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【コラボカフェ開催】ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する【アニメ化しました!】  作者: 雨川 透子◆ルプなな&あくまなアニメ化
〜7章3節〜

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289 お会いすることが出来て嬉しいです!


「――あらあら、可愛らしいお嬢さん!」

「!」


 フロレンツィアの浮かべた微笑みに、辺りの空気が華やいだ。

 リーシェより少しだけ背の高いフロレンツィアは、黒いレースの手袋をつけた両手で、リーシェの左手を包み込む。


「初めまして、フロレンツィア・アンヌ・ハインよ。こうしてお会いすることが出来て、幸せだわ」


 彼女の纏うその空気は、他者を安心させるように朗らかで、暖かいものだ。

 リーシェの指先に目を留めると、フロレンツィアは可憐に笑い、少し茶目っ気のある口ぶりで言った。


「これが噂の爪紅ね? 指先に、宝石を纏わせているかのよう」

「陛下がご存知でいてくださったなんて、光栄です。この品が完成した暁には、是非ともお好きな色をお贈りさせてください」

「まあ! ありがとう、すごく楽しみだわ」


 フロレンツィアの首飾りが、陽の光を受けて虹色に瞬いた。

 小さなダイヤモンドをいくつも連ね、それをレース編みのように連ねた造りだ。


 最下段の中央に揺れる大粒のダイヤモンドは、光そのものを集めて閉じ込めたような、鮮烈な輝きを放っている。

 それが、眩しすぎるほどに美しかった。


「さあ座って、早速お茶にしましょう。リーシェちゃんが会いたがってくれていると聞いたから、ついつい張り切ってしまったの」


 その言葉に、リーシェはにこりと喜びを示した。


「ありがとうございます。突然お呼び立てしてしまったにも拘わらず、このようなおもてなしをいただいてしまい……」

「いいのよ! アンスヴァルト陛下がお忙しくて、午前中は退屈なことも多いのだから」


 フロレンツィアに促され、リーシェは中庭のテーブルについた。

 白の円卓には、すでに準備の整ったティーセットが並んでいる。少し離れた場所に控えていた侍女たちが、会話を決して遮らないよう、静かに支度を進めていたのだ。


(完璧な仕事だわ。これが、ガルクハイン国皇后陛下の専属侍女)


 リーシェが侍女のふりをしているときも、彼女たちと顔を合わせたことはない。

 恐らくは、フロレンツィアの身の回りだけを担当している、選りすぐりの侍女たちなのだろう。


(庭園の随所にも、細やかな手入れが施されている)


 リーシェが視線を向けたのは、この中庭に面した主城の一画だ。

 その壁面には、瑞々しい緑の蔦が張っている。恐らくはこの蔦が、八の月の強い陽射しから窓辺を守り、城内に涼をもたらしているのだろう。


(なのに……)

「婚姻の儀の直前で、忙しいでしょう?」


 カップにお茶が注がれる間も、リーシェの向かいに座ったフロレンツィアは、にこやかに会話を続けてくれた。


「それなのに、こうしてゆっくり会える時間を貰えて嬉しいわ。リーシェちゃんと、早くお喋りをしてみたかったの」

「勿体無いお言葉。ですが私も、陛下とたくさんのお話を出来たらと願っていました」

「ふふ! これが午後の会なら、侍女にケーキでも焼かせたのだけれど……とはいえ、婚儀の前にたくさん食べるのは抵抗があるでしょうから、今日はお茶を味わう会ということにしましょう」

「はい! いただきます」


 少しだけ冗談めかしたフロレンツィアの言葉に、リーシェも笑って頷いた。


(皇妃というお立場であらせられながら、私にこんなにも優しく接してくださる。お話しをしているだけで、自然と心が溶けていくようだわ)

「それにしても」


 フロレンツィアはさり気なく侍女を下がらせて、自身のカップとソーサーを手にした。


「アルノルト殿下がご結婚を決められたと聞いて、私も本当に驚いたの。けれど、こんなに素晴らしいお相手に出逢われたのであれば、無理もないわね」

(ゆっくりとした話し方に、明るい声音。私を歓迎していると、すべての所作で示されている…………けれど)


 心の中で考えながら、リーシェは首を横に振った。

 そして、同じくカップを手に取る。


「滅相もございません。今後は陛下のお姿に学ばせていただきながら、この国のお役に立てるように励んで参ります」

「あら、そんなに気を張らないで? それにあなた、そもそもが……」


 フロレンツィアが目を伏せて、それでもにこやかなまま口にする。



「――誰にも言えない目的があって、嫁いで来たでしょう」

「…………」



 リーシェは微笑みを浮かべたまま、先ほどまでの感覚に確信を抱いた。


(やっぱり)


 フロレンツィアのまなざしは、柔和でありながら真っ直ぐに、リーシェのことを見据えている。


(にこやかな表情や、人を安心させるお話しの仕方も。ご自身のことを開示しながら、相手への質問を織り交ぜて、それでいて回答には窮しないような話題選びも)


 加えて多少の冗談や、上品な仕草での触れ方も。


(すべてが計算し尽くされた、社交という人心掌握術。――そして私は、『判別』された)


 フロレンツィアが纏う空気は、最初からずっと張り詰めている。

 リーシェがそれを感じ取れるのは、商人の生き方を学んだあとに、狩人と騎士の人生を経験したお陰だ。


「……そのようなお言葉をいただくのも、無理はありません」


 リーシェは微笑みを消さないまま、寂しさを少しだけ滲ませる。

 こうした振る舞いを返すことが、フロレンツィアに招かれた社交の舞台で、何よりも大切な初手だからだ。


「私は小国の出身であり、王族の遠縁でしかない身の上。明らかに不釣り合いな立場を自覚せず、アルノルト殿下に嫁ごうとしているのですから」

「ふふっ」


 リーシェが同じ場所に上がったことで、フロレンツィアの機嫌が変わったようだ。彼女はくすくすと肩を揺らして、上品に目を細めた。


「大丈夫よ、ちゃんと分かるの。これまで陛下の正妃として、たくさんの女性たちをこの城に迎えてきたんだもの」

(……このお方は……)


 フロレンツィアはティーカップに口をつけ、静かにお茶を楽しみながら、なんでもないことのようにこう続ける。


「ガルクハインの犬になると、悲痛な覚悟を結んだ王女。怒りの炎を秘めたまま、それでも国を守るために諦めた王女。必死に媚びて取り入ろうとする王女も、大国に嫁げた喜びに歪む女性も大勢見て来たわ。……すべてが空っぽで、どうでもいいと虚ろな目をしていた、お姫さまもね」

「…………」


 リーシェが欲しがるものが何か、フロレンツィアは試している。たくさんのケーキを切り分けて、一切れずつ振る舞うかのように。


 含みを持たせた物言いは、反応を見定められているのだ。

 そうした作業を、リーシェに隠すつもりもないらしい。それすらも、見透かしているということなのだろう。


「あなたは、その中の誰とも違う。……楽しそうな子」


 フロレンツィアが首を傾げ、柔らかな視線でリーシェを貫く。



「アルノルト殿下を、殺めようと思ったことはある?」

「!」



 リーシェの脳裏に広がったのは、騎士だった人生の光景だ。







挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
皇后陛下はこんな感じだろうと漠然と予想していましたが…リシェ様ならできるはずです!
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