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【7章連載中】ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する【アニメ化しました!】  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜6章〜

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244 この次も

(お母君や、生まれたばかりのご弟妹を手に掛けることを強いられて。……その出来事すらも当たり前のように、ご自身の罪として認めていらっしゃる)


 リーシェから見れば、それは紛れもないやさしさだ。


「……ご幼少の砌、多くの血が流れた、その日々が」


 涙の雫はまだ、零れていない。

 リーシェは声が震えるのを堪えながら、ゆっくりと紡ぐ。アルノルトは、リーシェが拙く刻む言葉の先を、穏やかに待ってくれていた。


「殿下にとっての、婚姻なのですね……」

「…………」


 彼の父は、戦争で世界中を侵略した。


 そうしていっときの和平と引き換えに、幾人もの花嫁を人質として差し出させた。

 生まれた赤子の殆どが殺され、妃たちの怨嗟の声が渦巻く中で育ったアルノルトは、青い瞳でその光景を見据えてきたのだ。


「だからこそあなたは、妃ではなく私という人間を尊重し、自由と望みを与えて下さる……」


 アルノルトは、緩やかにリーシェの髪を撫でた。


「そうではない」

「……?」


 その指が、リーシェの耳や頬にも触れる。

 アルノルトの首筋に顔を埋めていたリーシェが顔を上げると、互いの視線が重なった。海の色をした瞳が、リーシェをずっと穏やかに見詰めてくれていたのだ。


「俺はただ、好ましいだけだ」


 アルノルトはリーシェの後ろ頭に手を回し、改めて抱き寄せる。


「お前の自由が」


 耳元で囁く掠れた声音は、貝殻から聞く美しい潮騒のようだ。


「――誰もが望む最善のために、あらゆるものを巻き込んで手を引く、その強さが」

「……っ」


 アルノルトはいつもそうだった。


 リーシェがこうありたいと思う生き方を、当たり前のように肯定してくれる。

 彼自身はそれが難しいであろう人生の中で、リーシェが何度人生を繰り返しても大切にしたいと望むもの、リーシェが選んだ生き方を大切にしてくれるのだ。


(……たとえ、私と敵対しようとも)


 コヨル国との同盟を否定した際、あるいは聖国で大司教さまを殺めようとした際ですら、リーシェが足掻くことを禁じることはなかった。


(強くて、やさしいお方)


 アルノルトは今も、花嫁としてこの国にやってきたリーシェのことを、自身の目的に巻き込んだと考えているだろうか。


(……この人に恋をしていると、伝えたら……)


 よぎった思考を、リーシェはすぐさま押し殺す。


(――いいえ、だめ)


 恐らくは、それでもアルノルトの考えは変わらない。

 締め付けて重い枷となり、歩みの邪魔にだけはなりながらも、決して止めることは出来ないはずだ。


「……私の願いを、ひとつだけ」


 叶えて欲しいとは口にしない。

 それでもアルノルトに告げたくて、リーシェは紡いだ。


「もしもこの先。私が、たとえば二十歳になる頃に、命を落とすことがあったとして――……」

「聞きたくない」


 アルノルトの声が、リーシェの言葉を遮る。

 まるで我が儘を言うかのような物言いも、リーシェの話すことを拒むような声色も、アルノルトが普段見せることはないものだった。


 けれどもリーシェは、それを叶えない。


(ごめんなさい)


 アルノルトが願ってくれたのに、その先を告げる。

 自らの命がとても脆いことを、リーシェは痛いほど知っていた。


「……たとえ、死んでも」


 これまでのすべての人生で、リーシェが殺される理由となった男だ。六度目は直接手に掛けられた、そのときの痛みを思い出しながら祈る。



「その次の人生も、アルノルト殿下のお嫁さんになりたいです……」

「――――……」



 珊瑚色の髪を梳いてくれていたアルノルトの指が、息を呑むかのように止まった。


(この人生も、生き延びたいという願いが叶わなかったとして)


 リーシェは、指輪を嵌めた方の手でアルノルトの手を取って、互いの指同士をきゅうっと繋ぐ。


(そのまま私の命が終わるのではなく。また繰り返すことが、出来たとしたら)


 これまでのリーシェは、死んであの日に戻る度、たくさんの可能性に胸を躍らせてきた。

 積み重ねてきた日々を失って、また始まりに戻ったのだとしても、目の前に広がる景色の全てが選択肢なのだと感じていたのだ。


 けれどもリーシェはもう、七回目の人生で与えられた、このたったひとつを願ってやまない。


(……八回目の人生も。九回目の人生も、十回目も)


 他を選ぶことは、もう二度と出来ない。

 そのことを、不自由だとすら思わなかった。


「アルノルト殿下の、お傍に居たい」

「……リーシェ」


 これから先のどんな人生にも、アルノルトが居てほしい。

 こうして手を繋ぎたいと、そう望んでしまいながら、祈りを重ねる。


「お願い、殿下……」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] リーシェの言葉、作品タイトルの解釈次第では随分不穏なものに感じてしまう……。
[一言] ああ……筆舌に尽くし難いこの感情を敢えて言葉にするならば『綺麗だ』になるだろう。 この作品に出会えた事に感謝する。 二人の行く末が希望と喜びに満ちたものでありますように……
[一言] 号泣_| ̄|○
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