番外編 リーシェがくすぐったいお話
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アニメチームの皆さまが、高い士気と大きな愛情を持って、仕上げてくださいました!
私も頻繁に打ち合わせなどに混ぜていただき、伏線や構想などすべて共有した上で作られたアニメ、是非ご覧ください!
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※こちらはTwitterに載せていたものの再録です。
※12月28日、アルノルトの誕生日を記念したSSですが、本編はアルノルトの誕生日に直接関係のある内容ではありません。
夜会も無事に終わった時刻のこと。
招待客たちの去った皇城で、隣を歩くアルノルトの腕に手を添えたリーシェは、我ながら上機嫌だった。
薔薇の花色をしたドレスの裾を、柔らかな夜風が揺らしてゆく。回廊の左右に広がる庭園には、この季節だけの花々が咲き乱れていた。
もうじき夏が始まるのだと感じさせる夜風は、リーシェの髪をも撫でるのだ。
「本当に、素敵な夜……」
夜会をたっぷり満喫したお陰で、酔ってもいないのに頬が火照っている。リーシェは隣のアルノルトを見上げ、微笑んで告げた。
「アルノルト殿下。今夜も一緒に夜会に参加してくださって、ありがとうございました」
「妻が社交の場に出るにあたって、同席するのは当然のことだと思うが」
「でも、殿下は夜会がお嫌いでしょう?」
オリヴァーから聞いた話によれば、リーシェがこの国に来る前のアルノルトは、ほとんど夜会に出なかったらしい。
女性をエスコートしたことや、ダンスを踊ったことも無かったそうだ。
リーシェをこんなにも自然に伴い、手を引いてくれる様子を見ていると、アルノルトに出来ないことは無いのだと実感する。
「私の人脈作りや商いに、付き合わせてしまっている自覚はあるのです。ですから……」
「言っただろう」
青い瞳でこちらを見下ろしたアルノルトの声音は、いつもの通り淡々としていた。
けれども確かに穏やかな声音で、はっきりとリーシェに告げるのだ。
「俺はお前の望みを支え、力になり続けると」
「……!」
その言葉に、思わず目を見張る。
なんだか妙に気恥ずかしく、咄嗟に俯こうとしたその瞬間、リーシェは耳飾りに違和感を覚えた。
「あ!」
「……どうした?」
アルノルトがすぐに足を止めてくれる。
揺れるタイプの長い耳飾りが、珊瑚色をしたリーシェの髪に絡まったのだ。
「ごめんなさい。引っ掛かってしまったようで……」
すぐに解こうとしたものの、夜会用に手袋を嵌めた手では、仔細を確かめることが難しかった。
(駄目だわ、手袋を外さないと。この手袋、手首のところがリボンで結ばれていて、外すのに時間が掛かるのだけれど)
アルノルトを待たせるのも心苦しいため、先に離宮へ戻ってもらおうとする。
けれどもそのとき、黒い手袋をつけていたアルノルトが、それをするりと外してみせた。
「!」
リーシェの手袋より容易に外れて、アルノルトの大きな手が露わになる。
骨張っていて形が良く、けれど剣を扱う人間特有のおうとつを帯びた美しい手が、リーシェの方に伸ばされた。
「――触れるぞ」
「ひゃ……っ」
その指先がくすぐったくて、リーシェは思わず声を上げる。
「留め具に絡まっている。少し待て」
「しょ、承知しま……ひわわっ!!」
ほどいてくれるアルノルトの指が、耳飾りやリーシェの耳殻、それから髪にやさしく触れた。
「……っ」
大人しくしていたいのだが、どうしてもそれがくすぐったい。リーシェは僅かに首を竦め、くすくすと押し殺しながら笑った。
「……ふっ。ふふ、ふ……!」
「……リーシェ」
「だ、だって、くすぐったくて……!」
あまりじっとしていないリーシェのことを、アルノルトが窘めるように名前を呼ぶ。
そこには仄かに叱るような音が混ざっていて、それなのにとてもやさしかった。
それから小さな溜め息のあと、耳元にあった違和感が消える。
「ほら。……これでいいか?」
「ぷあ……っ」
止めていた息を吐き出したリーシェは、アルノルトの気遣いが嬉しくて微笑んだ。
「はい、もう大丈夫です! ……ありがとうございました、殿下」
「……」
するとアルノルトは、じっとリーシェを観察するように目をすがめる。
「どうかなさいましたか?」
「いや」
それからなんでもないことのように、こんなことを口にするのだ。
「――いつの間にか、随分と無防備に触れさせるようになったと思っただけだ」
「!!」
恐らくは、意地悪でもなんでもなかった。
ただ単に、揺るぎない事実を告げるだけのものだ。しかし、だからこそ自らの変化が浮き彫りになったようで、リーシェの頬が一気に熱くなる。
(……それはつまり、私がアルノルト殿下に…………)
これ以上、深く考えるのは危険な気がする。
リーシェは慌ててアルノルトの後ろに回ると、彼の背中をぐいぐいと前に押すことにした。
「は、早く私たちの離宮に戻りましょう……! 連日の夜会にお付き合い願ってしまったのですから、殿下には早くおやすみいただきませんと……!」
「分かったから、押さなくていい。……帰るぞ」
「ううう……」
振り返ったアルノルトに促され、リーシェはおずおずと彼の腕に掴まった。
そうして夜の皇城内を、ふたりで歩いて帰るのである。
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