表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【7章連載中】ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する【アニメ化しました!】  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜6章〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

273/319

247 似ている

「あるいは母后が嫁いで来たあとに、直接会ったことがある人間だということになるな」


 先代の巫女姫ともなれば、何処かに肖像画などが存在していてもおかしくない。

 だが、先代巫女姫こそがアルノルトの母親であることは、大きな秘密として隠され続けているものだ。


 あのフードの男が巫女姫としてではなく、アルノルトの生母としてその顔を知っていたとしても、そんな人物は限られてくるのではないだろうか。


「父帝の妃たちが暮らしていた塔は、父帝の居住区を経由しなければ出入りが出来なかった」


 アルノルトの言葉に、月を背にした現皇帝の影を思い出す。


 静かだが凄まじい殺気を纏ったあの男性と、至近距離で対面した訳ではない。

 にもかかわらず、あの場の空気は凍てついて、呼吸すら上手く出来ないほどだった。


「行き来をするのは世話係の女性だけだったが、いまは妃も世話係も、全員死んでいる」


 不穏当な状況に眉根を寄せつつ、リーシェは答える。


「……あの男性が殿下のお母君を知る機会があるとすれば、やはりガルクハインにいらっしゃる前に巫女姫として……」

「その場合は、クルシェード教の幹部と関わりがある男ということになるな」


 リーシェはこくりと喉を鳴らした。


「クルシェード教との繋がりと、遠い海を渡る航海技術を持ち、貴族たちを相手にした商いが出来る人物……」


 そんな風に口にしてみると、なんだか既視感を覚える。


(……そこに加えて騎士のような戦闘術と、狩人のような身のこなし。商人、船、クルシェード教関係者を知る人……なんだか)


 僅かに顔を顰め、内心で訝しんだ。




(私に、似ている――……?)




 無意識に、アルノルトの手をきゅうっと握り込む。


「リーシェ?」

「……いえ」


 緊張したことは気付かれたものの、アルノルトでもその理由までは読めないだろう。


 それでも青い瞳にじっと見据えられると、何もかも見透かされてしまいそうだ。無表情のアルノルトの双眸は、濡れた刃のように透き通っている。


「サディアスと名乗るあの男性がただの奴隷商ではないことは、もはや明白です」


 リーシェは先ほどの考えを誤魔化す代わりに、並行していた別の思考をアルノルトに差し出した。


「この国際的な人身売買事件は、想定を超えて入り組んだ問題で……こうなるとやはり、気掛かりなのは」


 ここしばらくの出来事を思い浮かべながら、口にする。


「あの男性は、ガルクハインに害をなすことが目的である人物である可能性です」


 アルノルトは、ほんの僅かに目を伏せた。


(西の大国ファブラニアの王室は、ガルクハインの贋金を作って流し、国力を弱らせようとしたわ。国王ウォルター陛下ご本人の考えではなく、入れ知恵した存在があるはず)


 それだけではない。


(その存在は、私の元婚約者であるディートリヒ殿下にも、計略を手に近付いていて……。恐らくはこれすらも、アルノルト殿下に危害を加え、ガルクハインを陥れるための罠)


 ガルクハインは強力な軍事力を持った大国であり、この世界に存在する、すべての国の歴史を左右できる。


 その事実は、未来を見るだけでも明らかだ。

 それを警戒する者や、利用したいと考える者、滅ぼしたいと願う者だっているだろう。


「あの男性は、きっと……」

「――――……」


 アルノルトは目を眇めたあと、体勢を変える。


「いずれにせよ」

「ひあっ?」


 思わず声を上げてしまったのは、アルノルトがリーシェの顔を覗き込み、お互いの額がこつんと重なったからだ。


「まずは、お前の望みを叶える方が先だ」

「の、望みとは、やはり……」


 アルノルトは、繋いだ手の力をするりと緩めた。

 それぞれの指を絡めるのではなく、リーシェの手をやさしく包む繋ぎ方に移しながら、こう続ける。


「人身売買の被害者を、全員無事に救出したいのだろう。であれば、それに注力する方が効率が良い」

「仰る通りでは、ありますが……」


 指先が、ゆっくりとリーシェの爪の付け根をなぞる。

 その触れ方が、少しだけくすぐったい。それはまるで、ささやかな手遊びのようだ。


 アルノルトがこんな風に人に触れるのだという事実を、前世では想像したこともなかった。


「今日のお前は、体に負荷を掛け過ぎだ」

「う。……アルノルト殿下にだけは、言われたくないです……」


 今回はリーシェの方が正論だ。リーシェが拗ねた顔をすると、今度こそ繋いでいた手が離れた。


 かと思えばアルノルトは、その大きな手でリーシェの頬に触れる。


「んん……っ」


 耳の傍をくすぐるように指で辿られ、リーシェは反射的に首を竦めた。


 けれども抵抗はしなかったことを、きっとアルノルトにも気付かれている。そんな恥ずかしさに襲われながらも、リーシェはおずおずと彼を呼んだ。


「アルノルト殿下」

「なんだ」

「……今日は少し、甘えたさんなのでは……?」


 すると、アルノルトはひとつ瞬きをして、リーシェを見た。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 殿下、おそらく人生で初めて「甘えたさん」と呼ばれる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ