらっしゃるのは、ごく限られたお方だけですから」

「不思議ね。どうしてそんなことが知りたいの?」

「それは勿論……」


 リーシェは微笑みを消した代わりに、真摯な想いで口にした。


「アルノルト殿下を、お慕いしているからです」

「――――……」


 フロレンツィアが、静かにリーシェのことを見据える。

 彼女の胸元に輝くダイヤモンドが、星のようにきらきらと瞬いた。けれどもフロレンツィアの視線は、リーシェの手元に注がれる。


「……あなたの、その指輪」


 フロレンツィアの言葉に、リーシェも自身の左手を見下ろした。


「綺麗なサファイアね。誰の瞳の色か、すぐに分かる」

「……フロレンツィア陛下」

「私にも、欲しいものがあったの。皇帝陛下にもねだれなくて、宝石よりもずっと得難い……」


 フロレンツィアはにこりと笑い、お茶会の席から立ち上がった。


「――気分が悪くなったわ」


 笑顔のままで言い放たれたのは、明確な拒絶だ。


「出直していらっしゃい、花嫁さん。……私の欲しいものを当てられたら、幼少の砌のアルノルト殿下と、とある『お姫さま』のことを教えてあげる気になるかも」

「それは、もしかして……」

「そうね」


 フロレンツィアはくすっと笑い、まなざしを空の方へと向けた。


「あそこに見える塔の中なら、ゆっくり話せるわ」

「…………!」


 主城の傍らに聳え立つのは、皇帝アンスヴァルトが妃たちを住まわせていたという塔だ。


(アルノルト殿下が育った場所。……『巫女姫』である母君を、殺めた塔……)


 リーシェが何処まで知っているのか、フロレンツィアにはきっと、この反応で見透かされた。

 フロレンツィアは、そのことを敢えて推測させるような表情でリーシェに告げる。


「それではね。……婚姻の儀に参列はしないつもりだけれど、応援しているわ」


 そしてリーシェは、こちらに背を向けて歩き始めたフロレンツィアを、見送ることになるのだった。




***




「――さあさあお客さん、見て行って!」


 ガルクハイン皇都の市場は、いつもと違った活気に溢れている。

 石畳の大通りに並ぶのは、華やかな飾り付けを施した屋台だ。商人たちが通行人を呼び込む声も、店先を覗き込む国民の表情も明るく、皆どこか浮き足立っていた。


「もうすぐこの国の皇太子さま、アルノルト殿下の結婚式だ! めでたい日に飲む酒の準備は十分かい? ほら、これなんかお勧めさ!」

「こっちは祝い菓子だ。奥方さまの出身国、エルミティ国の国章を模した形だよ!」


 正午近くの賑わいの中、リーシェは灰色のローブに身を包み、身分を隠して歩いている。

 みんなが祝おうとしてくれているのは、自分たちのための式典なのだ。それが落ち着かないような、現実味がないような心境を抱きつつも、隣を歩く少年を見上げた。


「私のお忍びに付き添ってくださって、ありがとうございます。テオドール殿下」


 周りに聞こえない小さな声で、未来の義弟にお礼を告げる。


「お陰でこうして、アルノルト殿下から外出の許可も下りました! 殿下は今頃、ご公務の会食でいらっしゃるので……」

「べ、別に……!?」


 黒のローブを纏ったテオドールは、飴で固めた果物の串を齧りつつ、ぷいっとそっぽをむいてしまった。


「僕が居ても居なくても、お忍びくらい許可されるでしょ。義姉上はひとりで誘拐されても大丈夫だって、兄上はよくご存知だし……」


 確かにアルノルトは普段、リーシェがやりたいと望むことを、なんでも許してくれる婚約者だ。

 それでもそんな中で唯一叱られてしまうのが、リーシェに危険が及んだり、健康を害してしまう行いなのだった。


「本来なら、お忍びのときは『必ずアルノルト殿下と一緒に』という約束でして」


 出会ったばかりの頃、リーシェがひとりで城下に出たのが見付かった夜に、『今後は必ずアルノルトが同行する』という約束になった。


 しかし今回は、テオドールとその護衛が同行すると相談したところ、沈黙の後に『分かった』と承諾されたのだ。


(本当に、お許しいただけて良かったわ。……この外出はどうしても、アルノルト殿下がご不在の間に、すべてを終わらせなくてはならない)




挿絵(By みてみん)

ルプななコラボカフェ開催決定!

2026年2月4日〜2月23日まで、東京池袋にて開催です!


詳細▶︎

https://emocafe.jp/collaboration/rupunana/

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― 新着の感想 ―
お話が本当に面白いです。 あまりにも面白いので周りに薦めましたよ。 単行本、コミック、アニメ見ましたが他の方も言っていたように心理描写がわかるので小説が一番面白かった。 主人公以外の脇役も皆、味があっ…
フロレンツィア陛下の欲しかったものってさ、アンズヴァルト陛下からの寵愛だったりするのかな?自身はアンズヴァルトに寵愛を受けていないのに、この皇城に新しく入ってきたリーシェはアルノルトから寵愛を受けて溺…
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