番外編 五の数字にまつわる祈りについて(このラノ5位記念のミニ小説)
このライトノベルがすごい!2024 単行本部門5位にルプななが入賞しました!
ご投票くださった皆様、本当にありがとうございます。
こちらはお礼のミニ小説です!
その日のお忍びによる買い物でも、アルノルトはリーシェの買った荷物を持ってくれた。
リーシェが買ったもので迷惑を掛ける訳にはいかないと恐縮しても、アルノルトは決してリーシェに返そうとしないため、皇太子に果物入りの紙袋を片腕で抱えさせてしまう事態になる。
代わりに何かお礼をしようと決意して、アルノルトの隣を歩いていたリーシェは、ふと先ほどのことを思い出した。
「……リーシェ?」
「お待ちください。そういえば果物屋さんの女性から、『あとで開いてごらん』と紙片を渡されたのです」
お忍び用のローブについたポケットから、鮮やかな色の紙を取り出した。三角に折り畳まれたそれを見て、アルノルトが眉根を寄せる。
「不審物か?」
「偶然に買い物をした屋台でしたし、狙って何かされた可能性は低いかと思われますが……」
そんなことを話しながら、邪魔にならない通りの隅に移動した。お互いにリーシェの手元を覗き込みながら、紙をゆっくりと開く。
「これは、くじ? ……のようですね」
「…………」
恐らくは買い物客へのはからいで、こうしたおまけを付けているのだろう。紙片を最後まで開き切ったリーシェは、書かれていたことに瞬きをした。
「『五回の口付けで、今日の日に幸運を』」
「……………………」
思わず口に出してしまったことを、数秒後に後悔する。
(…………っ、口付け……!?)
大きな声を出さずに済んだのが、本当に奇跡のようだった。
「な、ななな、な……」
「…………必要なのか?」
「滅相もございません!!」
眉根を寄せたアルノルトに尋ねられ、慌ててぶんぶんと首を横に振る。けれどもリーシェは、心の中ではっとした。
(……けれど、アルノルト殿下に幸運は差し上げたい……)
リーシェはアルノルトに恋をしている。
こうしたささやかな祝福を、アルノルトにいくつも捧げたいのだ。
そのために生まれた一瞬の躊躇いを、アルノルトにはきっと見透かされた。つまりアルノルトには、リーシェが『幸運のための口付け』を本当は望んでいると、そんな風に見えただろう。
「――あ!」
リーシェの手が、アルノルトの手に捕まった。
彼が何をしようとしているのか、いまのリーシェにはもう分かる。それでも信じられない気持ちでいるあいだに、アルノルトは長い睫毛に縁取られた双眸を伏せた。
「…………っ!?」
そしてリーシェの指先に、アルノルトのキスが落とされる。
市場の人混みがどよめいたのは、決してリーシェの気の所為ではないだろう。アルノルトはリーシェを一瞥して、なんでもないことのようにこう告げた。
「――あと四回」
「ど、どうかもうこれでお許しください……!!」
先ほどのたった一度にだって、五回分の破壊力が込められている。
リーシェは本気でそう思ったのに、結局のところ全部で五回のキスが落とされて、満身創痍になってしまった。
本当に幸運が訪れるかどうかの検証結果は、未来できっと分かるだろう。
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